帰着の勇者
地下が爆破された衝撃で巨岩がずれたり割れたりしている岩石地帯を進む。
道は既に途切れているので、ほぼ登山と変わりない。あるときはクライミングそして岩に登り、あるときは迂回して避けて行く。巨岩が大きくてどうしても通れない場合は爆破して北上した。
心理的圧迫を利用した心を折るトラップは無かった。しかしそれは繊細な調整を必要とするトラップが爆発によってズレて効果がなくなっただけかもしれないが。
「はあ、はあ…」
そんな中、シスとワンの足取りだけが軽やかだった。
リーナを含む一行が平地とは違う足取りに悪戦苦闘する。そもそも平地の歩行と登山とでは疲れ易さがかなり異なるのだ。考えて見れば平行移動するだけの平地と重力に逆らわなければならない登山とでは苦しさの違いは分かるだろう。
「よし、今日はここで休むか。」
魔物の改造場を破壊して一時間。時刻はおよそ午後三時にシスは言った。
「登山は全身運動だ。休憩ですら座るのは推奨されない。疲れを自覚する前に出発した方がいい。そんな登山だから、休むのは早くとって明日に備えた方がいい。」
そうして、今日はここで夜営することになった。
こんな魔物の少ない場所だが寝ている間も警戒は必要だ。
交代で番をすることになっており。今日のシスの当番は真夜中の二時間だった。
(昼も『熱源探知』に引っ掛からない。ここには魔物はいないのか? もしかしたら崖の罠が魔物にも有効で、落ちたら死んでいるのか?)
周りには魔物はいない。暇になってそんな思索にふけっているシスの隣に鎧を外して私服姿になったリーナが座った。
パチパチ、と薪が燃えている。
「……どうした?」
シスが訊くと、リーナはポツリポツリと話しはじめた。
「もうすぐだね……シス」
「ああ。クラクナ火山まで、後少しだ。魔王討伐まで、あと少しだな。」
「シスは……この後のことをどう考えているの?」
リーナはそう、問い掛けた。
シスはすぐに『この後』というのが明日からの事ではなく、魔王討伐の後であることに気づいた。
それについてシスは考えていない訳ではなかったが、それは今話せるようなものではなかった。
まだリーナの返事をもらっていない段階では、
――リーナと一緒に暮らしたい、
だなんて言える訳がない。
「…………」
「シスはラザベイ・ラボトリーから逃げ出して来ているから魔王を倒したとしてもセントラルには戻れない。魔王を倒してしまえば人類の生存範囲は広がるから、戻らなくてもいつかは捕まる。ラザベイ・ラボトリーは一番最初に市民が住めるか調査にでるだろうから……」
「俺は、魔王を倒した後ラザベイ・ラボトリーを破壊して大手を降って表を歩けるようにするつもりだ。別に勇者の称号なんていらない。俺は、俺が欲しい日常ができればこの後はそれでいい。」
シスははっきりと言い切った。
「それに、それはリーナも同じだぞ?」
「えっ?」
不思議そうに声を上げるリーナにシスは言う。
「リーナは俺から聞いただけで実感はないかもしれないが、リーナもラザベイ・ラボトリーの実験体の一人だ。Project『Braver』の成功例であるリーナをラザベイ・ラボトリーが逃すはずがない。俺とワンとリーナ、俺達三人はやはりラザベイ・ラボトリーをどうにかしないと自由な未来は無いんだ。」
リーナは気付いたように声を上げる。
「だからシスはラザベイ・ラボトリーを倒そうとしているのね……」
「そういうことだ。……まあ俺だけなら逃げても良かったんだがな。」
シスの言葉からリーナがいたから、リーナの為にやっているんだ、という意図を感じてリーナは少し顔を赤くする。
そして、リーナは決意した。
ここで、この想い伝えようと。
「シス……」
「なんだ?」
リーナは赤くなる顔を自覚して、心の奥底から湧き出てくる恥ずかしさとこそばゆしさを堪えて、
「私……私、シスの事が……」
そうシスに告――
「……シス。交代の時間……」
――白しようとしたがビトレイに遮られた。
「えっ! っビトレイ!? っーーーーー!!」
ビトレイに見られた、ということに恥ずかしくなって顔を真っ赤にし、テントに逃げ帰った。
「ビトレイ……」
呆れたように声をかけるシスに、
「……ふん」
ビトレイは勝ち誇ったように鼻をならした。
翌日。
テントを畳んで出発した一行は昨日と同じく岩石地帯を歩いていた。
昨日の反省を踏まえ、ワンが先行偵察、シスが殿として一行を率いていた。
そんなシスだからこそ気づけたのか。
空が薄く緑色に着色されている。
例えるなら、緑色のフィルタを通して空を見ているように。
「そういうことか」
「…なにがあったの? ……うわあ!」
シスが呟いたのを聞いて、視線の先を辿ったリーナが緑のそらをみて声を上げる。
右側100メートルを見ると崖がある。それによって仮説に根拠を与え、
「ビトレイ。上がるぞ。」
ビトレイに指示を与えて崖の上に上った。
「『関の守護者』っ!」
上がった先にいたのは3メートルは下らないだろう体躯を持つ魔物。明らかにサリアが叫んだとおりの物だった。
「なるほど。あの緑はこいつが環境を書き換えていたのを下から見ていたからか」
ワンの呟きに納得する一行。
「つまりは……ここはミナル森ってことね。やっと予定していたルートに帰ってこれた……」
ナタージャの言葉を肯定して、シスは言う。
「さあ最後のエリアだ、突っ切るぞ!」
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