遭遇の勇者
一行は再び北上を始めた。
マックスやレジスタンスの構成員達は昨日夜営したところに置いてきた。目を覚ませばマックスの指示で退却してくだろう。
(あれだけの敗北を喫っしておいてまた追ってくる、みたいな判断能力の欠けた決断をしなければいいんだが。)
シスは歩きながら思う。
現在シスはそんな思考をのんびりとしていられる程には暇だった。
一行の中で最強の戦力である勇者がさらに星術を学びデメリットはあるにせよ育ったシスは、この時代、同じ人間には及ぶ者がいないほどの強さを誇る。
サリアが一行に加わったお陰で前衛の数が増えたため、調整のためシスは中衛に下がった訳だ。
だが中衛というものの役割は、後衛を守りながらの遊撃だ。
戦闘中ならともかく、移動中は索敵をしなくてはならない後衛、索敵に引っ掛からない敵や後衛が撃ち落とせなかった敵などの警戒にあたらなくてはならない前衛と比べて暇なのだ。
この一行に限って言えば索敵のアチェリー、魔法の視認範囲という制限を外した魔法銃、星術銃のビトレイがいるので前衛も暇なのだが。
(シラカタ山脈も近づいてきたなあ)
暇な中衛の耳に暇な前衛の会話が届いてくる。
「サリア……。ちょっといい?」
「私……? なにかしら」
リーナがサリアに話し掛ける。
「なんで……、なんであなたがそんなに早くシスを信じられたの? あなたがシスに出会ったのはここが初めてのはずなのに。そうでしょう?」
「その通りよ。私とシスはここが初対面ね。」
「ならどうして……!?」
「そうね。強いて言うなら……眼、かしら。」
眼?
シスは疑問に思い、その会話に耳を澄ました。
「眼?」
リーナも不思議に思ったらしく、怪訝そうな声を上げる。
「そう。私と戦った時に見せたあの眼よ。一年に渡ってレジスタンスのいろんな人を見てきた私は分かったわ。あの子は―シスは、何か色々なことを考えているように見えるけど、本当は一つの目的に走っているだけ。単純で純粋な一本の道に障害物が多すぎるから、たくさんものを考えているように見えている。」
「その目的がラザベイ・ラボトリーの剪滅ということ?」
「ちがうわ。」
「えっ?」
それが違っていると思わなかったのか、リーナが声を上げる。
「そうじゃないならどうして!?」
「簡単よ。あの子が目指す目的の、大きな障害物の一つにラザベイ・ラボトリーの消滅があるからよ。」
「……!!」
「分かってらっしゃる。」
シスは静かに呟いた。
「もしかしたら魔王討伐ですら一障害にすぎないのかもしれないわね。」
「……っ!! でも、シスなら…」
ラザベイ・ラボトリーを敵に回し、それを相手取って消滅させ、魔王を討伐することすら踏み台に、ステップに過ぎない目的。
リーナはそんなものをは思い浮かばないと思う。
俺の目的なんてあそこから脱走した時から一つだ、とシスは断言する。
(おまえをま……
シスがその言葉を心の中に呟こうとした、その瞬間。
「北々西500メートル! ふ、紅龍だよー!」
アチェリーの悲鳴が響く。
「もうシラカタ山脈かっ!」
「っ、シス! どうすれば…」
紅龍。シラカタ山脈に住み着く魔物の一種。
この二年間で一度も討伐履歴が無い化物に相対して、シスは一言呟く。
「武器庫」
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