小憩の勇者
という訳で。
リーナによってテントに押し込められたシスは、とても眠るどころの話では無かった。
結局、リーナとビトレイの戦いがもう一度勃発するとまたシスが無理をしなくてはならなくなる、ということで再線は防いだ訳だが、それだけの時間を経てもなお、シスには残り続けていた。
――ビトレイの唇の感触が。
そもそも、あれをファーストキスと見なすには、シスに一度もキスの経験が無いという条件が満たされているかが疑問だ。
……だがビトレイにとって幸運なことに、シスは今までしたことは無かった。
つまり、ビトレイは叶わぬ想い人の初めてを奪うことに成功したのである。
これだとシスが一方的に損した用に見えるが、そういうことでも無かった。
シスにとって、同じ星術を扱う(事もある)ビトレイはリーナとは比べものにならないが、一行の中でわりと気心の知れた相手と言えたのだ。
シスは自分から恋することはあっても、逆に恋された経験は無い。
村ではそこまでモテはしなかったし、その後色恋沙汰など起こるべくも無いラザベイ・ラボトリーで過ごしたのだからそれも当然と言えよう。だがリーナとは、そのラザベイ・ラボトリーで出会っているのだが。
ともかく、シスは恋される事については疎いのだ。よって、ビトレイが自分の恋している事に今の今まで気付いていなかったし、ラザベイ・ラボトリーの記憶を思い出していないリーナが自分の事を好きになってくれているかどうか自信が無い。
そんなウブ少年シスは生まれて初めての告白に相当する行為に悶々としていた。
(……ビトレイは俺が好き、だったのか? ちょっと待て、本当にそうか? さっき二人は賭け勝負をしていたみたいな事を言ってた、罰ゲームだった可能性は?)
……いや、半信半疑で本当にビトレイが自分の事を好きなのかどうか考えていた。まるで告白ドッキリを仕掛けられた魔法学校の生徒のようだ。
布団を頭まで被って震えるシスに、リーナとビトレイが戦っているのを見て一瞬でシス絡みの色恋沙汰と悟り、ニヤニヤ笑いでシスを焚き付けたワンが訊く。
「どうだった? 何かされたか?」
心配そうな言葉に載せられたニヤニヤ笑いが聞こえてきそうな声色に、シスは思わず言い返す。
「おいワン、お前分かっていたよな!?」
「何の事だ? 俺はアチェリー絡みの事ではなさそうだからお前に振っただけの話だぞ?」
ニヤニヤ笑いが載った声色で言われても説得力が無い、と思いながらも、シスは反論することが出来なかった。
ビトレイとリーナはナタージャに叱られていた。
「リーナ? 弁明はある?」
「さ、最初の方は本当に私の意識ではなかったの! その後体の制御は取り戻したけれど……」
「ふうん、それで?」
ナタージャの怒りがこもった声で威圧されるリーナ。付き合いの長いリーナはもうこの状態のナタージャはどうにもならないことを悟っていた。
「その後は、自分の意志で戦いました……」
「そう。ビトレイは?」
しかし、それを知らないビトレイはなんとかこの窮地を脱そうと、言い訳を重ねる。
「……リーナが操られている、と思ったし……。……たぶん、リーナのあれを撃ち抜けたのは、私の『封鎖銃番』だけだったし……」
「、……」
怒気がどんどん大きくなることにビトレイは最後まで気付くことはなかった。神格化したリーナを圧倒したビトレイも、『走馬思考加速』を使っていない今はは思考が十分な速度にならないようだ。
「……それに、途中からは明らかに私を狙って来たから……」
「それが戦っても良い理由になるの?」
静かな、しかし怒りを孕んだ声がビトレイの言葉を黙殺した。その声で、やっとビトレイはナタージャが激怒していることに気付いた。リーナがそれに気付いていて、言い訳をあまりしなかった事にも遅れて気付いた。
(……諦めよう。……このナタージャを宥めるのは無理だ……)
そんな感じで、この日の一行は過ごして行った。
次の日。
少女達のテントの中で、サリアがこう切り出した。
「結局、どっちが勝ったの?」
ブブッ、と当事者二人が吹き出す中、マックスの一件以降恋を自覚しはじめたアチェリーが、しかしその低めの精神年齢のまま訊く。
「どっちがシスのお嫁さんになるのー?」
その直球の言い方に、ブブブブッッ、と当事者二人が再び吹き出した。
「お、お嫁さん……!?」
だが動揺するリーナとは対称的に、ビトレイが驚いたのは突然言われた事と、その直球さだけだったらしい。ビトレイはいつものように事実を述べていく。
「……シスの正妻になるのはリーナ……。私は勝負に負けた……」
「そうなの? 私はビトレイが押しているように見えたけれど……。逆転でもされたの?」
驚いたようにサリアがいう。
確かに、あの戦闘では序盤はリーナ有利だったが、『走馬思考加速』等でリーナの攻撃が当たらなくなった頃からビトレイが押し始めたように見える。後半は、『封鎖銃番』の攻撃を振るうビトレイの対策にリーナはかかりきりで、反撃は出来ていないように見えるかもしれない。『因果書換』は目に見える攻撃ではないから分からないのだ。
「だ、だから“戦闘に負けて勝負に勝った”、て感じね……」
アチェリーの言葉のショックから回復したリーナが補足して、
「というかビトレイ? 正妻は、ってどういう事? 確か一夫多妻は認められていなかった気がするけど……。まあ詳しく調べた訳では無いけれど。」
ビトレイの言葉に突っ込んだ。
「……私はあると信じてる。」
「んー? どういうことー?」
ビトレイの言葉は、アチェリーには分からなかったようだ。
つまりは、ビトレイが譲ったのは正妻の権利であり、つまりは
「……私がシスを独り占めするのは……無理だと思っただけ。 ……リーナが独り占めして良いとは言ってない」
「ちょっ、えっシスを譲ってくれたんじゃないの!?」
リーナが悲鳴のような声を上げる。
「……? ……だから一番を譲ったよ? ……シスの気持ちはどう考えてもリーナにある。……一番は無理。」
「確かにそうだねー! シスはリーナが一番だよー!」
テントの中に笑い声が広がった。
そして。
次の日。
ナタージャから体力と魔力の回復を告げられたシスは、一行を集めて宣言した。
「さぁ、最終決戦の始まりだ!」
読んで頂いてありがとうございます!
少しリアルが忙しくなるので、次の更新は12月4日頃になります。
次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




