激闘の勇者 中編
――また死んだね―――。いや死んだわけじゃないか。気絶だね、かなり深いレベルの。
白く拡がる夢の中で、声が聞こえた。
「…もうくることは出来ないんじゃなかったのか?」
――んー、そうなんだけど。これは新しい守護じゃいないしね。それに…
「それに?」
――忘れた? ここ、まだ私の神殿の中なんだよね。だから私の力も届きやすい。
「成る程…。新しい守護じゃない? どういうことだ?」
――君ももう気づいているでしょ? 私は君が本来もっているべきものを与えに来ただけ。
「…、……」
――勇者に私が授ける、勇者だけが持つ能力を。君に与える良いタイミング今までなかったから今になってしまったけれど。…さて、何がいい?
「―――力を。魔物を殲滅し仲間を護れるほどの力を望む」
――はぁぁ、いうと思ったよ。後半が本音だよね、ちがうか。…あの子のため? 嫉妬しちゃうなぁ…。
「何を言っているんだ女神様。今ここで介入したってことは、こういうよう半分誘導したようなものだろうに」
――あはは、流石に気付いちゃうか。そうだよー、好きなコを護ろうとしない男子なんてサイテーだからね。それ以外を選んでたら加護を止めようかと思っていたよ。
「…、俺、ナイスだったな」
――まぁ、嫉妬しちゃいそうなのも本当だけどね。はぁ、誰か私に靡いてくれるいい男はいないかなぁ(チラッ)
「俺は無理ですよ、女神様。もうリーナがいますし」
――ちぇっ。…さて本題に戻ろうか。――勇者に力を授けよう。敵には容赦なく裁きを与え、味方には慈悲なる守護を与える力を。『滅魔帝』。これをそなたに授けよう。…早く神殿で暴れる馬鹿を放り出してね。あの像を壊したら天罰が下るから。例えなおせたとしてもね。
「わかったよ」
――じゃあがんばってね。とりあえず傷や疲れは消しとくから。…あと、これで私が君を助けられるのは本当に最後だからね。ホントだよー!
声が遠ざかっていく。
数瞬の後。
シスは、眼を覚ます。
気を失っていたのは、ほんの十数秒のようだった。
「『繊細織魔法…」
「『二百砲身』、『未来演算者』」
ナタージャとビトレイの声が響く。
二人の持つ最大級の攻撃を放とうと、魔力を織り成す。
しかし。
「遅いなぁ、本当に」
そんな事でワンが倒せるはずがない。
照準すら合わせられない程速く、早く、疾く、ナタージャの懐に潜り込む。
体術。
ワンの実験は、剣術併用体術併用剣術併用錬式併用対多戦闘完成体製作。
つまり、ワンは大量の敵を完全に制圧する為にデザインされたのだ。
「…、『滅魔帝』」
そして。
シスが呟いた。
膨大な魔力が膨れ上がる
シスが自覚する変化はそれだけだった。
しかし、シスがワンに向かって地を蹴ったとき、凄まじい速度で体が加速された。そして、シスの意識はさもそれが普通というかのように、高速の世界に適応する。
いつの間にか右手の剣を捨て、右拳を振り抜こうとするワンの視線と、シスの視線が交錯する。
瞬間。
シスとワンが、体ごと衝突した。
人間同士がぶつかったとは思えない轟音が炸裂する。
ゴロゴロと転がっていく二人だが、立ち上がると同時に互いに拳を振り上げ相手を殴る反動距離をとる。
当然のように無傷な二人。
だが内心まで無事だとはいえなかった。
「なん、だと…!? 少なくとも半日は眼を覚まさないよう打点を調節したのに…!」
ワンの思考は疑問符で埋め尽くされていた。
何故立ち上がれる?
何故意識が戻る?
何故力がある?
何故、何故、何故?
「ワン、悪いな。本気を出させてもらうぞ。『宝石配置』」
そしてシスは、奥の手を出す。
「『武器庫』」
つながれた先の空間断層から、赤褐、紫紺、暗緑、空青、金剛、深緑、乳白、銀白、真紅、萌葱、紺碧、黄土、黄、青緑、紺金と十五個の魔封宝石が飛び出し、シスを中心として円を描いている。
シスから漏れる形無き魔力を吸って、魔封宝石は力を蓄える。
「行くぞ」
勇者としての切り札と、実験体としての奥の手を使うシスは宣言する。
読んで頂いてありがとうございます!
次次回辺りでシスの過去編に行ける予定です。
次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




