回想の勇者 ⑥
№0と呼ばれる彼女とは、あの後サン以上に沢山戦うことになった。
どうやら彼女は俺のデータを基に剣術、体術と魔法を効率よく使う為に調整され設計されているらしい。
今打剣の扱い方を教わった当初という感じで俺の癖が濃く出ているが、慣れていくうちに彼女の癖が出てくるだろう。
彼女と出会えたことで俺はルーチンワークから抜け出すことができた。
元の異志のまま、ここを脱出する計画を立てることの出来る精神力を取り戻すことが出来たのだ。
戦う中で、彼女との中もより近くなっていけたことが嬉しかった。
ある戦いが天気だった。
「№57と№6の戦闘演習を開始します」
俺は五十mほど離れたところにいる小柄な男を睨んだ。
№57は番号が若くない為、そこまで研究価値がないと思われているということだ。この研究所では強さイコール研究価値と思われている節がある。そこまでの戦闘力はないはずだ。
あまり知られていないフンのことをそう分析してシスは魔法を練り上げる。
練り上げるのは炎弾。放たれた魔法はフンに当たる前に強引に散らされる。
「…」
「っ…」
全く動こうとしないフンにシスは少し動揺を見せるが、意識を切り換えてもう一度魔法を組み上げる。
自己認識加速と身体強化。
魔法攻撃が効かないなら物理攻撃で。
単純で、しかし堅実な選択。
その、ありふれたと言える、しかし最善手の積み重ねがこの頃の俺の強さの一端ということに、既に薄々は気付いていた。
サンやゼロの攻撃パターンが、かすかにシスの癖の臭う単純選択の積み重ねになってきていることを感じたからだ。
その王道ともいえる最尤手のはずの攻撃を放つ。
やはり全く動こうとしないフンの最も効果的な打点――左胸、心臓に向かって強烈な右拳を放つ。
見切って躱すつもりである可能性をも考え、インパクトの直前まで意識を集中させ動きを見える。
しかし。
(全く動かない…? 何のつもりだ!?)
直後。
右拳が左胸に当たって、強烈な衝撃を放つ。
「…ッ!!」
「…っ」
全く同じで、込められた感情のみが違う声が発せられる。
笑いと驚き。
そう。
嗤っているのがフンで。
驚いているのがシスである。
シスの驚きは単純であった。
右拳が捉えた感触が、柔いものだったからだ。
「お前…っ! 女だったのか…!?」
そしてフン―――少女はかすかな呟きとともに。
嗤う。
「私の肌に……………、触れたね…?」
少女の手は弱弱しく、しかしまっすぐにシスの首筋に伸ばされ、添えられ。
「んなっ…!!」
その事実に気付いたシスが声を上げるより早く。
「『精神汚染』」
少女の魔法が、発動する。
(なっ、精神干渉…!? 他魔力拒絶、いやそんな…)
シスの頭の中で少女の目的が列挙される。
他魔力拒絶反応を使った相手への攻撃。
それを語って基点とする星術的精神干渉。
どれも違う。
少女の目的は最初に告げられていた。
精神汚染、と。
『精神汚染』少女固有の魔法だ。
少女の魔力特性は「他人の精神に干渉しても他魔力拒絶反応を起こさない。
血液型で言うならO型のように。
HIVウイルスのように。
他人に進入しても何の反応も起きない。起こさせない。
彼女のその特性を利用してデザインされた魔法。『精神汚染』。
彼女の魔力を通常ではありえないレベルの深さにまで送り込み、対象の精神を丸ごと魔力で汚染、相手を操ることが出来る。
最強の矛。
一度は発動すれば反撃しようという意思ごと彼女の手中に収めることができる。
その分、相手との接触が必要、という条件があるのだが…。
「かかった…」
少女は笑う。
もうこの少年――シスは逃げられないと分かっているから。
だが。
シスは、その全てに抗ってみせる。
魔法に汚染された所へ自らの魔力を当て構造を押し流す。
入り込もうとする魔力に、自らのゲートを出来るだけ閉ざす。
それでも入ってこようとする魔力を精神で耐え、順に構造を破壊していく。
最硬の盾。
形無き魔力の奔流と、他人を犯すあらぶる魔力の構造がせめぎあう。
拮抗する。
「ああああああああああ!!」
「すごいっ……! でも…!」
互いに互いにその手を阻もうと、次々に魔法を放つ。
まるで、ウイルスとワクチンのような。
あたらしい手が次々と現れては潰され。
そして。
少女は再び嗤う。
シスが気付いていない精神領域に、もう手が届くから。
魔法制御領域。
魔法を操るここは自らの魔力の奥底にあるからこそ、自らの魔力での干渉がとても難しい。
そしてフンにとって、シスの抗いを無効化できる最善手。
「ふふっ!」
少女が、まさにそこに手を伸ばそうとしたとき。
「おおおおおおおおっ!!」
シスは自らの魔力を全て爆発させる。
「なっ、気付いてっ!」
フンはシスが気付いたのかと勘ぐったが、違う。
フンが何かをしていると思って、シスは自らの精神より全ての魔法を拒否したのだ。
「 」
結果。
シスの心に説明できない感覚が生じ。
シスは、ばたりと倒れた。
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