攻略の勇者 後編 ウルテ密林『関の守護者』
豚鬼戦王の両刃大剣が垂直に振り下ろされる。
それが起こす衝撃の届く範囲まで予測してぎりぎりの所へ回避したサリアは、一投足に懐へ飛び込む。
「……せいっ!」
返す刀で放たれた一撃は、しかしオークの硬質な皮に弾かれる。
(それでもいい。衝撃は浸透するのだから。)
サリアはそう思いながら一度引く。
「『浸透衝撃』」
豚鬼戦王の背面からワンが攻撃を与える。
ワンが本気を出せば時間はかかるだろうが豚鬼戦王を倒せるだろう。しかしそれでは意味がないのでワンには力を抑えて戦ってもらっている。
「ブヒィ?」
再び剣を振りかぶる豚鬼戦王は、何故私達が倒れないのか理解できない、といった風情で声を上げる。
サリアはもう一度豚鬼戦王に攻撃しようと予測に従って動こうとして。
シスの声を聞いた。
「終わった、避けろっ!」
瞬間、前衛三人が射線上から回避する。
「繊細織魔法、グローリーアロー」
「『1990式熱電離気体尖形射撃砲』」
ナタージャが放つのは、いつもと変わらぬ繊細織魔法。異なるのはただ一点、重ねて織る魔法がファイアボールではなく、光の矢。いつものファイアボールが着弾と同時に爆発するのに対して、身体の奥深くまでダメージを与えうる貫通重視の魔法だ。
ビトレイが放つのは、熱電離気体を尖らせて放つ砲撃。あくまで物理現象であるそれは、接触面積を減らすという古典的な手段で貫通力を付与することが出来る。1990式という名が示すように、いつもの『1026式熱電離気体収束砲』の発展形である威力に貫通効果を加えたそれの威力は、今までのものとは比べものにすらならない。
「撃て!」
「発射!」
その、威力の上がった化物のような攻撃が、豚鬼戦王へと殺到する。
着弾。
たいした音も、光も、発しなかった。
強すぎる攻撃はあっさりと豚鬼戦王の頭と心臓を貫通し、無残な大穴を穿った。
しかし。
みるみるうちにその体が修復されていく。
「な、なんでっ!」
ただ一人慌てるサリアを横目に、ワンとリーナが推測を進める。
「再生力強化のT種……?では、ないわね」
「ああ、魔力の反応があった。単にC種として魔法を習得しただけだろう。」
「なら魔力が尽きるまで攻撃を続ければ言い訳ね。」
「それはそうだが、こいつは魔力量が多い。恐らく魔力量特化のT種なんだろう。そいつに耐久勝負なんてアホ過ぎる。一瞬で体の大半を吹き飛ばせば再生は出来ないだろう。」
「分かったわ。ナタージャ達と連携して最大火力を入れるようにする。」
そして、豚鬼戦王の再生が完了する。
「ブホォォォォォォォォォ!」
咆哮する豚鬼戦王に一度距離を取ろうとする三人。
そんなリーナの感覚に、魔力が胎動する気配が伝わる。
(なっ!? まだ他の種類の魔法を使えるのっ!?)
体を豚鬼戦王に向けて後退する、後ろ走りをしているリーナに、右手の剣が赤、左手の剣が蒼に光る様子が目に入る。
(……………)
何も考える暇などなかった。
「ブオオオオオッ!!」
怒り狂った豚鬼戦王の属性強化された両刃大剣がリーナの体をうつ。
まるで鉄骨で強打されたような衝撃に、リーナは気を失った。
シスはそれを見た瞬間、
「ナタージャ、回復魔法の用意を。ビトレイ、アチェリー……手をだすなよ。」
シスは豚鬼戦王に向かって歩きだす。
シスも分かっている。
リーナが倒れたことはリーナの不注意であり、実力不足だったからだ。
決して豚鬼戦王のせいではない。
だがそれでもシスは、愛しい者を倒した相手を返り討ちにしなければ気が済まなかった。
(リーナが倒れたのが実力不足というなら、おまえが倒れるのもおまえの責任だよな?)
「『武器庫』」
HSNCは恐らく効かないだろう。それを使わずに、豚鬼戦王の巨体を一撃で消し飛ばす攻撃をしなくてはならない。
(……そんなものいくらでもあるが、つまらない)
「トパーズ、ガーネット、爆炎結晶」
シスは『収束大砲』と同じように空間を歪曲させ、砲を構える。
シスは静かに、そして獰猛に笑って、攻撃の準備を続ける。
「ガーネット」
ハイドロゲンとコウリンとアキスジェンを“生成”。すべて気体であるそれを圧縮して極小の容器に注入、弾としてトパーズが曲げた二次曲面空間のなかへ。
「破断」
声とともに破壊された爆炎結晶が容器を飛ばす。
シスの意志に従って虚空を飛ぶ容器は豚鬼戦王上を飛び、
――爆発を起こす。
それだけならまだ普通の現象だ。
シスが何k爆発性の物質を容器の中に入れたと考えればいいからだ。
しかし。
豚鬼戦王の上で爆発した容器は爆発で豚鬼戦王を破壊し、そして。
再生さえ阻害する。
「ブホオオオオオォォォォォォォォ……」
次第に小さくなっていく断末魔に、シスは冷ややかに解説を加えた。
「酸水素爆鳴気と塩素爆鳴気。どちらも二種類の気体を爆発させる反応で、二つの爆発からでる気体を混ぜると強酸性の液体――塩酸になる。再生と同時に酸に焼かれながら朽ち果てろ。」
強敵は、シスによって葬られた。
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