冒険の勇者 ミナル森『発生迷宮』
「まず、は。どうするべきだろうか。」
「というかどうやって数千体もの魔物を倒すつもりなんだ?」
「まずは魔物を一箇所に集めるところから始めようか。」
“魔物が集まっている所を捜すなんて非効率だ。向こうから全員集まってもらう。”
リーナとアチェリーは走っていた。
いや、アチェリーはリーナに背負われている。
リーナはアチェリーの探査魔法で魔物を避けながら、走り、アチェリーは探査魔法を使ながら一定距離毎に水晶を投げ落として行く。その数は100をもうそろそろ超え、シスが今まで溜め込んでいた水晶の数に恐怖を感じるようになる。
「リーナー、たぶんあの左の角に3体いるー。引き返そうよー」
「オーケー、戻ってさっきの分かれ道からまた水晶を置いてきましょう」
“出来ればこの一回で『発生迷宮』の魔物を倒したい。魔物を収容できる空間が必要だ。”
「ここでいいか」
「まあいいと思うわ。」
「……シスの言った十分な空間が取れるなら……」
ワン、ナタージャ、ビトレイの三人は、とある壁の前で足を止めた。魔物を収容しきる大きな部屋を作るためだ。
この『発生迷宮』はどんどん地下に潜るような構造になってる。つまり『発生迷宮』の端にあたるここなら、壁に穴を開けてもその先にはもともとの土しか無いはずだ。
三人は魔物を収容すべく部屋を作っていく。
“魔物を誘導するために、魔物の行動パターンが知りたい”
シスとサリアは向き合っていた。
魔物の行動アルゴリズムを知るには、専門家に訊くのが一番だ。つまりはサリア。敵の行動パターンを解析し、行動を予測して攻撃を避け、攻撃を当てる『正統剣術』を扱う者だ。
シスはサリアから話しを聞いて、作戦をさらに細かく修正していく。
準備は整った。後はシスの問題だ。
一行はワン達が作った広大な部屋に集まっていた。
部屋の広さは100×100×10メートルほど。
魔物一体が一平方メートルを取る大きさだとしても、一万体入るレベルの大きさだ。魔物の数は数千体程度と予測されているから、余裕がある大きさと言えるだろう。
「……さて。リーナ、アチェリー?」
シスは呟くように一行に訊いていく。
「ちゃんとバラ撒いてきたわよ。シス、よくあれだけ持っていられたわね?」
「たくさん置いてきたよー!」
シスは一つ頷き、
「ワン、ナタージャ、ビトレイ?」
「見れば分かるだろう、ご希望のものを作ったぜ。」
「全く、七面倒くさいことを言ってくれるわね?」
「……シスの指示通りに……作った……」
シスは再び頷き、
「サリア、……はまあいいか。」
「それは私だけ仲間外れ? 私がミナル森に入ってから解析が終わったゴブリンとミノタウロスの行動パターンを全てシスに渡したわ。」
「……まあ使いたい特定の一部で良かったんだがな。」
一行の満足のいく返答に、シスは最終チェックを終える。
「さあ、孅滅の時間だ。」
ドォンドォンドォンドォンドォンドォンドォンッッッ!!
と、爆発が連続した。
大部屋からではない。逆だ。
大部屋以外の周辺区域全てからだ。
「『水晶誘爆』。水晶は割れることで中に吸収されていた魔法を放出する。だが放出の条件はそれだけではない。同種の水晶の放出時、その衝撃で割れなかった場合でも一定範囲内なら放出しなかった水晶も魔法を放出する。」
つまりは、リーナとアチェリーが広い範囲に設置してきた無数の水晶の一種、ルビーに連なる『炎熱』を吸収した爆炎結晶が、『水晶誘爆』を起こして『発生迷宮』を破壊しているのだ。
地面の振動が体を震わせる。
段々と振動源が遠くなり小さくなる地鳴り。
と、同時に爆発が原因の地震ではなく、他のものが原因の振動が段々と大きくなる。震源が近くなる。
それは。
『発生迷宮』を守ろうと大挙してやって来た魔物が起こす振動だ。
連続して起こる爆発に、住家である『発生迷宮』が壊れるという心配を経て集まった魔物達の意識の集合。
それを。
今度は黄土色の水晶が蹂躙する。
トルマリンに連なる『雷電』を吸収した『雷撃結晶』は、次々と『水晶誘爆』を起こし黄金色の雷撃を放って砕け散る。
そう、『水晶誘爆』は同種の水晶同士でしか発生しない。その一種とは魔封宝石の分類に依存する。
つまり、一度『水晶誘爆』が起きたからと言ってもう『水晶誘爆』が起きないとは限らないのだ。魔封宝石は15種類あるので、つまりは最大で15回連『水晶誘爆』が起こせるということになる。
リーナとアチェリーの一手で魔物をおびき寄せ、数を減らす。
やっと大量の魔物が大部屋に入ってきた。
先頭の魔物はボロボロだが、中盤以降の魔物はまだ元気で活動している。
魔物は、大部屋に入った瞬間、一番奥にいるシス、サリア、リーナ、アチェリー、ナタージャ、ビトレイを見て一気に突っ込んでくる。その数、およそ5000体。
ドドドドドドッッ!!
と轟音を立てて迫り来る魔物達。シスは全ての魔物が大部屋に入った事を確認して、
「……トパーズ」
一つの魔封宝石を操作する。
空間がねじ曲げられてシス達の体が隠蔽され、大部屋の中央から曲がった空間に隠されていたワンが姿を表す。
「グギャギャ?」
急に目標が消えシスが計算したように混乱したような魔物達の声に、死の宣告が突き刺さる。
「……『完全開放』」
この大部屋を作るときにワンが削った物質の、膨大なエネルギーが全て放出される。
空間の狭間に身を隠した一行には何も感じなかった。
だが十秒後、空間の狭間から姿を表した一行が見た動くものは、ワンだけだった。
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