進撃の勇者
クラクナ火山が『龍の巣』と呼ばれているのと同様、ミナル森にも別称がある。
曰く、『逆転の森』、と。
未開拓領域を上がって見つけた『関の守護者』、それは信じられない相手だった。
「子鬼戦王だよー! おっきいねー!」
ほのぼのとしたアチェリーの探査魔法の結果にリーナは驚いた。
(子鬼戦王なの!? あれが? 明らかに豚鬼戦王より大きいのに!)
そう、通常種、T種でさえ人間の膝下サイズだったゴブリンが、巨大変異種でも無いのに豚鬼や半牛人より大きいなんてことは、普通有り得ない。
魔王が魔法で巨大化させているのだろうか。
「まっ、また戦王!? どれだけいるのよ……」
サリアが驚いたように叫び、その声は諦めたようにしぼんでいく。
「ああ、大きいなアチェリー。あそこまで大きいゴブリンは初めてじゃないか? ……サリア、魔王がいるクラクナ火山とここは隣接しているんだ、戦力を大量投入して当然だろうよ。向こうだって黙って倒されてくれるわけじゃないんだから。」
「いよいよ最後ね……。繊細織魔法出来る魔法の種類を増やせるようにしないと……」
ワンがサリアに突っ込み、ナタージャが言い聞かせるように呟く。
「……シス、降ろすよ……!」
そんな中、ビトレイが浮遊魔法を制御して子鬼戦王を刺激しないよう下降する。
子鬼戦王は地に降り立った一行を見て、警戒するように身構える。
子鬼戦王が持っているのは金属製の盾と片手直剣。豚鬼戦王の時と同じく普通のサイズに見えるが、とてつもなく巨大だ。盾は子鬼戦王の上半身を覆う程度の大きさだが、地面に突き立てられでもしたら前衛の攻撃はしにくくなるだろう。
それよりも問題なのは……。
「盾を使っているという事実それ自体か。」
「それが何か問題なの? 盾があっても倒すだけよね?」
シスの呟きを聞いてリーナが訊いた。
(リーナですら気付かないか……。慣れという物は恐ろしいな。)
シスはそう思いながら言葉を告げた。
「リーナ、今まで魔物が盾を装備していた事があったか? 魔物は本能的に戦っている、武器を装備することはあっても防具はなかった。だがこいつは防具を着けている。攻撃を喰らうのはマズイいと考えている。つまり、この子鬼戦王はある程度の知能がある可能性がある訳だ。」
「魔物に、知能!?」
「「「……!!」」」
そういえば、とリーナはついさっきの子鬼戦王が行った行動を思い出す。
子鬼戦王は警戒するように身構えたのだ。
(……っ! 身構えた!? 今までの魔物は遭遇した時に待つことくらいはあったけれど、身構えたことはなかった! ……、身構える? 相手を難敵だと認めて構えた? 相手の強さを推し量っているということ……!?)
そこにシスがさらに告げる。
「だがそれ自体に問題はない。例えば魔王も知能は持っていると予想されるからだ。だが相手にある程度の知能があるということはそれだけ強敵になるということだ。もしミナル森にいる魔物が全て知能を持っているなら、攻略難易度は恐ろしいほどに跳ね上がるぞ。」
「……これが、……『逆転の森』……?」
ビトレイが呟いた。
子鬼戦王と相対するのは前衛リーナ、ワン、サリア。
ワンだけいれば良いと思うかもしれないが、ワンは対多戦闘完成体。対人、対魔物といった対単戦闘は得意であるが、得意の度合いで対多戦闘に劣る。
三方向から一人一人走り寄る三人に対し、子鬼戦王は青白い光線――荷電粒子砲を口から放つ。
狙われたのは――サリアだ。
瞬間的な戦闘力――駆け引きを考えない火力だけを考えれば最も劣る、つまり最も弱いと考えられるサリアを狙う。
(三対一は不利と考えて、確実に撃破できる最弱から狙って来た……!? やっぱりこの戦王は知能を宿しているというのっ!?)
しかしサリアには当たらない。豚鬼戦王の経験から『正統剣術』を使って予測・回避することは当然と言えるレベルまで昇華されているからだ。
自らの攻撃をいとも簡単に避けられた子鬼戦王は驚いたようだったが、それを停滞にせず次の動きに繋げる。
が、遅い。
徹底的に、いっそ絶望的と言っても差し支えないほどに子鬼戦王の動きは遅かった。
なぜなら。
ゴオオオオオオオッ!!
