激闘の勇者 前編
一瞬我を忘れて襲いかかろうとしたワンだったが、それこそシスの思い通りになるということに気付いて必死で意識を冷却する。
「そういえばワン。お前だけ命名法則から外れているのは何故だ?」
そこへシスが、戦闘とは外れた質問を投げつけてきたのでこれ幸いと時間を稼ぐワン。
「命名法則? あぁ、番号の最初と最後の文字をくっつけて簡易名前を作るアレか? 例外的に0番、1番、10番は番号とコードネームが同一の為頭文字でアルファベットの綴りを表すよう名前をつける。…くだらない。1番。唯一の1がそんなルールに縛られるなんて詰まらなさ過ぎる。俺はワンだぞ? 一番だぞ? 命名法則から外れることを許された唯一、だから俺はワンなのさ!」
「そうか…。頭は冷えたか? そろそろ倒されろ。」
シスの言葉はワンが完全にシスの掌で踊っていたことを示していたが、ワンはもうそれを意識しない。
「勝てるわけがないだろう? 0番や6番はProject『Braver』での実験体の成功例だ。だが俺は違う。俺は『ラザベイ・ラボラトリー』の最高傑作。最高にして最強にして最終の人間。それが俺だ」
「その内訳は体術プラス拳術プラス錬式か。…知らないようだからいっておくが、確かに俺はProject『Braver』に参加したが成功例ではない。ただのデータを取る為のモルモットだったし、それが果たせなくなった後は『ラザベイ・ラボラトリー』の本来の目的の実験体にされたよ。つまり、お前と同じということだ」
「あぁ、あの変なヤツか。剣術プラス魔封宝石プラス製術とか奇妙な組み合わせが後期に入ったというのはお前か、シス。」
「そうだ。…。『ラザベイ・ラボトリー』の最高傑作か。俺も本気を出さないといけないかもしれないな」
「そうだな。出して絶望して死ね、シス」
「ほざけ、ワン」
そして。
怪物同士が、激突する。
後方から飛んできた回復魔法が、シスの傷を癒す。
同時。
「『分解』『構築』」
空気をエネルギーに変え、剣を作り出すワン。
結果、そこへ流れ込もうとする空気が生まれ、ワンの目の前へシスが引きずり出される。
「甘いな」
横薙ぎに首を狩ろうと振るわれる長剣を『カリバーン』で防ぎ、更に踏み込んでワンの懐に入る。
首刈のお返しとばかりに胴薙ぎを放つ。が鋭い蹴りを前に中断せざるを得なかった。
後ろへ跳ぶシスに、蹴りを空振りするワン。
瞬間、魔力がワンより膨れ上がる。
「ヘイ!」
吹き荒れる風。
空振りの回転力を増幅させ、独楽のように、竜巻のように宙を飛んでシスへ迫るワン。
「っ、『武器庫』」
空間断層で防ごうとするが、横殴りの力に耐え切れない。
衝撃によって『武器庫』を嵌める腕が弾かれ、絶対の盾があらぬ方向を向いた。
瞬間。
鈍い音が、シスの体から響く。
「ぐ、がぁぁぁぁ……っ!」
蹴りの直撃を受けたわけではなく、かろうじて『カリバーン』の腹で蹴りは受けた。だが力までは受けきれず、『カリバーン』がシスの腹へと当たっている。
しかし、シスもただやられたわけではない。
「…、『カリバーン』!1」
呼応するように輝く『カリバーン』の柄に嵌る萌葱色。唐突にカリバーンから烈風が吹き、両者の距離が離れる。
「…やられるとでも? 『分解』」
しかし、ワンはそれを許さない。再びエネルギーと化した空気によって、開いた距離がまた閉じる。
「っ!! 『武器庫』!!」
「『開放』」
そして。
シスの心臓を中心とした正四面体のの頂点四箇所から、均等に爆発が放たれた。
爆音は一つ。
しかし、衝撃波が互いに干渉しあったことでその威力は四倍どころではないだろう。
波の合成。
完全に星術の範囲だ。
「…これで気絶しただろう」
黒煙が上がる中、ワンが呟く。
合成された衝撃波は生身の人間一人を殺すのに足る威力を持っていた。空間断層を使ったとしても、気絶くらいはしているだろうと考えたのだ。
しかし。
「…、…」
黒煙の中より、シスが飛び出てくる。
「っ! な…!」
ワンが流石に驚く中、『カリバーン』の刃が光を反射してキラリと輝く。
「エトのときにこの爆発は食らっている。衝撃のパターンは記憶済みだ。なら、受け流すのはそこまで難しいことじゃない」
だが。
ワンは驚きこそすれ、硬直など論外、停滞などない。
よどみなく動いたワンの剣が、『カリバーン』を弾く。シスの手からもぎ取られた『カリバーン』が弧を描いて空を飛ぶ。
続いて放たれた左拳が、シスの胸を打ち抜いた。
「ごがぁぁぁ…」
シスの手から、力が抜けた。
「さて、回収を始めるか」
悪魔が囁く。
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