覚醒の勇者
「だっ、団ー長!!」
「……シス・・・!!」
シスと女性が同時に倒れて声を上げる二人。
二人の中で『最強』の代名詞ともいえる女性とシスが相討ちになったことは、声を上げるほど信じられない物だったのだ。
ビトレイが既に回収していたワンとリーナの治療をナタージャはアチェリーに任せて、
「…ナタージャ……!」
ビトレイの声と共にシスへと駆け出す。
(…私が回復魔法を使えたら…)
ビトレイはこういう場合に何もできない自らに唇をかむ。
男はナタージャより早く女性へ駆け寄り、取り出したグリーンの液体ー回復薬を女性の口に少しずつ含ませていた。
ナタージャは凍った地面に膝をつき、膝から侵入してくる寒さに一度体を震わせると、シスの容体に目を向ける。
体の各所に擦過傷があり、傷口がのぞいているが、血は出ていない。とりあえずその大量の擦過傷を癒そうとシスの胸に両手を置いて、
「!!……冷たい!!」
そして驚いた。
思わず手を離してしまうほど、突き刺さるような冷たさ。それが人体に発生している。
ナタージャはそれが信じられなかった。
「ビトレイ! 40度くらいの温水を大量に作って!」
ナタージャは後ろへ叫ぶと、体の傷を治そうと回復魔法をシスに掛ける。
幸いなことに擦過傷以上の傷はないらしく、傷はみるみる治っていく。
それを見てナタージャは安堵した。
回復魔法は命ある生物にしか効果はない。死体に回復魔法を掛けても効果が現れないのだ。
しかし、回復魔法が効いたということは、シスはまだ死んでいないということだ。生を諦めていないということだ。生きる意志を失っていないということだ。
(そうでないと。私はあなたなんてどうでも良いけれど、あなたがいないと魔王が倒せないし、何よりリーナがかなしむわ。リーナのそんな様子を見るくらいなら、あなたを助けたほうがマシだわ。)
「…ナタージャ!! 持ってきた…!!」
ビトレイの声に思考を切り上げたナタージャはどこからか取り出した桶にその湯を入れると、シスの体をその中に浸す。体温に近い温度の湯で体温を上昇させる為だ。
(あまり急激に体温を上げると、組織が壊れやすくなる。そうならないようにする為には、魔法で急に上げるのではなく、湯でゆっくりと上げればいい。)
ナタージャの指示で冷めた湯が次々と取り替えられていく。
シスの体温はゆっくりと上がっていき、1時間ほどで少し低いがそれでも心配するほどではない程度まで上がっていった。
「……」
シスの意識が無意識からその狭間へと浮上してくる。
まどろみにもにた半覚醒状態が徐々に覚醒へ向かっていくのを、はっきりとしない思考のシスは急がせようとは思わなかった。
シスの中で女性は既に倒しており、警戒する必要さえも感じなかったのだ。
(あた、たかい……、やわら、かい……)
半覚醒状態のシスに、そんな感覚が伝わってくる。しかし、シスはそれがどこから伝わってくるかは分からなかった。
シスの意識がだんだんとはっきりしていく。
「……」
シスがゆっくりと目を開けると、純白のひかりがとびこんできた。少し目をつむってからもう一度目を開く。
「シス……。起きた?」
はじめに目に入ったのは、いやそれしか目に入らなかったのは、リーナの顔だった。
シスの最も好きな顔を、久しぶりにゆっくりと眺める。
「ああ、起きたよ」
シスの後頭部から不思議とリーナの体温が伝わってくる。シスの体温がまだ少し低いだけなのだが、それを言うのは無粋というものだろう。
膝枕されているシスと、膝枕しているリーナは少しの間見つめあう。
「……ねえ、シス」
「……ん?」
リーナは決めた。ここでシスへの想いを伝えようと。
ここはシスと女性が相討ちになった場所だ。周りの木々が放射状に倒されたとはいえ、豚鬼が全て駆除されたわけではないため、みんな警戒にあたっている。つまり、この場所には二人しかいないのだ。
「私、シスのことが……」
赤くなるリーナの顔。羞恥もあるが、勇気を出して言おうとするリーナのことを、シスはこの上なく愛しいと思う。
リーナがその先言うであろう言葉にシスの鼓動が早くなる。シスの上から降る言葉に胸を躍らせる。
しかし。
「……コホン。」
誰かの咳払いが聞こえ、リーナはたたずまいを治し、シスはリーナの膝から名残惜しそうに頭をどかすと自ら座る。
「すまないけど後にしてくれないか? 団ー長が話したいってさ。」
「そういうことなのよ。ごめんね?」
現れたのは男と女性。それに対してシスは少し不機嫌そうに言う。
「何の話だ?」
「謝罪と襲った理由の説明、そして私達の目的について。」
「……」
女性が提示した思わぬ話題に、シスは黙り込んだ。
読んで頂いてありがとうございます!
遅くなりました! 夏休みってなんぞや、ってくらい忙しくてP、なかなか時間が取れません。
8月末までは遅くとも週一のペースで行こうと思います!
次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