と、紅蓮の炎が勢いよく咲き乱れたからだ。
発生源は手元から。発生した炎はあたかも火炎放射器のように直進し、子鬼戦王に襲い掛かる。
「ギャギャッ!?」
攻勢に出ようと準備していたからか、対応が遅れる子鬼戦王だが、盾で逸らしながら横に回避することで何とか事なきを得る。
が。
それまで予測して、回避行動の取れない空中にいる内に極冷気のダイヤモンドダストが子鬼戦王にサリアが破壊した凍冷結晶から一直線に突き進んだ。
しかしこれも盾によって守られてしまう。
「ッギャギャギャッッ!!」
最弱のはずの敵から無視する事の出来ない攻撃を受けて驚愕する子鬼戦王。
脅威と認めたか子鬼戦王がサリアに向き直り――
「……飛居合」
瞬間、子鬼戦王の首が落ちた。
「サリアが最も危険視されないと予測、そのサリアが正面から圧倒することで無視できない存在にまで膨れ上がらせ、サリアに意識が占められた瞬間リーナが不意打ち。……そういう作戦なわけね。でもサリアの水晶が爆発するのではなく飛んで行ったのはなぜ?」
ナタージャが『繊細織魔法』を編みながらシスに聞いた。
「ワンさ。とどめの火力で言えばワンが一番だが、この作戦では違うだろう? サリアを脅威と感じさせるためには、水晶本来の扱い方では足りないからな。ワンには空気の円柱を作ってもらい、その中でサリアが水晶を割って指向性を与えたという訳だ。……来るぞ。詠唱を切るなよ。」
「えっ?」
ナタージャが離しかけた繊細織魔法の手綱を再び取り戻した瞬間。
子鬼戦王の胴から首が再生した。
「キールー、治っちゃったよー!!」
だがそれに混乱は無い。ナタージャなどは逆に納得した様子で細かく繊細織魔法を織り込んで行く。
|豚鬼戦王《ウォーロード オブ オーク》の経験から再生することは作戦に折り込みずみだったシスは、断面がボコボコと膨らんで再生し、サリアの方を向こうとする子鬼戦王を指し示し、
「撃て」
一言。
「繊細織魔法、アイシクルスピア」
「1113式『模倣凍獄零度砲』」
「「ファイア!!」」
絶大なる魔法と極大なる魔法銃による砲撃が放たれる。
巨大な氷で出来た針と、真冬の極寒すら生温い、マイナス273.15℃に届き得る魔法を魔法銃に組み込んだ砲撃は、一撃で子鬼戦王の体を貫き、体力を奪った瞬間に全身を凍らせる。
「氷に閉じ込めればどうとでも調理できるからなあ。で、これからどうする?」
ワンの問いにシスは、
「どうもしない。……ただ、凍獄から出てきても対応出来るようにしておけよ。」
数分。
子鬼戦王を警戒しながら観察していた前衛のリーナとサリアはあることに気づいた。
子鬼戦王の体各所が紫色に変色しているのだ。
「……? なに、これ……」
「凍傷による壊死だ。作戦通りだな。」
リーナの呟きに、いつのまにか近づいてきたシスが答える。
「第三度凍傷は凍傷の中で最も酷い状態を指す。この状態になると、凍傷になった場所の感覚もなくなり骨まで壊死することになる。見ている限り、魔物の再生は失った部位に対する補償のようなもので、失った訳ではない部位の再生は遅かった。ならば壊死させれば再生は出来ないという訳だ。」
「完全に作戦通りってわけね、シス。」
サリアの呟きにシスは頷く。
だが。
子鬼戦王を拘束する凍獄にヒビが入る。
ピシピシッ! と、音を立てて。
「「……!!」」
二人が驚愕する中、シャァァァァァァァン! と澄んだ音を立てて凍獄は砕け散った。
滞留する魔力の残滓に、一行は魔法を使われたことを知る。
「体から衝撃波を全方位にばらまく魔法か。……だが、凍獄か脱出すること自体は予想の範囲内だ。ワン!」
「おうよ!!」
「ギャギャギャギャギャッッ!!」
壊死だらけの体をようやく動かすように、子鬼戦王が最後の抵抗とばかりに威嚇する。
「『武器庫』、HSNC」
「『錬式』」
そこへ、万物を灰燼に帰す攻撃が突き刺さる。
「スイッチ、オン」
「『分解』」
音も、光りも、衝撃も、熱も、魔力すら発しなかった。
壊死していないところだけをピンポイントで素粒子レベル又はエネルギーに分解された子鬼戦王は再生することなく壊死したところのみを残してこの世から消えた。
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