殲滅の勇者
一行の全員は、シスでさえ、驚愕の衝撃で動くことすら出来なかった。
地下に広がる空間は、見渡すかぎり広がっている。一行が降りてきた崖の下まで続いているかもしれない。
そこに1メートルおきに置かれているのはガラスでできた直径2.5メートルほどの円柱。いや、正確には中空の円柱か。その中には一体づつ魔物が入っている。中の魔物はこちらに気付く様子はないので、眠っているのか。そしてそれは、魔物を中に入れた円柱は、世間一般的にこう呼ばれている。
培養槽、と。
「……ここまで大きいとは……予想してなかったし、この手法とは思いもしなかった。」
最初に再起動したシスが、ポツリと呟いた。
「……だな。俺もここは魔王のお膝元、クラクナ火山にあるものだと予想していた。」
「……っ! シスとワンはここがどんな場所か分かっているの!?」
続く同調するようなワンの呟きに、三番目に再起動することができたリーナが驚いたように訊く。
シスはいつもと同じだな、と思いながら答えた。
「恐らく、T種C種の改造場だな。」
「「「「「…………!!」」」」」
シスの言葉は、再び五人を機能停止に追いやった。
疑う事など出来ない。シスが言った事に間違いないのは今までが証明している。
五人の機能停止に気付かずシスとワンはなにやら専門的な会話を続ける。
「魔王が配下の魔物に魔法的に干渉してC種やT種を作っていたと思っていたが、こうも物理的な手法だったとはな。だが魔法が関わっていないなら方法論が取り出せる。」
「培養槽……。魔物を捕獲した上で遺伝子を組み込んだか?でも成長期の魔物でもないかぎりDNAが反映されることは少ないと思うけどな。だがそれだとタンパク質からDNAは作られる事のないというセントラル・ドグマに反するけど。」
「逆転写酵素だろうな。逆転写酵素はセントラル・ドグマに反しうる。レトロウイルスから逆転写酵素を抽出し利用したのだろう。母体又は胚に逆転写酵素でDNAを注入し、体を作る分裂時に組織を作らせていったのだろう。だから胎内の代わりに培養槽がいるんだ。」
……徐々に衝撃から脱しようとするリーナの頭には何一つ理解できなかった。
しかし、納得はすることができた。
リーナは、ディーリアの街から抱いている違和感を改めて認識する。
(T種は物凄くアンバランスだった。変化のしわ寄せによって種の大半が死滅するような進化が自然にある訳がない。だから、T種が魔王によって人工的……いや魔物工学的に作られたとしたならそれに納得がいく。)
「ど、どういうことー!?」
「信じられない……」
「…………まさか」
「そんなっ……」
ようやく改造場という所まで追いついたアチェリー、ナタージャ、ビトレイ、サリア。
しかし。
「だが、どうやって魔物がこれだけの技術を確立したのだろうな。」
「人間に協力者がいる可能性が一つ。」
ワンの疑問に対する答えが三度目に一行を驚かす。
「に、人間が魔物に協力している!? ありえないわ!」
サリアが大声を出して反論する。それに頷く五人。
人類を害する魔物に味方する人間などいるはずがないからだ。
「ああ、だから一つと言ったんだ。もう一つは、魔王がとてつもなく賢かった場合。魔王は封印されていた間動けなかっただけで思考はできる。勇者に対抗する術を考えて過ごした場合、これくらいは出来るようになるかもしれない。」
シスもそれを肯定する。
シス自体も人間が組している可能性は低いと思っていたが、可能性がある以上考慮しない訳にもいかない。
一行は一度地上に出た。
「さて。……とりあえずここを孅滅しないとな。ワン、『解放』で焼き払えないか?」
「無理だな、俺も対物術をそこまで持っているわけじゃないからな。」
否定するワンにため息をつき、ナタージャとビトレイの方を向いて訊くが、
「……私には、むり……」
「こんな半径数キロに広がる範囲を破壊する魔法なんてないよ、シス。」
二人にも断られる。
「しょうがない。『武器庫』……ガーネット、ペリドット」
シスは一人でやることにして、赤褐と萌葱の魔封宝石を取り出す。
「ガーネットの“生成”にはいろんなルールがあるんだが……使用魔力量は重さに比例し、さらに爆発するなど特殊な性質を持っているものほど単位辺りの魔力量が跳ね上がる。だが……100トンの砂糖くらいならガーネットを二つ使えば生成出来る。」
「砂糖? なにをするの?」
サリアが不思議そうに訊くが、シスは答えない。
ペリドットの制御に集中しているからだ。
(風によって砂糖をこの空間の奥底まで届ける……!)
繊細な制御はきめ細かい、ひとつひとつの結晶自体は目に見えないほど小さい結晶を運ぶ。
およそ5分ほどですべての砂糖を空間に漂わせたシスは、一言。
「着火」
瞬間、轟音とともに地が揺れ、穴から爆風が漏れた。
流石にこれは予想していたのか、あまり驚かない一行に説明する。
「粉塵爆発。空気一リットルあたり最大13.5gの砂糖が漂っていれば、酸素の燃焼速度が速くなり、爆発する。炭鉱等で起きる炭塵爆発が有名だがその一種だな。」
「シス、これでT種C種はいなくなるの?」
「いや、今までに生まれた分が消えてなくなる訳ではない。だが増えることはないから安全にはなったか。」
一行は北を目指して歩く。
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