救戦の勇者 後編
「…、シス…!!」
シスが倒れたことに怒って、ビトレイがリーナに向かって『マルチファイラー』を構えた。
青竜蝦の解きもそうだったが、実はビトレイは激昂しやすい気質なのかもしれない。
「『1026式熱電離気体収束砲』…、|発射《ファイア』」
ワンに操られたリーナはいとも簡単にそれを避けてみせる。考えるまでもなく、リーナのほうが数枚上手だ。
シスはビトレイが稼いでくれた時間を有効に使うべく、思考に意識を集中させる。
他のものが、目に入らなくなる。
(リーナは確かに、ワンの命令を聞いたとき、恐怖の表情を浮かべた。それは何故だ? 完全に命令を聞くような人格を植えつけたならそもそも表情すら浮かばないはずだ。逆にそんな擬似人格にしなかった理由は? …元の性格とあまりにも違いすぎると復元が出来なくなるのか? ダメだ、もっと深く考えないと!)
シスの思考が加速していく。仄かに感じる頭痛は、まだ耐えられる程度だ。
(そもそも何故リーナは気を失ったんだ? 気付けならまだわかる。眠っているものを起こす手段ならごまんとある! だが非接触で相手を昏倒させる方法? それならリーナより湾の近くにいた俺のほうも影響を受けたはずだ…。違う、違う、何故リーナは気絶した? …気絶…?)
頭痛が次第に強まる中、シスは糸口を掴む。
(気絶…そして制御。考えてみればワンはどちらに対しても同じ方法で、声と言う方法で制御していた! ならばどちらも同じロジックかそれに基づいたものな筈だ! 気絶の原因…外相、強い衝撃、頚動脈の圧迫…、違う、外部が起因のものじゃない…! …? 外部じゃない? …内面? まさか、…まさか…!)
シスは弾き出した答えに衝撃を感じながらも、対策方法を探す。
(あれを克服する為には…。あの手法が一番か。…答えあわせと行くか、ワン! 『武器庫』」)
時間にして直せば短いだろう。丁度リーナがビトレイの意識を刈り取り終わった時。
シスは、立ち上がった。
形を持たない魔力がシスからあふれ出ては、二つの魔封宝石へ吸い込まれていく。
ひとつはトパーズ、つまりは『武器庫』。もうひとつは萌葱に輝くペリドットだ。
雷撃で満足に動かない身体を、風を司るペリドットによって立たせているのだ。
「どうしたのさ、シス。何か忘れ物かい?」
ワンが未だ楽しそうに、蔑むように訊く。
「解ったぞ。」
「何がさ? あぁ、サンやエトとナンが襲撃できた理由? 簡単だよ…」
「PTSD」
「っ……!」
シスの一言に、初めてワンは動揺させられた。
「心的外傷後ストレス障害とも言うな。気絶したのはそれの『再燃現象』によるもの。制御は同じく『再燃現象』と脅迫をリーナに植え付けた『気の弱い人格』に与えることだな。誰だって心的外傷になるようなことをもう一回してやる、止めて欲しければ俺の命令に従え、と言われたらそうしてしまうだろうな。」
「お前…知っていたのか…!?」
「いや、推測だ。」
「ぐっ…!」
「まぁ、他魔力拒絶現象とかあるから、魔法はなしって絞り込めた故の速さだが。」
他魔力拒絶現象とは。
唐突だが、人の魔力には個性がある。
それは魔法の使用に影響はしないが、確実にある違い。
血液は生物全員酸素運搬をするが、血液型があるのと同じ。
そして、他人の魔力が体に中に入ったとき、MHC抗原が適応しない臓器を移植した時と同じように拒絶反応が起きる。
回復魔法のように短時間なら問題ない。
魔法が干渉した所が浅い所なら問題ない。
しかし、それ以外ならば魔力同士が拒絶反応を起こし、最悪死に至る。
その現象があるから星術的手法のみ考えたシスに、ワンは歯軋りを立てる。
「…リーナに心的外傷を植え付けた罪は重いぞ。」
「いやいや、大丈夫。このトラウマは記憶制御で植え付けたもので、本物じゃないから。…あっ!」
しかし、シスの殺気にそれも忘れ、思わず口を滑らせてしまう。
「…、それで? ロジックがわかったところでどうするんだい? これはこんな所で解けるような呪縛じゃないよ? お前の言ったとおり、他魔力拒絶現象もあるんだよ?」
「考えが浅いな、ワン。まず植え付けられた擬似人格を消去した上で、リーナにPTSDを乗り越えてもらえばいいだけだ」
「ははっ! ははははっ! シス、それこそ他魔力拒絶現象に引っかかるよ? と言うかお前は魔法を使えず、魔封宝石に頼る体。当然込められた魔力もお前のものだ。もしかして、0番と魔力が同じだと言う可能性にかけるのかい? それは全く同じDNAを持つ人間が生まれる確率より低いのに?」
かわいそうな人を見るように嘲り笑うワン。何を馬鹿なことを言っている、と言う顔だ。
(…確かにその方法ならできるが、不可能だ。バカなヤツ)
ワンがそう思うと同時、シスは体外魔力操作を始める。
「ははっ! お前は自分の力で0番を殺すのかい? やってみなよ! ゼロ、俺の前に来い」
「了解しました」
リーナがゼロの前に、シスが魔法をぶつけ易いように立たせる。
シスの魔力操作の手が、魔封宝石捉える。
それはトパーズでもペリドットでも、ましてやルビーやサファイアですらない。
それは。
元素鉱物の一種であり、数種の同位体を持つ、鉱物中、最高に硬い物質。
金剛色の輝きを放つ―――、ダイヤモンド。
リーナの胸元に下がる、リーナの魔力が充填された、魔封宝石だ。
リーナの魔力は、シスの意思に従ってリーナの頭に植え付けられた異物を消し飛ばす。
ダイヤモンド。その概念は――『一切始終』
通常の倍の魔力と引き換えに、ありとあらゆる願いをかなえる。
「なっ…!! ダイヤモンドの魔封宝石だと!?」
ワンが驚くが、時は既に遅く。
オリジナルは世界に五つとないダイヤモンドが、リーナを救う。
リーナが糸が切れたように倒れこんだ中、ワンが怒りで体を奮わせる。
「6番ゥゥウウウウウウ!!」
「何だ、ワン」
逆転劇が、始まった。
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