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北上の勇者

 「ドーラ湿地の東にあるのはウルテ密林…だったよな。北上すればシラカタ山脈に辿り着くと思うんだが、俺の記憶違いではないよな?」

 たいした戦闘もなく進み、古木の倒れているところで休みながらシスが訊く。

 「…それだと大雑把すぎるわよ」

 ナタージャが答えた。

 以前デカリア草原、ディーリアの町で地図を扱っていたナタージャは地図をだいたい覚えているのだろう。

 「ウルテ密林はトラル川を挟んでドーラ湿地の反対側の森林帯を指すのよ。シラカタ山脈の東端はウルテ密林にあるとは言われているけれど、ウルテ密林の北が全てシラカタ山脈に塞がれているわけではないのよ」

 「…成る程。シラカタ山脈にふさがれていない北側はどうなっているんだ?」

 「…分からないわ」

 「?」

 ナタージャは少し悔しそうに唇を噛むと。

 「未開拓領域があるのよ。冒険者に探索依頼を出しても、十分な調査も出来ない所」

 と補足した。

 「つまり、トラル川に東へどれくらい流されたかが問題ということ?」

 「そうね、ここが まだシラカタ山脈にいけるかどうか…。遠くには見えるけど、微妙な所ね」

 リーナの言葉にナタージャは同意する。

 「未開拓領域かぁ…」

 シスの呟きが空気に溶けていった。


 「北西五十二メートル、”豚鬼(オーク)”、北二十三メートル、”豚鬼(オーク)”三体だよー!」

 再び進みだした一行に、この森――おそらくウルテ密林―に生息する魔物がやってくる。

 「繁殖期じゃないといいんだが…」

 シスの呟きが示すように、”豚鬼(オーク)”は繁殖期に凶暴になる。それはよく知られていることだった。

 ”豚鬼(オーク)”の種族特性は、『繁殖欲求ブレイディングデザイア』の繁殖期にのみ発動する特性だが、効果は著しい。

 自らの全能力を、普段の五割り増し、もしくは数倍にまで引き上げる。

 それを使って、繁殖期の豚鬼は襲い掛かってくるのだ。

 何故繁殖期のみそのような状態になるのか。

 元は単なる生存本能だったものが、種族特性まで昇華されたと(男の)研究者は言う。

 そう、生存本能。

 雄性体しかいない”豚鬼(オーク)”は、他生物の雌性体がいないと繁殖できないが故に持ち得た生存本能である。


 「っ! 最悪だ…!!」

 ついに遭遇した”豚鬼(オーク)”、その数三。固体全てが豚に似た顔から荒い息を吹き出している。

 全身はくすんだ薄茶色のはずが、ほんのりとピンク色を浮かばせていた。

 全て、繁殖期の豚鬼が持つ特徴である。

 「リーナは前に出るな! アチェリー全周囲警戒! ナタージャは俺たちの援護を、ビトレイはアチェリーの魔法を元に片っ端から撃ち抜け!」

 シスの緊迫した声に従う一行。珍しく、シスが汗を滲ませながらキールと共に三体の豚鬼を相手取る。

 シスが『カリバーン』を。キールが騎士剣と盾を構え突撃する。

 たとえT種だろうとC種だろうとE種だろうと対応できるように。

 「『武器庫(アーセナル)』」

 『カリバーン』の柄に蒼い水晶をはめると、シスは”豚鬼(オーク)”に叫び声を上げさせる暇も与えず斬りかかる。

 剣から伝わる手応えは柔かくなかったが硬くもなかった。

 「これなら…」

 いける、と直感で感じて三体の”豚鬼(オーク)”、その胸に、剣の柄まで葉が埋まる突きを叩き込む。

 普通なら致命傷である傷だが、体力を強化されているT種なのか二体は生き残る。

 斬った傷口が凍り水がある”豚鬼(オーク)”が怒ったようにシスへ向き直る。

 「南東二百五メートル…、西南二十二メートル…」

 「…、発射(ファイア)

 「シス…頑張って…!」

 後ろの無事を音だけで判別し、シスは仕上げとばかりに攻撃を放つ。

 「『武器庫(アーセナル)』」

 取り出したのはルビー魔封宝石(ジュエル)。加熱するのは”豚鬼(オーク)”体内の氷。

 一瞬で数千度まで加熱された微量の氷は極小の水蒸気爆発を起こし、衝撃を体内へ伝播させる。

 更に後方からナタージャの魔法で氷の雨が降り、”豚鬼(オーク)”の体に穴を開ける。

 体内と体外から一斉に攻撃を食らった豚鬼は一たまりもなく絶命した。

 「T種だったな…。C種が表れたのはデカリア草原の『関の守護者(フィールドボス)』のあたりだったはずだ。それより南に流されたのか?」

 「その可能性は十分にあると思うぜ。っていうか俺は魔王討伐とかどうでもいいから帰してくんない?」

 「それは無理だな。…お前キールなのかワンなのかはっきりしろよ」

 シスが三体の”豚鬼(オーク)”を倒して女性陣の方を向くと、ビトレイが丁度『実体破壊(ブレイクブリンガー)』で最後の豚鬼を打ち抜くところだった。

 「南西八十八メートル、一体!! 最後だよ!」

 「…発射(ファイア)

 「終わったか?」

 「…うん。…シスのほうも大丈夫…?」

 「ああ、これくらいで遅れを取る訳無いだろ」

 ビトレイとリーナがシスを心配するが、杞憂だとばかりに笑い飛ばすシス。

 それよりも重要なのは。

 「まずいな、”豚鬼(オーク)”が繁殖期だ。四人も女の子がいるこの状況は流石にまずい。早くウルテ密林は抜けよう。アチェリー、ビトレイ、頼めるか?」

 「分かったー!」

 「…、任せて」

 ”豚鬼(オーク)”への対策だ。この面子の一行が長居したい場所ではない。

 「よし、行くか」

 一行は歩速を早めて北を目指す。


 「団ー長。位置が特定できました。ウルテ密林の南より中央部っすね」

 「わかったわ、すぐ出撃よ」

読んで頂いてありがとうございます!

次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!

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