回想の勇者 ⑧
「…何か分からなかった所はあるか?」
少し経って、四人が落ち着いてからシスは言った。
シスの話の中にわからないことはなかったが、シスの話で生じた疑問をリーナはシスにぶつけた。
少し経って、安心より恐怖が勝ってきたその質問を。
「シス…、私は、わたしは……、何物なの……?」
「……」
沈黙が満ちた。
それはシスにとっても究極の命題であり、自分への問い掛けと同義であった。
ラザベイ・ラボラトリーはシスが体験してきたとおり、凄まじい力を持っている。それこそ人間が思いつくことは殆どできると思えるほどに。
魔法と星術、その二人を組み合わせれば何でもできる。
人の記憶を操ることも。
(俺は脱走してきたからラザベイ・ラボラトリー内の記憶については改変されていないはずだ。だがその前の記憶は? 村についての記憶は? 俺の半生についての記憶は? 俺は二年もあそこに居たんだ、少なくとも数十回は記憶に手を出すチャンスはあったはずだ。俺はさっきリーナ達に語ったが、正しいかどうかは実際分からない……!!)
「シス……?」
しかし、シスの悩みは、逡巡はリーナの声で消え去った。
ナタージャも耳を澄ます中、シスは息を吸って話し始めた。
「恐らく俺と同じ、どこかの村を…攻めて、誘拐してきたのだろう。俺を攫っていった奴らは初めてではないようだったし、俺で味を占めればそれからも続けただろう。記憶は恐らく本物で、誘拐からラザベイ・ラボラトリーを出るところまでの記憶が書き換えられているはずだ」
記憶の話は願望であったが、シスはそう語る。
「じゃあ…」
「あぁ、変わっている記憶はここ過去一~二年の事だけだと思っていい。リーナの子供の頃の体験は本物だ。…1~体験や記憶のストーリーを作り出すのは不可能ではないが、多大な労力がかかるはずだからな」
「…うん、ありがとう、シス…」
完全に恐怖が払拭された訳ではないだろうが、リーナは自分が自分でないかもしれない、という最悪の疑問から脱出できたようだった。
少し涙を流して笑顔を見せるリーナに、シスの心は跳ね、嬉しくなる。
それを隠すように、しかし早口にならないようにシスはナタージャに言う。
「ナタージャのアルビノの様に白い肌もそう言うことだろう。恐らく筋肉に刺激を与えて筋力低下を押さえた上で、記憶を書き込んだんだ。二年も暗所にいれば、メラニンが退化して白くもなるだろうしな」
「……なるほど…」
納得した様子で頷くナタージャ。それを見て、アチェリーが言った。
「つまり…、キールは最初からアチェリーたちを騙してたって事なの?」
「そうなるな。セルフ・ハンディキャッピングを使って態と自らを弱体化して、ばれない様に努力していた節もあるしな。…恐らくリーナの監視の為に、他の人間にばれない位置で居たかったんだろう」
「ぐすっ…ぐすっ…」
シスの言葉にアチェリーは泣き出した。しかしアチェリーならもっと盛大に泣きそうなものだが、抑えているのだろう。アチェリーもアチェリーなりの強さを持っているのだろう。
「…『マルチファイラー』に危険は…?」
「それは大丈夫だろう。『1024式全銃統合砲を含む星術、魔法を使った強化武装を作るProject『Armament』は補助的に行われていたし、人体実験が必要なものでもないしな。あくまでProject『WC』で出来た人間の底上げを目指していた」
ビトレイの疑問に答えるシス。それには淀みはなかった。
「…」
「…、」
「……」
「…、…」
一人ひとりの顔を向け、目を合わせる。
「よし、まぁ俺の過去はこんな感じだ。もう隠していることはない」
全員が頷き、もう疑問のないことを確認してからシスは宣言する。
「…明日から魔王討伐を再開するよ。今日は…今は夕暮れか。体力を蓄えよう」
その後、リーナの号令によって皆で休む準備を進めていく。
「まだ№6は見つからないのかいィ? どうなっているのさァ? トー」
「はい。まだ見つかっていません」
「全くどうやって脱走したのかねェ。施設はどこも壊れてないィ。配管は人がとおれる大きさじゃないィ。おまけに|№6は魔法を使えないィ。管理システムの構造上、外部からの手助けでもない限りだそうは不可能なはずなんだけれどねェ」
「隊ー長。向こうの位置は分からないですよ。そんなにあせっても無理ですよー」
「…それでもあそこは…、亡ぼさなければならないのよ…」
読んで頂いてありがとうございます!次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




