取合の勇者
「認可されていない人間を発見。神域から排除します。」
純白に染められたリーナの発した言葉に、すぐに反応出来る者は三人の中にはいなかった。
純白に彩られ、羽が生えて宙に浮いて三人を睥睨するリーナはまさしく天使と形容できるほどの姿だったが、その非人間的な動作が天使と例えることを禁じていた。
例えるなら天使の彫像がひとりでに動き出した、というような、神聖さは感じるが、しかしそのものではないという、言いようの無い違和感を三人に叩き付ける。
そんな違和感に囚われた三人へ、その攻撃は襲い掛かる。
テントに背を向け三人に目を向けるリーナは、その腕を非人間的に動かして、三人の方を指差す。
「『世界組成消去』」
同時、先と同じくリーナの声で、しかしどこか歪みの入った声で告げる。
瞬間。
あたかも空間を抉ってそこに埋め込んだように、時空に割り込んだように、純白の光線が空を走る。
回避出来たのはただの偶然だった。
リーナの呟きに悪寒を感じて反射的に跳んだだけだ。
今の攻撃がそれさえ織り込んでいれば確実に当たっていた。
「……リーナ……?」
ビトレイは呟く。
そして、攻撃された地点を見て後悔した。
ビトレイが一瞬前までいた場所は、、純白の光線が刺さったままだったからだ。
「……エネルギー照射、じゃなくて……、物質を投げた……?」
ビトレイがそう考えると同時、刺さっている光線に変化があった。
まるで存在が消滅したかのように、光線の存在ががどんどん薄くなり、だんだんと透明度を上げたかのように綺麗さっぱりなくなったのだ。
後には何もない『無』だけが残る。
驚きはそれだけでは終わらない。
次の瞬間、ゴンッッ!! という音と共に『無』の空間が消えた。
地面は地面に空気は空気に、戻る。
だがそれは、新しい地面や空気が出来た訳ではない。
時空を削られた世界の修復力が働いて、周囲の地面や空気の圧力で、穴を埋め直しているだけだ。
つまり、あの純白の光線が放たれるたびにこの星の地面は下がり、空気密度は低くなっていく。
「排除に失敗しました。引き続いて排除行動を続行します。『世界組成消去』」
再び放たれる純白の光線。何とか回避しながらゆっくりと流れる意識の中で、ビトレイはそれを見つける。
(……光線が触った所が消えている……。光線が世界を消去しながら進んでいる……?)
本当にそうならば、当たったら最後防御も対策も関係なく世界から消去される。純白光線の被害を受けない為には、回避し続けるしか方法はない。
しかし、純白光線の対策よりも考えるべき事がまだある。
それは、
(……リーナはどうなっちゃったの……? ……元に戻す方法は?)
ということだ。
不規則に動く向きを変えながらビトレイは考える。
(……リーナから放出されているのは、見たことのない力の波動……。……多分、何らかの方法を用いて力をリーナの中に召喚しているんだ……。対象は、人間より高次的な存在……。多分、大高次存在の力を大量に取り込み過ぎて、一時的に擬似的な高次存在に成っているんだ……。擬似的、つまりは下位の高次存在だから、高次存在の基本的、原始的行動原理がリーナの意識を上書きしている……のだと思う。)
考えながら手癖で『マルチファイラー』を構え、そして気付く。
「……撃てない。……回避するしかないのか……」
リーナに向けて攻撃は出来ないことに。
「っ……」
純白光線は撃たれたが最後ほぼ終わりだ。狙いをつけられないようにランダムに移動を繰り返しながらナタージャとサリアの方を見ると、二人もどうすれば良いか分からず行動しあぐねているようだ。
