攻略の勇者 中編 ミナル森『関の守護者』
悪魔はワンが空洞現象を喰らって無傷でも、何の反応も示さなかった。
それどころか、冷静に、平静に、次のモーションへと入る。
即ち。
もう一度空洞現象を放つのか、拳を大振りに振りかぶる。
「……学習しないなあ。シスと先行偵察に来た意味あったのか?」
つまらない、とぼやくワンだが、その余裕はおよそ一秒後に失われることとなる。
まだ衝撃の解析が済んでいないシスが回避した空洞現象を無傷で受け流したワンへ、その受け流し終わって神経が緩んだ一瞬を狙って青白い光が放たれたからだ。
チェレンコフ光。
即ち荷電粒子砲。
およそ50メートルの距離を0.000000125秒で走る光より粒子が速く動いた時に出るチェレンコフ光を発する攻撃を、見て避けられるはずがない。
ワンはシスが青竜蝦にされたように、脇腹を抉られて倒れた。
依然、シスも50メートル地点から動けていない。
半径50メートルの円の中に入った生物を孅滅する魔物。
強者は悠々とシスを見つめた。
「『構築』」
ワンが自らの体を治して復帰する。
だがそれは体力も減り、それまで感じていた痛みを消すことは出来ない。ただ、五体満足に戻っただけだ。
倒れた場所から立ち上がったワンを見て、やっと悪魔は動きを止める。ワンが生きている事が信じられなくて驚いているのか呆然としているのか。どちらにしても、
(やはり、この悪魔には知性があるな……)
シスは確信する。
ワンが喰らった攻撃は知性が無いと組み上げられるものではない。
相手が自分の攻撃を防いだら、と仮定できる想像力。相手の隙が出来るのはいつか、と考えられる論理的思考力。攻撃を防いで安心する、という感情を解することのできる未熟だが確かに存在する思考に裏打ちされた心の存在。
全て、発展途上だが知性があることを裏付ける証拠となる。
そんな相手と戦うということは、つまり力と魔法で大幅に勝られた人間と戦うのと等しい。
孅滅戦ではなく、対人戦。
力の比べ合いではなく、千恵の比べ合い。
「……シス。」
「ああ、完全に読み間違えていたな。」
主語を省略した会話が示すのは、悪魔の強さ。
知性を持つということの意味を完全に侮っていた二人は、窮地に立たされる。
が。
「リーナと頑張ってくると約束したからな。」
「……ああ、そうだな。」
それでも二人の男は折れはしない。
心から沸き上がる感情が、大切な者との約束が、男達の顔を恐怖から笑いへと変化させる。
「せめてあいつの近接戦闘データまで取らないとな。」
「いや、あいつの奥の手まで引き出して悠々と帰ろうぜ。」
二人は軽口を言い合いながら駆けて行く。
翌日。
一行は悪魔と向き合っていた。
前日のシスとワンによる先行偵察により、悪魔の攻撃パターンはある程度までは丸裸になっている。
一行は悪魔より75メートル地点で待機している。悪魔攻略最後のミーティングだ。
「あいつは50メートル地点付近で、空洞現象を利用した空間爆破を行ってくる。と言っても本当に空間が爆発した訳じゃない。圧力の縦波が一瞬で襲ってくるから爆発したように感じるだけだ。ならば防ぐためには媒体を無くせばいい。媒質は空気。限りなく空気を薄くすることで遠距離空洞現象は防げるこれを、ナタージャに任せたい。」
「分かったわ」
シスの長い言葉にナタージャが頷く。
「次はあいつの荷電粒子砲だ。空気を限りなく薄くした所を粒子が走ったら、チェレンコフ光すら見えなくなる。真空中の光速を越えられる物質は存在しないからな。発射されれば即座に終了だ。だからサリア、率先して『正統剣術』で予測して防いでくれ。方法はまた後で指定する。」
「分かった」
次々に出される指示を全員が理解し、準備が整うまで数分。
最後の障害を捩じ伏せるべく、一行は戦いに臨む。
悪魔が拳を大振りに振りかぶる。
振るう。
急激な圧力の縦波は、空気を振動させながら伝わり、人に当たれば爆発したと勘違いするほどの衝撃を与えるだろう。
だが。
「っ! この……っ」
ナタージャが風系の魔法を使って進路上に擬似真空を作りだし、波を消して振動をなくす。
そこへ。
ナタージャを狙うように青白い光が放たれた。
自らの攻撃を無効化する、ワンのような初見では意味のわからない受け流しではなく、明らかに魔法を使って無効化する者を狙う、知性ある攻撃。
青白い光線を、
「っ、ここだわっ!」
紅の結界が阻む。
サリアだ。
シスにより付与された『正十二面体結界』を纏うサリアが荷電粒子砲を弾いたのだ。
その瞬間、微かに、しかし確かに悪魔が揺らいだその時を狙ってワンとシスが50メートル線を突破する。
悪魔はもう一度、シスとワンを今回は前より少しコンパクト拳を振るう。
空洞現象。――起爆。
今回は魔法による無効化は無い。
二人には必要ないからだ。
波に合わせて体を動かし衝撃を受け流した二人に、悪魔は多少動揺したようだった。
明らかに意識の焦点がシスとワンに向いている。
昨日逃げた貧弱な人間ではなく、無視できない強敵とやっと理解したようだった。
「ボアアッァァァァ!!」
悪魔が遂に声を挙げた。全力の荷電粒子砲を撃つのか、口を大きく開ける。
悪魔がまさに攻撃を放とうとした瞬間。
「『1990式熱電離気体尖形射撃砲』、発射」
3億度を越すプラズマが放たれる。
流石の反応速度で向き合い、虚空から取り出した巨大な両刃大剣を、悪魔のサイズと比較してもなお巨大な大剣をプラズマに叩き付ける。
断ち切った。
プラズマを断ち切った大剣はその代償として完全に融解していたが、確かにプラズマは大剣を堺に左右に別れ、悪魔に当たることは無かった。
安堵したように息をはく悪魔だが、直後に危機感が襲う。
「どこを見ているんだ?」
懐にいつの間にか滑り込んだシスが悪魔を見据え、そして魔封宝石の力を解き放ったからだ。
「ブラッドストーン」
シスが告げるは重力を司る暗緑の宝石。エトとナンを相手した時のように、核融合臨界爆発からの重力崩壊の超新星爆発で吹き飛ばす為だ。
「吹き飛べ」
シスの呟き都と共に致命の爆発が放たれる。
だが。
核融合臨界爆発が、爆発直後に強引に押さえ込まれた。
「……っ!」
爆発はした。爆発自体は成功している。だが、その上から極大の圧力が爆発を拡散することを許さなかったのだ。
今、こんなことになる要因とは……?
シスが必死に頭を回転させる。
しかし、理解よりも速く答えが現れた。
「ボァァ」
悪魔の嗤い、という形で。
「まさか……!」
悪魔の背後から一撃を叩き込もうと作戦通り忍び寄っていたリーナは、予定通りの爆発が起きない理由に気付く。
「このE種は、重力を操る魔法を持っている……?」
遂に奥の手を出した悪魔に、シス達は危機に陥らされる。
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