激闘の勇者 後編
「舐めないでくれるかな?『開放』」
未だ少し混乱しているワンはとりあえず様子見をしようと爆発を放つ。
しかし。
「ブラッドストーン」
暗緑色の魔封宝石がシスの意思に従って魔力を放つ。
爆発が起きる直前、爆発の周囲の空間が重力によって歪む。どうやってか爆発が起きる場所をシスが特定したのだ。
爆発。
しかしその威力は全て空間によって出来た片端が二次曲面、片端が開端の筒によってワンに向かって収束する。
二次曲面。それはエネルギーを集中させる効果を持つ。
「名づけるなら、『収束巨砲』という所かな?」
「ちいっ!!」
自らが放った攻撃を強化して返されたワンはその場から跳び退く。自らが放ったからといって、自らが耐えられるかどうかは別問題なのだ。
砲、という形を取ったため指向性が生まれ避けやすくなったはずだが、エネルギーはワンの片腕を掠める。
それだけで、二の腕から先が消滅した。
(ちぃっ! なんて威力だ、俺が放ったのは衝撃で意識を失うレベルだったんだぞ!)
心のそこから驚くワンだが、決して顔には出さない。
「っ、『分解』、『構築』!」
空気を分解してエネルギーを得、左手を直す。
後方の空気を分解したため自分が引き寄せられ、治療と距離を置くという行為の両方を達成する。
「トパーズ」
爆発収束線はシスの呟きとともにどこかへ消え去る。空間接続している先に棄てたのだろう。
一回の交錯でわかった。
「…、シス、嬉しく思っていいゼ? 俺の本気を見て死ねるからなぁ…!」
獣性を放つように、言葉が荒々しくなる。
本気を出す、そう決めたワンが、能力を開放する。
それは、弱体化の戒めを解いた瞬間だった。
「セルフ・ハンディキャッピング解除! 勝つぞォォォ!!」
ソレが枷を外す合図なのか、たからかに叫ぶワン。
「…セルフ・ハンディキャッピング。何かを行う前にソレが失敗した時の言い訳を先に言った場合、行う物の成功率が下がる現象だ。例えばテスト前に体調が悪い、と悪くもないのにいった場合、統計的に全員が点数が低い。理由は判明していないが、必死さがなくなるからともいわれている。…逆に失敗しないと明言することで必死さを上げて、百パーセントの力を出すようにした訳か」
明かに前より力があるワンがいう。
「行くぞ、シス」
「来い、ワン」
2人は同時に地を蹴った。
互いに徒手空拳の二人が接近する。
交錯まで後三秒。
しかしその間にも激突は進む。
「『開放』」
シスの心臓を基点に、今度は二十個の爆発が正十二面体の頂点上に配置される。
だが。
「ルビー、『正十二面体結界』」
それを察知したシスの『正十二面体結界』、熱源の爆発によって全てが逸らされる。
ここまで一秒。
今度はシスが仕掛ける。
「トルマリン」
黄土色の魔封宝石がシスの胸の前で止まり、雷撃の槍を放つ。すさまじい、避け得ない早さでやりは進む。その暴威を解き放たんと、スパークが散る。
しかし。
「避雷」
雷を躱す魔法によって、その輝きは弾かれる。
ここまで一秒。
体より先に交差する視線。ゆっくりと流れ行く時間。
瞬間。
2人は拳を交えた。
ドガガガガガッ!!
と、最早一つの音にしか聞こえない戦闘音が響いた。
『ラザベイ・ラボラトリー』の最高傑作としての力と、勇者としての『滅魔帝』はともに人類を超えた力であり、人智を超えた力の衝突は既に当人達以外に理解しようがなかった。
更に、リーナの『平行魔法』とは比べ物にならない難易度で魔法が連発する。
「『構築』」
「…ガーネット」
「『分解』」
「…アメジスト」
錬式と、魔封宝石。
互いに互いを妨害し、出し抜こうとする魔法。
完全に、膠着状態だった。
(ちぃっ! 決め手に欠ける!)
(…、何か決め手は!!)
加速された意識の中、寸分狂わぬ動きを続ける体。加速された意識にも遅さを感じられない体は、凄まじい威力を生み出している。
しかし二人は倒れない。
それでも二人は倒れない。
威力が籠もった拳は、足は、躱され、逸らされ、防御されて、決定打に成り得なく、同時に放たれる魔法は対抗され、中和され、二人の体に届かない。
シスは意識の配分を変えた。
ワンも意識の配分を変えた。
「『二重詠唱』、ガーネット・ルビー」
「『多重開放』、ハンドレット」
魔法重視の形へと。
片手間で繰り出される肉体攻撃を、片手間であしらう。
『生成』を司るガーネットと『炎熱』を司るルビーで操作するシス。
百もの『開放』を波の合成で数千倍にしてぶつけようとするワン。
『平行魔法』など比較するに値しない高難度魔法がその力を現した。
ガーネットによって精製された円錐型の金属板が、ルビーによって起こされた、形のある爆発に飲み込まれた。まるである形に整えた火薬が爆発したかのように。
『開放』によって放たれた百もの爆発は、円錐型に並び底面に近いほうからごくごく微小なタイムラグとともに順に爆発した。
結果。
数千度に達した気体金属が秒速数十キロメートルという速さで跳んだ。
九十九個の相互作用によって膨大なエネルギーを得た一つの爆発が生まれた。
「ノイマン効果。モンロー効果という爆発力を高める効果が起きるよう窪みを作った火薬の窪みに金属を置いて起爆すると、膨大な圧力によって金属が瞬時に気化し、爆発によって前へ飛ばされる。金属の盾でさえ紙の様に貫く矛の完成だ」
「波の合成。後ろから順に起爆していくことで前いに行くほど運動エネルギーが蓄積され、最後が起爆する頃には大量のエネルギーが溜まっている。今回はそれを三次元的に行い、威力は百倍どころじゃない」
互いの攻撃が激突し、二人の体が吹き飛ばされる。
黒煙が立ち込める中、二人の声が響く。
それは互いに互いの攻撃を凌ぎ切ったことを意味していた。
当たり前のように黒煙を消し飛ばし、互いに戦いを続けようと歩み寄る二人。
だが。
ドオオオオオオン!!
と、何かが崩れるような音が響く。
それを気にせず進むワンに対し、シスは背筋を凍らせた。
(まさ、か…)
ギチギチ、と背後を振り返る。
(まさか…、この中で、この女神の神殿の中で壊れてあんな音を立てて崩れるものといえば…)
「どうした、シス。こないのか?」
シスの眼に映ったのは。
壊れてばらばらになった像。
四肢がもげ、頭がとれ、胴体は五つに割れ、腕や足もバラバラに折れた惨状の――――――女神像。
(あ、これ死んだな)
シスがそう思ったのと同時、声が聞こえた。半狂乱の女神の声が。
―――壊したな。…私の像を、壊したなぁぁぁあぁああ!?
どこからともなく青白い雷が現れ、落ちていく。
どうやら崩壊の決め手になったのは、ワンの攻撃のようだ。
その事実に、そっと胸をなでおろす。
考えてみれば、シスは女神にその事を聞いてから広範囲に影響を及ぼす攻撃をしていない。当然の結果といえた。
「がぁあ、あ……」
気を失った湾の確保へ、シスは歩く。
「…シス!」
眼を覚ましたリーナが、シスの名を呼んだ。
戦いは終わった。
…が、煮え切らない気持ちがシスに残ったのは、確かだった。
読んで頂いてありがとうございます!
次回からシスの過去編に行けそうです。
まだ決まっていませんが、数話分にはなりそうです。
次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