(……シスとワンはさっき寝たばかり……。頼る訳にはいかない、いや寝ていなくても頼ってばっかりいられない、そう決めたはず……。それに。)
ビトレイは少し笑って、
「……そんな所にいると、私がシスを取っちゃうよ……?」
そう言った。
そんなビトレイの言葉が聞こえたのか、リーナは再び純白光線を放とうとする。
そこへ。
「『実体破壊』……発射」
回避地点を予測して放たれた純白光線は、ビトレイの発射した魔法銃の弾に当たり、僅かに軌道を変えて突き進み、
「820式『近接戦闘行動加速』」
起動した一種の魔法銃によってビトレイの体が加速され、その窮地を脱する。
「っ……!」
放たれたら直進する純白光線の性質を見切り、ギリギリの所をなんとか回避する。そのためにリーナの前では一度も使ったことのない魔法銃『近接戦闘行動加速』を使い回避した。ナンとビトレイの戦いの時に使用していたその魔法銃は、移動する為の初動が生み出したエネルギーを増幅して加速し、更には人体にかかる負担をシャットアウトするものだ。たとえリーナがあの状態で以前の記憶を保っていたとしても、ビトレイが後衛に特化しているとリーナが思っていれば、この結果は予測できないと考えたのだ。
だが、ビトレイが回避した先には既にリーナが回り込んでおり、
「『世界組成消去――双翼範撃』」
どこか歪んだ声で、告げる。それはビトレイの言葉への意趣返しなのか。
神力で作られた、翼単体でみれば天使のものと認められそうな、神聖さ、神々しさ漂う双翼が、ビトレイを孅滅せんと暴虐の嵐となって襲い掛かる。
その翼の一振りが、純白光線と同じ性質を以て同等以上の威力を生み出し、その一振いを多重に、幾重も、絶え間無く、リーナの目の前という範囲に叩き込む。
その攻撃は、次元ごと空間を消去する。それが秒間20発以上の速度で放たれたのだ。世界に存在する全ての物質、その何を使おうが、何を組み合わせようが、防ぐことは不可能なはずだった。
いくら防具を来ていたからと言っても、人肉など木端微塵に砕け散っている。そうでなければおかしい。
「ビトレイーーー!」
「………!?」
今まで全く何も出来ていなかったナタージャが悲鳴をあげ、サリアは驚愕に戦く。
だが。
砂埃すら消去する、純白の翼が振るわれる事で起きていた白の残像が晴れると同時、ナタージャの目に飛び込んできたのは――。
無傷で佇むビトレイの姿だった。
リーナが知らないビトレイの星術銃、というより補助道具の一つ。ナンと戦った時は気を失っていた為、覚えているはずがないその星術銃の能力。
「……1024式『未来演算者』」
と、およそ一分前のビトレイは呟いていた。
ビトレイの片眼にはめられたコンタクトレンズに情報が、未来演算結果が表示される。
だがそれだけでは足りない。情報を入手しても正しく判断する時間がなければ意味がない。
だから。
「『走馬思考加速』、有効化」
どちらかといえば『未来演算者』のサブの機能。
脳の恐怖を感じる器官に刺激を与え、意識下で強烈な危機感を覚えさせることで走馬灯の現象を人工的に作り出して思考を加速する。
『未来演算者』を十分に扱うためのサブの機能が、数百分の一秒の世界へとビトレイを誘った。
次の瞬間だった。
秒間20発の世界を削り取る攻撃がビトレイを襲う。
しかし。
世界を消去する攻撃は、ビトレイを掠りさえしない。
加速した思考でビトレイは考える。
(……さっき純白光線に『実体破壊』を打ち込んだ時、僅かに、でも確かに純白光線はその向きを逸らした。つまりは、神力も無敵な訳じゃない……。魔力で、干渉できる……!)
