回想の勇者 ①
『武器庫』から取り出した拘束具でワンを拘束した後、五人は朝食に戻った。
皿から落ちてしまったものも多くあるが、ナタージャのファインプレーによって鍋に残ったスープだけは死守されていた。
かろうじて更に残ったものと、ナタージャが平等に五等分すたスープを飲んで一息つく一行。
その中でシスの体調だけが異常だった。
「疲れた…、魔力も枯渇しているな。これが代償ということか」
シスの訪れる猛烈な倦怠感と魔力枯渇。シスのいうとおり、『滅魔帝』の代償であった。
肉体を酷使したことによる倦怠感はどうしようもないが、魔力枯渇は確かに代償だ。『滅魔帝』を使っている間は時間制限などは感じなかったため、おそらくは…
「一回使えば魔力枯渇が起きる、か。使用時間に比例しないで魔力枯渇を起こすなら、確かに諸刃の剣だな。…普通なら、な」
しかし、シスにとって魔力枯渇は問題にならない。シスは水晶や魔封宝石に先に溜めて追いた魔力を使って戦う。言い換えれば過去の魔力を使っている為、その時の魔力量は関係ないのだ。
つまり、シスは倦怠感のみを代償として『滅魔帝』を使うことが出来る。
そう結論付けると、シスは意識を現実に戻す。
食事をし終えたリーナがこちらを見つめている。
「…話すよ」
シスはそう言った。
一通り朝食の片づけが終わってから、シスの目の前にナタージャ、リーナ、ビトレイ、アチェリーの順に四人が座る。
「……?」
「…シス…」
「…、…」
「何の話…?」
その中で、リーナが1番緊張しているようで、怖がっているようだった。
それも仕方がないだろう。
リーナにとって疑問だったことが、あの記憶の正体がやっとわかるのだ。
ワンや、サンや、エトが自らを0番と呼ぶ理由が、シスがリーナをおかしいと肯定した理由がわかるのだ。
緊張と恐怖でガチガチになりながらも、リーナは覚悟を決めた。
「まず、これから俺が話すことは全て真実だ。特にリーナ。それとももしかしたらナタージャの価値観が崩壊するかもしれない。でもとりあえず疑問を横において話を聞いてくれ。その疑問は話が終わる頃には氷解するはずだ。後に残ったのが、どんな感情だったとしても」
「…解った」
「…リーナがいいならいいけれど…」
「…。…、うん」
「どういうこと? でも、んー。わかった!」
リーナが最初に答え、後に全員が続く。
それを聞いてから、シスは語りだした。
「事の発端は二年前…
事の発端は二年前。王から各地に『魔王覚醒』が伝えられた頃だった。
その頃俺は、セントラル南の農村に住んでいた。
貧しくはないが豊かでもない、そんな村だった。
セントラルを取り巻くユルド森を出たすぐの所にあって、セントラルに作物を出荷することで利益を出す、小さな村だった。
俺はそこで一生を終えると思っていた。
魔法の才は優れていたが、そこまでのものだとは思っていなかった。もし思っていたとしても、魔法大学へ行く程のか根はなかったから行くこともなかった。
家族は六人だった。
祖父、父、母、俺、弟、妹。
寡黙な祖父と、厳しい父と、優しい母と、やんちゃな弟と元気な妹。
このまま生きていけると俺は疑いもしなかった。
だが。
俺は選ばれてしまった。
――ある日、いつものように父と畑を耕している時に、俺は声を聞いた。
女神の声を。
女神の声はこう語った。
――おめでとう、君は勇者に選ばれたよ! 仲間を探して、魔王を倒して!!
その声の反響が、俺の頭から消えた時。父が、こちらを凝視していた。
「息子よ…。今、女神様からお前を勇者に選んだと宣告された。…本当なのか?」
その言葉で、やっと俺は理解した。
俺は、勇者に選ばれたのだと。




