侵入の勇者
リーナの治療をするために襲われやすい荒野から一回下がって一行はリーナの回復を待っていた。
ナタージャの回復魔法がリーナを癒し、後は覚醒を待つばかりだ。
その空いた時間を埋めるように、シスとワンは話していた。
「で、どう思う?」
ワンがシスに訊く。
「それは未開拓領域のことか? 何を魔王が隠したがっているかを俺が分かると思ったのか?」
「でも予測くらいはしているんだろう?」
「まあ、な。」
その言葉に集まってきた他の四人も合わせてシスは話し始める。
「まず思考の大前提として、未開拓領域は魔王が意図的に強い魔物を配置して守っている、と仮定する。
なぜ魔王が未開拓領域を守っているか、と考えると魔王が見られては、発見されては困るものがそこにあると考えられる訳だ。
ここまではいいな? というかここまでは容易に考えつく事が出来る。
なら見られては困るものとは何か。 ここで思考が行き詰まり易いんだが、魔王についての不審点を洗い出せば気付くことはできる。
魔王についての不審点、それは魔物の王に過ぎないのに、討伐すらされていないということだ。ラザベイ・ラボトリーのせいで出発が遅れた俺達は除いて、いつも魔王が覚醒する直前に再封印してきた。つまり、休眠状態でも殺せなかったということだ。
そんなことはありえない。死霊系の魔物でもないかぎり、不死などありえないからだ。……魔王が死霊系の魔物で無いというのは過去の戦闘から分かっている。
つまり、どこか別の場所に本体、いや核のようなものがあるのではないかと前々から俺は思っていた。」
「なるほどな」
ワンは納得したように呟いたが、他の五人は声も出ないほど驚いていた。
(魔王の核が……別の場所にある?)
それなら、魔王を倒せる訳がない。
数千年の間、完全に魔王の掌の上で踊らされていたのだ。
先人達の努力はただの延命措置にすぎなかったのだ。
衝撃で四人が固まる中、ワンはさらに驚くべきことを言う。
「|で、もうひとつの仮説は《・・・・・・・・・》?」
「『発生迷宮』へ魔物を送る基地としての施設があるかもしれない。」
「ああ、あの一番奥の黄色の宝石か。あれが『魔封宝石』で、ここと繋いで魔物を送っていたとお前は考えた訳か。」
「「「「…………!!」」」」
『発生迷宮』は確かに魔物が何故出てくるのかは不明だった。だがシスの言う通りならば、魔王は未開拓領域から世界へ様々な魔物を放っていることになる。
「うぅ………」
そのとき、リーナが目を覚ました。
「っ…リーナ、大丈夫?」
ナタージャに声を掛けられながらゆっくりと体を起こす。
「どうなったの?」
「シスが倒してくれたわ。」
それだけで何が起きたのか察したのか、リーナは少しうなだれた。
「私は、またシスの期待に応えられなかった……」
「リーナ……」
ナタージャですらかける言葉が見当たらない様子のリーナ。
一行のなかで何も言えない時間が過ぎて行った。
だが。
「あれ、なに…………?」
唯一荒野の方を向いていたリーナが気付く。
慌てて後ろを振り返るシスの目に、
――荒野がどんどん消え、荒々しい土が現れていた。
「豚鬼戦王が書き換えた環境が元に戻って行くのか。 酸が焼き切ってから一時間半くらい経つ。死んでも少しの間残るよう魔力を込めていたのか?」
シスの言う通り、環境が戻って行く。
荒々しい土が先細りになり、遠くに見える森が消えて空が広がる。
つまりは。
断崖絶壁に張り出した岩の庇の上に一行はいたのだ。
「なっ……」
シスも含めた一行が絶句する中、何もない空間の上にあった荒野がきえていく。
それはなかなかに綺麗な光景で、同時にシュールな光景でもあった。
「なるほど、帰ってきた冒険者がいないはずだわ。豚鬼戦王をすり抜けた後、地面があるように見えて実際はないここに落ちて落下死したのね。」
「……シス、どうするの?」
ナタージャの言葉を聞いてリーナは訊く。
「もちろん、この下を探すさ。魔王を完全に討伐できる術があるかもしれないからな。」
読んでいただいてありがとうございます!
次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




