反攻の勇者
(まずいな…)
シスは無数に魔封宝石から攻撃しながら考える。
(『正統剣術』は全ての攻撃を避け、躱していく。前兆、視線の向き、筋肉への力の入れ方、そういったものから相手が行うであろう攻撃の『時間』と『場所』を割り出して、ズラすことで躱す)
「『武器庫』」
まるで魔法のように避け続ける女性を観察し、ルビー、サファイア、ペリドット、様々な魔封宝石で乱れ撃つが、しかし一発すら当たらない。
「………」
「…ちっ…」
珍しく舌打ちしたシスは更に思考を重ねる。だがその速度はリーナがワンに操られている時には及ばなかった。
(面倒な事に、『正統剣術』は魔法を使っていない。逆か、『正統剣術』に限らず『剣術』の流派は魔法も星術も使えないものに力を与える為の手段だと言うことか。…魔法を使っていれば干渉して動きを止められたかもしれないが)
「そろそろ私を倒す手段は分かったかしら?」
シスの攻撃を平然と避け続ける女性が言葉を投げかける。
「ああ、いくつかな。…『武器庫』」
取り出した、いや空間断層から浮き出てきたのはガーネット、ムーンストーン、真紅の水晶。『風』を操るペリドットによって浮いた三つはシスによって操られる。
『生成』のガーネットが閉管を作り出し、クリスタルとムーンストーンが筒へ入る。
「『破断』」
シスの呟きとともに壊れた爆炎結晶は鉄砲と同じ原理でムーンストーンの乳白宝石を打ち上げる。
それとともに、シスは再び女性に打ちかかる。
「……?」
不思議そうに首をかしげる女性だが、しかし全ての攻撃をかわし切る。
捌いた上でシスに反撃し、それをギリギリの所でシスが守る。
明かにシスの剣の腕が足りない剣戟。
シスの体にかすり傷が、蓄積していく。
しかし。
シスは笑う。
(魔法に頼らず五感で前兆を感知する。ならば五感で感じられない場所から攻撃を放てば避けられない)
魔法を扱えない、ということは魔力を感知できない、と言うこと。
シスは全力で体外魔力操作の腕を伸ばす。
上空のムーンストーンへと。
乳白色の魔封宝石、ムーンストーン。司る概念は『光』。
普通なら周りを照らす位の用法しかないそれを、シスは星術に従い操作する。
「……、…っ!」
結果。
一本の光条が、上空より降り注ぐ。
それを星術ではこう呼ぶ。
『レーザー』と。
光は力を持たないと思われる。常時目にしているのに影響を及ぼしていないからだ。
だが違う。
空気中で散乱し、エネルギーが散っているだけなのだ。
エネルギーが散らされないように波長を整えた光は、回避不可能。放たれたら必中のレーザーとなって目標に喰らいつく。
「………ん?」
はずだった。
小さな、小さな呟きとともに、絶対の攻撃が右に一歩動いただけで回避される。
視界外、上空200メートルから放たれた光速の攻撃を。
「な……!?」
「『正統剣術』の基本にして極意、その五。”術者が感覚で捕らえられる範囲にいるならば術者の考えを読み攻撃自体が捉えられなくても回避せよ”…あなたに私は捉えられないようね」
女性が淡々と言う。
その声に若干の失望が混ざっている。
レーザーの当たった地面から加熱された水蒸気が噴き上げる。この程度の温度なら死ぬことはないだろう。それが女性を失望させた理由の一つだと言うことにシスは気付いているだろうか。
「いや、まだだよ」
女性の視界外からの攻撃を避けるという非常識な行動に対する驚愕から一瞬で意識を外したシスは、もう一度魔力操作の腕をムーンストーンに伸ばすと同時。
「『武器庫』」
もう一つ紺色に黄金の条痕を持つ魔封宝石を取り出す。
「いつまでお遊びを続けるつもり? いい加減にしてほしいわね」
女性がシスへ、暗に次の攻撃で終わりということを伝える中、シスは。
「っっっ!!」
次の瞬間。
