攻略の勇者 前編 ミナル森『関の守護者』
一晩を休んだ一行は、魔王討伐最後の壁、ミナル森『関の守護者』の撃破へ向かう事となった。
『発生迷宮』はミナル森やや南側、クラクナ火山はそこからみて北東の端にあるので、ミナル森を斜めに縦断する形になる。
「『関の守護者』はかなり強力だと思われる。気を引きしめて行けよ?」
拠点を出て数分、シスが言った。
「分かっているわよ、シス。いつもと同じように警戒を密にして倒すんでしょう?」
「それだと足りない可能性がある。なにせミナル森はC種が大量にいる地域だ。初め、魔物が『発生迷宮』に住む前に、必ずミナル森の外に進出しようとしたはずだ。それなのに、失敗した。失敗して、『発生迷宮』に住み着いたんだ。つまり、ここの『関の守護者』はC種、E種が集団でやってきても退ける程の強さを誇ると考えたほうが良い。……もしかしたら準魔王レベルの強さかもしれない。」
「準、魔王レベル!?」
シスの言葉に一番反応したのはサリアだ。顔も本当に驚いたような表情をしていて、飛び上がらなかったのが不思議な程だった。
「……あのなあ、魔王だって黙ってやられてくれる訳では無いんだ、やられないように強い魔物を配置して当然だろう。ましてやクラクナ火山への最後の門番だぞ? 強力なのは当たり前だぜ?」
「キールすごーい!」
そんなサリアにワンが呆れたように言う。
「ともかく、魔王と戦うようなつもりで行く、ということね。つまりは前哨戦だわ。リーナ、頑張って倒そうね?」
「……、頑張って倒す……」
ナタージャの呼び掛け、ビトレイの決意を経て一行はミナル森の最奥へ進んで行く。
それは、悪魔型と言うべきなのか。
牛のような頭に禍々しい角が生え、筋骨隆々の体は明るい紺に彩られている。全体としてはミノタウロスに似てはいるが、全くの別物。シルエットからも、その雰囲気からも、悪魔を彷彿とさせる魔物。
その姿を100メートルほど先に確認した瞬間、シスは鋭く言葉を告げる。
「ッアチェリー!」
「うんっ! ……っ! アンノウンだってーーっ!」
「「「「…………っ!!」」」」
アチェリーの告げた情報に一行は驚愕に息を飲んだ。
(アンノウン、だって……!? どういう事だ!?)
シスでさえ理解できない不可解な現象。
探査魔法は探査相手の魂に刻まれた種族名を読み取り使用者に理解させるもの。その仕組み上、相手の種族を読み取れないというのは考えにくい。魔法の性質上、相手の肉体ではなく、魂へ、しかも干渉ではなく外から覗くことしかしないため、、たとえ魔法耐性がどれだけ高かろうが防ぐことは出来ない。
だが、実際に存在している。
(……どうすれば……。どうすれば良い……?)
シスは少し考えて、指示した。
「今回は一発本番ではなくて、小規模戦闘を繰り返して戦闘パターンを解析しよう。ワンと俺でひとまず行く。サリアはそれを見て解析してくれ。絶対に魔物の攻勢範囲に入るなよ? リーナもビトレイもナタージャも同じだ。パターンを解析する人がいないと意味がない。ナタージャは回復魔法の用意をしておいてくれ。」
「おいおい。俺への承諾はなしかよ?」
「ああ。」
「ひどいなぁおい」
シスが指示を終えると、ワンが半分冗談のように訊いてくるのをシスもふざけて断言する。
そんな一連の行為はリーナやビトレイ、アチェリーを安心させる意味もあったのだが、あまり効果は無かったようだ。
「ワン、お前の『構築』で生体を修復する条件は何だ?」
相変わらず心配そうな顔をする彼女達に話を真面目なものに切り替える。
「構造の完全把握だな。生体の場合、DNAの解析と理解だ。だが解析から全て自分でやらないと意味はないし、解析には一日以上かかる。現段階で俺が出来るのは俺とアチェリーくらいだな。シスは無理だ。」
「チッ、出来れば交戦時間が伸びると思ったんだがな。しょうがない、このまま行くか。」
そうして二人は準備を整える。
整えた二人が足を運ぼうとするそこへ、二人の少女が声をかけた。
「シス……」
「キールー……」
少女達は、心配そうな表情を滲ませて、しかしそれ以上の信頼を顔に浮かべて、告げる。
「「頑張って(がんばって)きてね(ーー)」」
二人は。
「ああ」
「もちろん」
とだけ応えて足を踏み出した。
環境が、バイオームが変わった。
膝上まである背の高い雑草が生えた草原だ。
それだけの背を維持するためか、根はしっかりと張り地面はかなりデコボコしている。
「『宝石配置』、『滅魔帝』」
「セルフ・ハンディ・キャッピング……勝つぞ」
二人はそれぞれ呟き、自らの最大スペックを引き出す。
シスはラザベイ・ラボトリー実験体としての最終手段、魔封宝石を完全に自分の制御下に置いて魔法攻撃ではなく星術現象を発生させるための媒介とする『宝石配置』、そして勇者として魔王を倒すために女神から授けられた『滅魔帝』を。
ワンはセルフ・ハンディ・キャッピングによる精神的な肉体ドーピング。
最大限に警戒をしながら膝上まである背の高い雑草が密度高く生える草原を進む。
悪魔型の魔物、アンノウンまで残り50メートルというところで、アンノウンもこちらに気付いたようだ。
二人は一度立ち止まって出方を伺う。
未だ何も持っていないが、それはまだ距離が開いているからだろう。アンノウンがシスの思っている通りの存在なら、近づいた所で出してくるだろう。
相対した魔物は、一声も上げる事なく攻撃のモーションに入った。
即ち。
大振りで、威力の強い殴打をするために腕を振り上げだ。
「何をする気だ……?」
未だ50メートルは離れてる二人に対する行動に、ワンが不思議そうな声を上げる。
が、シスはかろうじて気付いた。
まだワンがセルフ・ハンディ・キャッピングで自らの能力を縛っていた頃、一撃の元に気絶させられたあの現象。
(まさか、青竜蝦と同じ……!?)
「ワンっ!」
叫ぶと同時、シスは横っ跳びに跳ねてそこから回避する。
瞬間。
空間が、爆発した。
空洞現象。
水中では金属製の道具でさえ傷物にする急激な圧力の振動は、空間が爆発したと思うほどの衝撃を発する。
だが。
回避地点からもといた場所を見たシスは、無傷のワンを発見する。
「青竜蝦の空洞現象を喰らっているんだから解析済みだ。シスも速く解析してしまえよ。」
「……了解」
ワンが、自らの爆発を無効化している術と同じく、衝撃に合わせて細かく体を震わせて衝撃を殺していることを悟ったシスは、珍しくワンに主導権を握られた形になって頷く。
「さて、もっとあいつの持ち札を暴かないとな。」
シスから主導権を一時的にでも奪えたことが嬉しいのか、少し上機嫌な声でワンが言った。
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