討伐の勇者 前編
紅龍。
竜の住家、と言われるシラカタ山脈に棲息する上位龍の一種である。
関の守護者を倒せなくとも、やり過ごすことに成功し、調査に成功した冒険者はシラカタ山脈で地獄を見たという。
出てくる魔物は全て竜。その中に一部には上位龍すら存在し、A級どころかS級の冒険者ですら踏破は難しいと思われる、と報告書にはある。
その一因は一部の上位龍のそのまた一部、紅龍に寄るところが大きい。
紅龍は上位龍の中で数少ない飛竜であり、――分類されるところの進化種だ。
E種――その脅威は鯰の比ではない。
轟、と空気を吸い込みながら、直径1メートル強の火球が飛んでくる。
着弾した火球は周囲の木々を薙ぎ倒していくが、そこには既に誰もいない。
散開した前衛は、地上数十メートル、北々西50メートルにまで近づいた紅龍目指して森に隠れて接近する。
接近する前衛、攻撃地点を探す後衛と違って、シスは火球が通った射線から紅龍を眺める。
(でかいな……)
シスの考えた通り、紅龍はでかかった。
全長80メートルはあるだろうか、翼を生やし、長い尾を持つ。前足は翼に進化したのか存在せず、胴体の下にあるのは鈎爪が着いた太く、頑丈な後ろ足のみ。その全身のほとんどに紅の鱗を纏っている。
木々の先にかすかに見えるリーナが、手を振り上げる。
瞬間。
「繊細織魔法」
「二百砲身」
魔法の最高峰の一撃が、幾百もの攻撃を束ねた一撃が。
「撃て!」
「撃て」
歩調を揃え、少女達の掛け声と共に放たれる。
命中、着弾、そして爆爆発。
爆煙が真っ黒に紅龍を埋め尽くす。
地に堕ちた紅龍を強襲しようと待機する前衛だったが、しかし。
爆煙が晴れると同時、無傷の紅龍が姿を現す。
「ええっ!」
「なんでー!?」
まさか無傷とは思わなかったのか、声を上げる二人。だが考えて見れば下位種であるC種であった青竜蝦でさえ攻撃を凌ぐいだのだから、紅龍ができて不思議ではないとシスは思う。
(だが青竜蝦と違って攻撃を逸らしている訳ではないな。単純に耐久と堅さで耐えてるだけだ。)
シスの思考と同時。
「面倒臭え。堕ちろっ、『開放』『構築』」
爆発によって紅龍と同じ高さにまで上がったワンが作り上げた剣を振り下ろす。
剣が紅鱗に当たった瞬間、再びの呟きが練式を引き起こす。
「『開放』……『浸透衝撃』」
一瞬の間を開けて。
紅龍が、地に揚げられた魚の様に痙攣し、勢いよく地へ堕ちる。
「「「……!!」」」
驚く一部。特にサリアの驚きは酷かった。
「あ、あんなドラゴンを……!」
「大丈夫、サリア。シスはあんな程度では済まないから。」
「……それが本当なら規格外ね」
それをリーナが慰める中、アチェリーの叫びがワンへと届く。
「キールーーー!! すごーい!」
「衝撃、即ち力積。力積、即ち力掛ける時間。力をかけるだけでなく、力を長くかけることで力積的エネルギーを増加させることができる。長い時間力をかけつづければ力は浸透するから、それによって堅い鱗の下に衝撃を伝播させた訳か。」
シスがすぐにワンの行ったことを解析する。
一瞬の騒ぎの後、一行は紅龍へ攻撃を加えようと向き直る。
「ゴガアアアアアアアアアッ!!」
だが、紅龍はそれを許さなかった。 怒り心頭のようで、もともと紅い体を紅潮させて一声。
「ガゴア!」
そして。
紅龍から膨大な魔力が膨れ上がる。
「っ! ブレスのようなデザインされた魔法じゃない!? 離れろっ!!」
シスが叫び終えると同時。
視界が切り替わった。
紅龍を中心にして半径200メートルの範囲が焼き尽くされた焦土となった。
いや、焼き尽くしたのではない。この範囲の空間を書き換えたのだ。
紅龍の有利な空間にこの場所をするために。
「「「「…………」」」」
一行は黙って集合する。
本気を出した紅龍と一行最強の勇者が戦いやすいように。
読んで頂いてありがとうございます!
次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




