鍛錬の勇者
突き出された片手直剣を、『カリバーン』で弾き防御する。
繰り出される斬撃を軽やかにかわしたシスは、
「『武器庫』」
と呟いて何かを取り出そうとする。
「…! だっ出さないで…」
一度立ち止まり炎を飛ばす魔法を行使するリーナ。
体内で魔力が操作され、構造を与えられ、更に放出されるまでにかかった時間は0.5秒にも満たないだろう。『非適合者』でもなんでもない、十分に実践に耐え得る速度だ。
シスが『武器庫』から物を取り出すことを阻止する為に放たれた炎弾へ向かって、シスは右手を差し伸べる。
伸ばされた右手と、炎弾が衝突する前に炎弾が悉く弾かれる。…何もない空間に。
「…えっ? 」
リーナは驚くが、その体は硬直していない。無意識下であろうか、足が左に踏み出され、その場を離れようとしている。
まるで、不測の事態が起きた時は、まずその場から離れようと無意職レベルで刷り込まれているかのように。
しかし、無意識レベルだけの動作などシスと対する時には遅い。せめて意識が無意識にそうなることを信用して、その動作を利用し次の動作へつなげるくらいのことをしないとシスについていくことはできない。
左手に持ち替えた『カリバーン』を、リーナの首筋に添える。
「…、また、負けちゃったぁ…」
リーナの言葉と共に、模擬戦が終わった。
(…。かなり俺の知っている戦闘法に近づいてはいるが…、まだまだだな)
ここはユルド森『発生迷宮』最深の部屋。
ここで一行は特訓を行っていた。
時間は『発生迷宮』攻略翌日の朝に遡る。
「シス? 朝だよ起きてよ~」
シスが寝るテントに、鎧を着けていないリーナが現れた。
なぜか『素』の方の意識で、シスを起こしにきたようだ。
「…、あぁ…」
シスは状態をむっくり起こして、意識の覚醒を図る。そしてリーナを見て、テントを見回して、それから言った。
「…、ここは男のテントのはずだが…? 」
…少し早口だったのは動悸を紛らわす為ではない。
(…俺の目的から考えれば彼女と親交を深めるのはむしろ良い事なんだがなぁ)
そんなシスの心中に気付く訳もなく、リーナは答えた。
「ひゃあ! …ええと…、もう太陽も出てしばらく経つのにおきてこないから…」
(ちっ。やはりあの作業は疲れるか。翌日の朝の起床が遅れるレベルなら使用頻度を考えた方がいいかもしれないな)
「わかった。すぐ行く」
シスは立ち上がると枕の下に隠しておいた指輪『武器庫』を取り出すと、替えのシャツを取り出す。
リーナがまだいるのに気付いていたので、シスはすぐに着替えることはせず。
「そんなに見たいのか? 」
と訊く。
リーナの顔がみるみる赤くなり、「ひゃあっ! 」と行ってテントから猛烈な速度で出て行った。
(やはり素では普通の少女と同じ程度の精神成熟度だな。…知っている通りだ。素の性格の改変はまぁ難しいからな)
寝汗を吸ったシャツを『武器庫』に放り込む。
『武器庫』は空間を接続して別の場所に保管しているだけなので、入れるものは別に武器でなくとも構わないのだ。
テントから出ると、太陽は東の空の低い所で燦々と照らしている。時刻は八時といった所か。
シス以外の全員が既に起きていて、何かしら鍛錬を行っていた。
シスは焚火のしてあった場所にあるテーブルからパンを取り、近くの岩に腰掛けて頬張った。
丁度シスがパンを食べ終わる頃、女の子用のテントから鎧をつけたリーナがシスのところへやってきた。
「…、お、お願いがあるの…! 」
第一声を聞いて、シスは面倒な事になりそうだ、と思いながらも先を促す。
「…、も、模擬戦をしてくれない…? 」
話を聞くと、昨日のユルド森『発生迷宮』冒険で自分の力不足を痛感したらしい。このままでは駄目だと強くなる為の練習をしたいが、同じ前衛職ではシスしか良い相手がいないという。
…まぁキールはリーナより弱いようだし、力不足を痛感させた自分が相手なら全力で挑戦しても大丈夫だろう、ということらしい。
「シス…。わたしもお願いしても、いいかな? 」
「俺も」
「アチェリーもやりたーい! 」
「…、私も……」
それを聞いていた一行は次々に名乗り出た。
(…、彼女に強くなってもらうのは何の問題も無いが…、手加減がきちんと出来るか心配だな)
「…わかった。いいだろう。」
流石にナタージャまでやるとするなら森の中でなどやってられない。あっという間に森が抉れ、修復不能なクレーター地帯になってしまうこと間違いないだろう。なので一行は『発生迷宮』の中でやることにした。
そして今に至る。
「…ぐすっ、うぇぇぇぇぇぇえん…! 」
「はいはい。リーナよしよし」
最早恒例行事となってしまっているリーナの号泣とそれを宥めるナタージャの姿。
それを横目にキールが聞いてきた。
「シス! さっきの炎弾を弾いたのは何なんだ!? 」
それに答えたのはシスではなくビトレイだった。
「…、空間接続によってできる、空間断層を使った防御…」
「…? …、成る程、空間と空間を繋いだとき、そこには空間の非連続面があるのか…。」
「たぶん、水晶を使わないようにするためだね! シスは一回しか使えないから! 」
アチェリーが言ったとおり、シスはこの模擬戦で魔法封石、水晶を一回しか使わない、というハンデを以って手加減としていた。
(正直一回というのは厳しいが…。しかし体術のいい復習となる)
「シス! 次はアチェリーとやろう! 」
「わかった…」
シスはアチェリーと向き合う。
技のキレが上がった銀閃が、シスを斬ろうと軽やかに迫る。
本日最後のリーナとの模擬戦である。
シスは体捌きでフェイントをいれ、リーナの剣筋を誘導しながら回避する。
まるで忘れていたことを思い出したようにの剣は、シスも余裕で回避は出来なくなっていた。
リーナの片手直剣が、斬りと突きの中間のような斬撃を繰り出すので後ろに大きくジャンプして回避するシス。
それを見越したようにリーナが魔法で氷礫を放つ。
だが、
(まだ一度足を止めてからしか魔法が使えないのはわかっている…! )
それすら予想したシスが身を屈めて肉薄する。
リーナはもう一度何かの魔法を使おうとするが、シスが許すはずも無―――!
「ッ! 『武器庫』っ! ! 」
自らの直感に従って、シスは空間断層の盾を右手を後ろに伸ばして張る。
急な弧を描いて襲ってきた氷礫が破片となる。
「っ、リーナは…!? 」
顔を前に戻した時にはリーナの姿は既に無く、気配で背後と断定して離れ、『カリバーン』を左手で掴みなおして胴薙ぎに振るう。
しかし。
「…、やった! やっと勝てた…! ! 」
更にシスの背後から剣が首へ添えられた。
(…、やられた。氷礫の後の魔法は速度強化だったのか…)
シスが背後と気付いた瞬間、リーナは更にシスの背後になるよう回り込んだのだ。
ハンデがあったとはいえ、シスに勝ったリーナは『素』の意識で嬉しそうにしている。
(やっと力が戻ってきたな…。これで彼女の四割という所か…。対人の勘の良さでは適わなかったからなぁ…)
今日一日の鍛錬で、一行はかなり強くなった。
読んで頂いてありがとうございます!
次回、リーナ達の鍛錬の結果が出ると思います。
次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!