回想の勇者 ⑤
しかし、機会は訪れなかった。
ベッドがある白い部屋は言わずとも、データを取る為、と称して様々なやつと戦わされる白い壁の部屋も、壁や床、天井を壊すことは愚か、傷付けることすらできなかった。
部屋と部屋を移動する間にも、十人以上が魔法銃をつきつけ、抜け出すチャンスを与えない。
毎日が同じように過ぎ去り、ついには全てがルーチンワークに思えてくる。
戦うもの。
護送されるのも。
機会を窺うのも。
心を折る。
無意識のうちに、しかし確実に、そして堅実に。
これがラザベイによる自分を従わせる策だと気付いた時には、既に手遅れになっていた。
魔法でなくとも、人間の精神に干渉する術。
星術。
今まで俺たちにとって考えるに値しなかった、意識に留めることさえしなかった技術に打ちのめされた瞬間だった。
まだ『攻性鎧』がまだ開発されていない頃、まだ拳術のみで戦っていた頃のサンの拳を軽やかにかわし、魔法強化した物理衝撃を纏わせた蹴りで吹き飛ばす。
「がぐぅっ!! 俺様を蹴り飛ばすとは、やるなぁ…!!」
「…せめて一撃でも俺に入れてから強がれよ」
№13、サンはシスとよく戦わされた実験体仲間だ。
しかし、戦い方そのものはイーブンではない。
シスの蹂躙だ。
いわゆる脳筋、しかしパッと見ではそうとは気付かれないようなサンは、猪突猛進という言葉がぴったり来るほど単純な攻撃しかしなかった。
其の分一撃あたりの威力は非常に高く、シスにとっても侮っていい相手ではなかった。
しかし、余裕のある敵ではあった。
シスは淀みなく魔法を織り上げる。
自己認識加速と身体強化。
シスはそれらを再び自分にかけなおすと一歩踏み込む。
ドンッ!!
と、太鼓を叩いたような轟音が響き、シスの体が瞬時に加速される。
爆発的な速度と引き換えに、体の動きが雑に――ならない。自己認識加速魔法はまさにそう言う事態に備えてあるのだ。
一歩で十メートルはあっただろう距離をつめ、その速度のまま、腕の加速を上乗せして拳を放つ。
一瞬で昏倒したサンの重みを地面に落として、シスは天井を見上げた。
「戦闘終了。三分後から、№0との戦闘を開始します」
女性の合成音声がそう告げる。
さして疲れてはいない俺は立ったままそれを待った。
「№0が入室します。№6はその位置から動かないで下さい」
俺から最も離れた扉から、№0と呼ばれたものが入ってくる。
そちらに目を向けて、
俺は目を疑った。
(女神だ…)
そう、俺は彼女に一目惚れしたのだ。
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