取得の勇者
一行は悪魔を倒した後、一度ミナル森に撤退した。
クラクナ火山は一つの魔王の大きな戦場だ。一回入れば、どちらかが倒れるまで戦いは終わらない。
そんな戦いをする前に、体力、魔力等戦いに関係するパラメータを全回復させておくのは必須事項と言えた。
そんな中で、回復の度合いで一行の強味と表裏一体の弱点が明らかになった。
「失われた魔力がほとんど回復してない……。どうして?」
悪魔との戦いの次の日。魔力がどれほど回復しているか確かめようと、主に病気の人のどこが悪いか探る時に使う、病状解析魔法をナタージャが使った。この言葉はその結果を見たナタージャが発したものだ。
「……というかシス! あなたさっさと寝て! 体力がレッドゾーンじゃないの、何故今動けているの!?」
ナタージャが見た解析結果は、酷いものだった。
魔力は枯渇状態から変わっておらず、肉体の耐久力、筋力、筋組織に溜まっている乳酸量、筋組織の破断具合等から総合的に導き出される体力、というパラメータも寝たきりの病気に罹っている人とほぼ同じレベルにまで落ち込んでいた。
魔力が無いときに『滅魔帝』を使った反動なのだろうか。魔力を限界を超えて使った時の代償が体にダメージを与える事で、限界を超えすぎると肉体がダメージに耐え切れ無くなり、死ぬことがあるということは知っていたが、その実例ははじめて見る、とナタージャは言う。
「こんな所で立ち止まる訳には行かないからな。」
そんな事をいうシスだったが、
「いいから休んで、シス。シスに無理してほしくない……」
というナタージャに耳打ちされたリーナの言葉にテントへ直行となった。
同じような状況がもう一つあった。
アチェリーがかけた病状解析魔法の結果によって、ワンもシスに及ばないまでも、相当量の負荷が掛かっていた事が明らかになったのだ。
「キール……大丈夫?」
「ああ、少し寝れば恐らく、な」
だがワンの疲労の原因はシスと同じではない。
いや、限界を超えたことによる反動という意味では同じなのか。
ワンがシスの『滅魔帝』のように自身の強化手段として使う、セルフ・ハンディ・キャッピングは、口に出した言葉通りにせざるを得ない状況を作り出し、プレッシャーによって無理矢理成功率を引き上げる、というものだが、そのためには自らが持つ全ての能力を限界を超えて酷使する必要がある。使えば使うほどダメージが蓄積して行くのは自明の理だ。
シスとワンが寝たのを確認したリーナとアチェリーがテントから出てきた。
昨晩の焚火の跡を囲むサリア、アチェリー、ナタージャに合流した二人は、顔に暗い影を落とす。
「……無理、させすぎだ……」
ビトレイがポツリと呟く。
その言葉にリーナとアチェリーの二人が、ビクリ、と肩を震わせた。
何故二人は無理をしたのか?
彼女達を守るためだ。
それが分かっているから、二人は悔しさを感じているのだ。
何故彼女達は守られたままなのか。
実力で言えば、一行は誰もが強い。
しかし、それは人類視点でしかない。人類で一番強くても、迫る魔物という脅威と戦うことが出来ない。
この一行の中では、シスとワン、それ以外にあそこまでの戦闘力を発揮することは出来ない。
それが一行の欠点だった。
「もっと、強くならないとシスに負担をかけたままだわ……」
サリアの台詞が一行の間に溶けて消えて行く。
(そう、守られるだけじゃなくて、シスを、勇者を超える力でシスの横に並びたい……)
というところまで考えて、リーナの思考が引っ掛かりを覚えた。
一行各々が反省し、強くなる為の方策を考える中、具体的な考えを追うリーナの思考だけがどんどんと高速回転していく。
(勇者を、超える……? 何で私はここで引っ掛かったの?……勇者。Project『Braver』。人造勇者計画。ラザベイ・ラボトリー。……ということは?)
核心に迫る感覚に、ここを突き詰めるべきだと直感して辿るリーナの思考。
(勇者を人工的に作ろうとしたのがProject『Braver』。でも世界制服を企んでいるラザベイ・ラボトリーがそれだけで満足する? ……そんなわけがない。最優先がProject『WC』だから、Project『Braver』はその傘下と考えるのが正しいはず……。ということは、Project『Braver』の最終目的はProject『WC』と平行して、人類最強戦力である勇者を超える人造勇者を作ること。)
そして。
(つまり、)
リーナはたどり着く事に成功した。
(Project『Braver』の完成体である私は、シスを越えられる可能性が、ある?)
リーナが、自らの力を手段と見なした瞬間。
(ぐぅぅっ!! なに、これ……!?)
記憶が、雪崩込む。
Project『Braver』では、目的を無意識下に刷り込み、その手段としての力を貸し与えるという意識で実験体を操っていた。
それは、実験体からみれば、沸き上がる衝動に手段をもらった形になる。
だがそのもらった手段を最初から上手く使える訳がない。
しかし、実験としては早く使いこした方が良い。
結果ラザベイ・ラボトリーが使ったのは、記憶編纂を発展させた経験書き込み。つまりは、体をこう動かせば、こういう風になる、という記憶体験を実験体に書き込んだのだ。
リーナもそれは変わらない。
いや、いままでProject『Braver』で開発した全ての技術を書き込まれているのだからそれ以上か。
リーナが受け取ったのは、Project『Braver』完成体としての全ての力、全ての知識、全ての経験。
人為的に植え付けられた全ての力の、その操縦方法をリーナは手に入れたのだ。
無論、奥の手まで。
「リーナ?」
何かに気付いたナタージャが、リーナの声をかける。
だが、世界で最も付き合いの長いであろうナタージャの声は届かなかった。
「『半神霊化』」
リーナの周囲に純白の力が吹き荒れた。魔力ではない。神力だ。人間が魔法を使うための力が魔力というならば、神が奇跡を顕現させるための力が神力だ。
リーナの背中に神力で形作られた一対の純白の翼が生まれる。それに従い、リーナが空へだんだんと浮いて行く。リーナの姿が純白に染められて行く。
「きゃっ!」
「ぎゃあぁ!」
「があっ!」
「……んっ!」
純白の神力が突然放たれた圧が、サリア、ナタージャ、アチェリー、ビトレイを吹き飛ばす。
その中で、リーナだけが歓喜の渦の中にいた。
凄まじい力が自分に流れ込むことが分かったのだ。
「っ! やった! これでシスと一緒に戦える! シスから守られる側じゃなくて、シスを守る側になれる! もっと!」
放出される神力が増えるたびにリーナの姿が純白に染まって行く。
「何が……」
「起きているの?」
サリアとナタージャの呟きが四人の気持ちを代弁していた。
四人にとっては、考え込んでいたリーナが一声呟いたかと思うと、突然神力を放出して宙に浮いたように感じていたからだ。
リーナから放出される神力がどんどん大きくなる。肥大か化していく。
そして。
そして。
そして。
唐突に、放出される神力が途切れた。
つま先から頭の先まで純白に染められたリーナが、非人間的な動きでうごめきだす。
「認可されていない人間を発見。神域から排除します。」
非人間的な動きで首を傾げて、純白に染まるリーナは言った。
読んで頂いてありがとうございます!
すみません、魔王との戦いの前にガッツリとした戦いが入ってしまいました……
でも主人公対ヒロインの構図は良いとは思うのです。本作では既にやっていますが。
ともかく、次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