本当に一瞬。秒に直せば数十から数百フェムト秒だけの時間。
レーザーが放たれる。
フェムト秒。即ち、一兆分の1秒の世界で放たれたレーザーが及ぼした現象。
通常に考えればなんともないように思える。女性もただの威嚇だと思い、しかし念のため目を向けてみれば。
そこは。
凍っていた。
「……!?」
今度は女性が驚く番だった。レーザーは先の攻撃が示す通り、当たった所を加熱する、筈だ。決して冷却などしないはず。
しかし女性がどう考えようと、そこは凍っている。
いや。
静止している。
「ラピスラズリ。…増幅せよ」
シスが呟く。
と同時、静止している場所が最初の場所を中心に広がっている。
紺金の宝石、ラピスラズリ。内包する概念は、『増幅』。
地面に対して絶対温度0ケルビンで静止している状態を『増幅』した。
(…なるほど、移動を阻害することで『正しい場所』をずらす事を防ごう、と言うわけね)
女性はそう分析する。
それはシスの意図としては正解であり、そして一部でしかなかった。
そこへ、やや遅れてシスが言う。
「『レーザー冷却』。粒子は励起状態というエネルギーを持った状態になると、一定時間後光子を放出して基底状態、つまりはエネルギーを全く持たない状態に移行する。エネルギーつまりは熱運動。基底状態ということは絶対零度。レーザーをほんの少し当てる事で粒子にエネルギーを与えてわざと励起状態にし、光子を放出させて絶対零度にしたと言うことさ」
「それで……? 私はそれでは倒れないわよ?」
女性の言葉にシスは思考を加速させ、最後の案を造り出す。
(この滑りやすい大地と範囲攻撃で『正しい場所』は無効化できる。あとは『正しい時間』だが…。時間、あれしかないか…!!)
「『武器庫』」
最後の攻防。シスが選びその手に握るは萌葱と紺金。
そして。
シスが最後の攻撃の引金を引く。
「ラピスラズリ。…増幅せよ」
先と同じ言葉で!!
凍る。温度が下がり、静止する。
シスの体の。
(思考能力と魔力操作が残ればいい。それ以外は眠れ!)
「……」
顔が蒼白になり、体の動きが鈍くなっていく様子を、女性は不思議そうに見ている。
(時間の流れは一定ではない。光速で動く物体の時間は止まるし、高速に近い速度なら遅くなる。なら速度が遅ければ? 普通に立っているだけではない、熱運動の速度さえ落とせば時間は早く流れる。女性が実現するズラしとは別の次元で!)
シスの思考が混濁し始める。当たり前だ、通常の低体温症では三十五度で震えが、三十二度で意識混濁が起きるがそれより三百度以上温度が低いのだ。あまりにも温度が低すぎて、逆にコールドスリープのようになり、身体自体は保存されるのかもしれないが。
シスの頭にかかる霜を指一本動かせない体で追い払ってシスは集中する。
女性が避けられない『正しい時間』を探す為に。
それは簡単に見つかった。早く流れる時間軸ではなく、実際の時間ではいくつかは分からないが。
魔力操作に体が動くかどうかは関係ない。
(おおおおお!!!)
萌葱色のペリドットが、八箇所から空気を膨張させ、中心に強力な圧を加える。
「―――――――――」
女性は声無き声を上げて倒れる。いや、シスの耳が機能していないだけかもしれない。
(…よし、倒した…。……、ラピス、……ラズリ。ぞう、ふく……)
シスはラピスラズリに、マイナスの増幅をかけようとして、意識を失った。
読んで頂いてありがとうございます!
この夏休み、もう一本書こうかと思っています。その編集作業を行うので、しばらく更新が不定期になるかもしれません。
連載し始めましたらまた報告しますので、そちらもよろしくお願いします。
次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




