迫撃の勇者
「北北西百七十二メートル、北東二百九十三メートル…」
「…、発射、…発射」
発射光が断続的に放たれる中、一行は小走りに北へ向かう。
一行のうちおよそ七十パーセントが襲われるこの場所は、長居したくない場所だ。
シスの指示通りにアチェリーは探査圏を数百メートルに設定し、ビトレイはその情報を元に走りながら狙撃する。
アチェリーはともかく、ビトレイは凄まじい技量だがビトレイがそれを誇ることはない。
(シスなら…もっと上手くやれる…!)
それはこういう理由ともう一つ。
(…リーナよりも私のほうを向いてもらうには、まだ足りない…! もっと…!!)
ということである。
リーナがシスの告白に気付いたように、ビトレイもシスのリーナへの告白に気付いていた。
気付いた当初は衝撃を受けたビトレイだったが、彼女は諦めたりなどしはしなかった。
ビトレイは口数は少ないが、決して気が弱い訳ではないのだ。
そして、ビトレイはシスの気を引こうと、しかし今そんな事をしている暇はないので、結局戦闘面で役に立とうと努力しているのである。
「…発射」
さっきから”豚鬼”相手に魔法銃『実体破壊』を使っているのもそう言うことである。
発射された魔力が直接相手に干渉するこの魔法銃は、貫通可能な途中障害の影響を受け難い。そのため、木の葉といった障害が多いこの密林内の離れた敵でもスムーズに倒すことが出来る。
(シスの役に立って…振り向いてもらう…!!)
「南南東二百五十メートル、南南西二百五十メートル…」
「…発射…、発射」
体を百八十度回転させて間を空けずに連射したビトレイは、そこに違和感を覚えた。
(…南南東? …南南西…? おかしい、進みながら魔物を撃ったから…、後ろには…居ないはず)
そんなことはどうでもいいとばかりに弾は跳び。
そして。
弾が躱される。
「……!!…止まって…!」
「! …どうした」
ビトレイの声に一行は足を止める。シスの問いかけにビトレイではなくアチェリーが答えた。
「南南東200m、南南西200m…」
「ビトレイの銃が当たらない魔物が急接近しているということか…」
「…うん」
シスは辺りを見回す。決して広くはないが、一歩踏み出せば直径一メートル半ほどの空間はあるだろう。
「下がってろ。ワン、前に出ろ。迎撃だ」
ここで迎撃することを決め、”豚鬼”の上位種である可能性を考え女性陣を下がらせる。
「南南西九十八メートル……!! シス…!! 魔物じゃないよ! 人だよ!?」
「…!!」
およそ十秒後。
森の中という地形でありながら凄まじい速度で距離を進んだ二人がシスの前に立つ。
「貴方達のたびはここで終わりにさせてもらうわ」
「団ー長。それだけだと言葉が少なすぎやしませんかねぇ」
「それで良いのよ。末端の構成員に全てを知ってもらう必要はないわ」
男の声が片方を奇妙なアクセントで団長と予備、団長と呼ばれた薄い青が混じる長い銀髪の騎士鎧に身を包む女性が凛とした声で答える。
「末端の構成員…? 俺たちがか? …何か勘違いしてないか? 俺たちは勇者一行、魔王を倒しに行く途中だ」
シスが団長と呼ばれた女性に言う。しかし女性はまるでそう言うことがわかっていたかのように、ピクリとも顔に筋肉を動かさずに言う。
「Project『WC』所属、№1、元Project『Braver』所属Project『WC』所属№6、Project『Braver』所属№0」
「……!!」
「……!!」
「……!!」
「これで求められる理由が分からないかしら。『ラザベイ・ラボラトリー』の実験体、そして尖兵さん?」
「漏れていたのか、驚いたな…。ということは脱走の外部手引きはありえないと思っていたが前提条件を変えて考えないといけなくなったな…」
答えたのはワンだった。
「お察しの通り、われわれは『ラザベイ・ラボラトリー』、Project『Braver』の最終実験を行っている。それをとめるということは『ラザベイ・ラボラトリー』と敵対することになるぞ?」
「おい、ワン…」
「黙ってろシス。ここは『ラザベイ・ラボラトリー』の問題。お前にとっては違うだろう」
言外にお前にとっては『ラザベイ・ラボラトリー』に反撃する糸口になるだろうと言われ口を噤むシス。
「…嬉しいわ、認めてくれて。…『ラザベイ・ラボラトリー』は消えてもらう必要があるでしょう? 人の尊厳さえ奪うあそこを残しておく理由なんてないでしょう? あそこをなくすためには信用を失墜させるのが一番。そのためにはあそこの計画を邪魔することが最も効果的でしょう? …世界征服なんてさせない。貴方達をここで倒して、あそこに計画失敗と言うダメージを与えてやる!」
「シスッ! 首輪をどうにかしろ!」
「っ、『武器庫』」
取り出した『消滅』を司る魔封宝石、アメジストにより紫紺の輝きとともに首輪が消え去る。
ワンと女性が激突する。
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