開始の勇者
島嶼化によって大きさが逆転した『逆転の森』、ミナル森を一行は進む。
一度魔物の群れに遭遇すれば全滅の可能性を孕む苦闘が繰り広げられるが、魔物にも数に限りはあるからだろうか、その遭遇には一定の周期があった。
その休みにあたる周期で、疲労困憊した一行は座って、寝転がって休んでいた。
「「「……」」」
荒い息が吐かれる音が響く。
魔物一体一体を倒すのは、それほど厳しい物では無いが、それが繰り返されればシスの超弾性拳銃があるとはいえ全滅する可能性は増える。
魔物の多さによって一対多の状況が常に作り出され、サイズの違う複数の魔物が混在していることで視野を常に広く取り続ける必要がある。
どちらも個々の魔物に集中することが出来ず、取るに足らない魔物に足をすくわれるリスクが増えることになる。
それに連戦から来る疲労等による集中力低下が加われば、魔物に負け、一行の他のメンバーに負担が増加し全滅の危険性すらある。
(でもシスは……負けないよね?)
息を整えながらリーナは思う。
リーナの中でシスは最強の座を確立している。
青竜蝦の時に遅れは取ったが、光速に等しい速度で疾る荷電粒子砲を発射されてから避けることの出来る人間などいない。あれは例外的な出来事としてリーナのなかで捉えられている。
そんなシスなら絶対に負けないし、現在の状況を変え得る考えを披露してくれるものと信じていた。
「『発生迷宮』へ行くか。」
静まり返った一行に、シスの呟きが響く。
「このままクラクナ火山に行ってもミナル森で討ち漏らした魔物に挟撃されては意味が無い。ミナル森の魔物を孅滅してからクラクナ火山に向かった方がいいだろう。そのためには『発生迷宮』を攻略していくのが効果的だ。」
リーナの思う通りにシスが言う。
それは、事実上『何回も戦闘を繰り返す』よりも『一度の戦闘で全ての敵を全滅させる』ことを選んだ物だった。
どちらが良いと訊かれたら、通常ならどちらも賛否両論出るところだが、今回は後者が適切だとシスは判断したのだ。
何回も戦闘を繰り返し疲労を蓄積させて魔王に挑むより、一度で戦闘を終えた方が対魔王の作戦として相応しい。
そういう訳で、一行はアチェリーの探査魔法で魔物の数が多い所目指して進んで行く。
移動途中に前衛は回復魔法、後衛はブルーの魔力回復薬で戦闘に必要なリソースを戦闘可能領域または全快に近いレベルまで戻す。
今の状況では夜寝ることすら魔物の襲撃によって出来ない。魔王に挑むにしても、その一つ手前であるこのエリアで休養治療出来る場所を確保するのは必須条件と言えた。
「このミナル森を確保出来れば、魔王に挑むためにベストコンディションになるまで二日でも三日でも待つ。だがそれをするにはまずこの『発生迷宮』を攻略しなければならない。……行くぞ。」
「分かったわ、シス。行きましょう。」
「おうよ、さっさと孅滅しようぜ。」
「行くのは良いけれど、水晶の補充をくれない?」
「後衛としての働きはするわ。」
「……任せて、シス………」
「アチェリーも頑張るーー!」
リーナ、ワン、サリア、ナタージャ、ビトレイ、アチェリーの頼もしい声が響く。
これまでで最も難しいであろう『発生迷宮』への挑戦が始まる。
読んでいただいてありがとうございます!
次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