一秒を数百秒と間違う程思考加速されているビトレイに、秒間20発の攻撃など生温い。
『未来演算者』を使い安全域に体を押し入れ、なければ『実体破壊』で狙撃し僅かな隙間を作って生き延びて行く。
◇◇
ラザベイ・ラボトリ―内Project『Braver』、『超越勇者部署』報告書
『半神霊化』について。
模倣勇者を制作することには成功したが、本家の勇者を超えなければProject『Braver』は成功とは言えない。
そのため、人類の持ちうる最高戦力を超えるべくProjevt『WC』とは別のアプローチで進むことにした。
こちらで採用したのは召喚魔法を基礎に据えた、神の力を人の身に降ろすことだ。
もともと、勇者は神から力を授けられるほど、神への親和性が高い。何をもって親和性が高いかを判断するかを研究したところ、やはり姿形であることが判明した。
つまりは、勇者は神と呼ばれる高次的存在と輪郭が似ているのだ。
ならば人造勇者も、輪郭が似ている者が完成体となることが予想できる。
それを逆手にとって、召喚魔法で扱う、依代、供物等の召喚物のアドレスを指定する物を自らの肉体とし、人の身に神力を注ぎ込むことで人間を超えた力を発揮することができるはずだ。
だが神力を注ぎ込みすぎると存在が下等な高次的存在に近づく恐れがあり、注入する神力の量には繊細な調整が必要とされる。
◇◇
純白の殴打を切り抜けたビトレイは宣言した。
「……リーナは何らかのリンクを使って高次的存在の力を中に引き込んでいる。……ならそのリンクを切れば良い。……・魔力が神力に干渉できることは確認した。リーナを囲えばリンクは遮断されるはず……!! 『隔絶遊離』」
ビトレイはリーナに向かって慣れない魔法を使う。
ビトレイは魔法銃を使っているが、別に魔法が使えない訳ではない。想定された範囲内では、魔法銃の方が魔力効率がよいから魔法銃を使っているだけだ。
本来は、相手の物理・魔法攻撃から身を守る為の結界がリーナを覆う。
しかし、ビトレイの理論は穴だらけだった。
リーナのリンクが現実的な空間を通っているのか、それが疑問であり、他にも色々と理論矛盾がある。
ビトレイのそれは推論ではなく願望に近い物だった。
だが。
「……そんな所にいると、私がシスを取っちゃうよ……?」
(……! そんなことはさせない! ……?)
ビトレイの言葉にリーナの意識は覚醒していた。
そこで自覚したのは自分の意志とは無関係に動く、自らの肉体のようで肉体ではないような体だった。
(また、乗っ取られちゃったか……)
リーナの意識はワンに操られた時の経験を活かしてリーナの意識を上書きしている意識を調査にかかる。
(また、あんな恐怖を味わうのは嫌……! っ……ビトレイ!)
だが、逆にワンが植え付けたあの仮想恐怖がリーナを意識に侵入することを躊躇わせる。しかしその時。
ビトレイに致死の攻撃を放つ自分を自覚した。
意識の中で悲鳴を上げるリーナだが、その暴虐を全て切り抜け、生き抜いたビトレイに逆に闘争を刺激される。
「……リーナは何らかのリンクを使って高次的存在の力を中に引き込んでいる。……ならそのリンクを切れば良い。……・魔力が神力に干渉できることは確認した。リーナを囲えばリンクは遮断されるはず……!! 『隔絶遊離』」
(ビトレイも頑張ってる、私もこの状態から早く抜け出さないと! ……ビトレイにシスを奪われない為に……!!)
リーナは今まで躊躇ってた意識の侵入を、遂に成し遂げた。
そして、リーナに追加で注入される神力の量が少なくなる。
純白に染められたリーナの体が、神力が、今までとは違う意志の力に導かれて行く。
ビトレイは魔法結界の維持に力を注ぎ、空へ浮くリーナは何故か動きを止める。
――遂に。
純白に染められたリーナの体が元の色を取り戻していく。
いや、彩色されていく。
神力が抜けていくのではなく、増えてもなお、支配下におかれていくのだ。
誰の?
「シスは、渡さない!」
もちろん、リーナのだ。
神とは、世界の理を示すものであり、捩曲げる者でもある。
つまり、その本質は強烈な意志なのだ。
神力を手に入れ、ビトレイにシスを渡さないという意志を、繋いだリーナは、神霊ではなく、既に言うならば神格となったのだ。
『神格化』。
ラザベイ・ラボトリーが想定すらしなかった力をリーナは手に入れた。
「……シスは私がもらう」
「嫌! シスは渡さない!」
魔王との戦いの直前に、女子の戦いが勃発しようとしていた。
読んで頂いてありがとうございます!
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