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回想の勇者 ④

 声の主は5番と名乗った。

 「よう6番、俺は5番だ。略してフブ、と呼ばれてる。お前は6番だからシスか?」

 「…、そうだ。俺は6番で…、あぁクソッ! 元の名前が思い出せない!」

 「諦めな。俺はここに数年いるが、独力で解除できたヤツの話は聞かねぇ」

 声は隣の部屋から、詳しく言えば扉を正面に見て左、最奥、最高のところにある からだった。

 右の壁を見れば、同じような穴がついている。十五センチ四方ほどだろうか、目の粗い網が嵌ったそこは、どうやら通気口として機能しているらしかった。プライバシーどうこうといった考えはないらしい。

 「で、お前の配属された実験はどこだ? ベッドの枕もとに端末があるだろ、そこにお前の実験計画が載っているはずだ」

 「随分と親切だな…」

 とりあえず情報がほしかったのでしばらくはフブに従おうと思って、俺は端末を手にする。

 「…どうやって操作するんだ? 画面しかないぞ?」

 「その画面を触れ、そうすれば操作できるはずだ」

 フブに従って画面に触る。途端に息を吹き返したように真っ黒だった画面に情報が表示された。

 俺は一番頭に書かれた文を読む。

 「”実験体6番、主実験、Project『Braver』”」

 「ぷろじぇくとぶれいばー? 何でまたそんなところにこんな高い番号のやつが送り込まれるんだ。アレはまだ実用実験の段階じゃないぞ?」

 「どういうことだ? 高い番号?」

 「あぁ、実験体は番号が若いヤツのほうが研究価値があると思われてんのさ。つまり、高い番号に昇格されたら、そりゃ体を弄られなくなる。代わりにデータ収集されるけどな」

 「…Project『Braver』はまだ完成していないから、データを取る段階じゃない、というか? まだ体をいじって調整する段階だと?」

 「そゆこと。まぁ今日はもう夜だし、明日から実験かな? シスも休んだほうがいいよ」

 「…分かった」

 一方的に話を切られる。

 俺はベッドに寝転んで端末を操作した。

 「Project『Braver』って結局何の計画なんだ?」

 端末を操作すると、それは直にわかった。

 「…ふざけるな」

 Project『Braver』の文字列を触る。それだけ出てきた文章を読んだ俺の感想がそれだった。

 「ふざけるなよ、人を舐めすぎだ、人命を弄び過ぎだ! 目的がクソ過ぎる、本当にふざけるな…!!」

 俺は端末をベッドのないほうの壁に投げつける。端末はガン!! と大きな音を立てて落下したが、壊れはしなかった。

 俺はそれを見ないで目を瞑る。

 瞑った先にも、文章が踊っていた。


 Project『Braver』

 人工勇者創造計画。人類の到達点とも言える勇者を生成することで、今後世界の覇権を握るに当たってアドバンテージを得る。

 歴代の勇者は『女神』という存在を口にしたが、そのアプローチは取れない。

 星術的、魔法的アプローチによって肉体スペックを限界以上にする。

 成功目安実験体、6番が入手できた為、実験は加速すると思われる。

 総合使用実験体数1032、廃棄数911。


 目を瞑っても眠れなかった。

 眠れるわけがなかった。

 廃棄数911。

 その数が頭から離れなかった。

 千人単位の犠牲を出してやることが人工的に勇者を作ること?

 ありえない。

 冒涜の極みではないか。

 神を。運命を。――――人身を。

 狂っている。

 

 俺は本当にそう思った。

 クレイジーとかそう言う次元ではない。

 人の命を代替可能な消耗品と捉えるその思想が。人に対して同意も取らず、平然と人体実験を行えるというその気概が。人としての尊厳を奪っていく其の在り方が。

 何もかもが、俺にとって許容できない。

 フブは既に諦めているようだったが、俺は決意した。

 ここから出てやると。

 「ふざけるなよ、ラザベイ…!!」

 呟きが、澱んだ空気に溶けていった。


読んで頂いてありがとうございます!

2週間ぶりにご無沙汰です。キリの悪いところで中断してすみません。

もうそろそろラストに向かって突っ走ろうと思います!

この間にPVが3000を超えました!本当にありがとうございます!

次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!

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