救戦の勇者 前編
「ははっ! 素晴らしいだろう、シス? 擬似人格を挿入した上で意識の再起動をかけたのさ。6番、『ラザベイ・ラボラトリー』が実験体から離反した場合の対策をしない訳がないだろう。…おっと、お前は例外だったかな?」
あくまでも楽しそうに、嘲るようにいい連ねるキール。
「……っ、予想は、していた。…が、ここまで強力とは…」
「ふん、想像が甘いよ。魔法と星術が融合した研究機関だ。出来ない事は一握りしかないさ」
悔しそうに顔を取り繕うシスだが、心の中は違う。
(っ、命令方式は、制御方法は、使用形態は…? 暴く、暴き立ててやる! リーナを救って1番を倒すっ!)
「さて、はじめようか。ゼロ、目の前にいる四人を捕獲せよ」
しかし時間が足りない。キールが、つまりはワンがリーナに命令を下す。
「了解しました。」
シスの観察の為の五感が全てを捉える。
リーナの言葉尻が震え、眼に微かな恐怖が浮かんでいることを。
(…? 何を恐れているんだ…?)
疑問に思うも一瞬、シスは後ろの四人へ叫ぶ。
「下がれ! 手を出すな!」
簡略化した指示にも四人は従う。
「キール…、キール! どうしちゃったの…!? アチェリー、アチェリーは…」
アチェリーの悲痛な声が響く中、シスとリーナは激突する。
魔法プラス剣術。
それを扱うに特化するよう調整されたリーナの攻撃が迫る。
剣を胸の辺りに引きつけ、刺突気味に構えて走るリーナ。
同時に炎弾が十数発撃たれ、シスの逃げ場をなくす。
「……っ!」
対人戦闘用の攻撃。
剣道の形のような、直感ではなく思考の、効率の先にある攻撃。
「『武器庫』」
シスは呟いたはいいが、何を取り出すか迷う。
その一瞬が、命取りだった。
足裏で爆発を起こしてリーナが高速で迫る。
「…っ!」
かろうじて剣先を空間断層で逸らす。衝撃は凄まじく、並の盾なら貫かれていただろう。
(…ダメだっ! 星術だと威力が高すぎる!)
シスは左手に『武器庫』を移し、『カリバーン』を握って撃ちかかる。
体勢を直してシスの剣を弾くリーナ。
返す刀で喉元を狙う刃を、う空間断層で阻む。
互いに剣を引き、もう一度構えなおす。
一瞬の空白。
甲高い剣戟の音が、高らかに奏でられ始めた。
袈裟斬りに振るわれた両刀直剣を僅かに後ろに下がって躱す。
一歩踏み込んで胸のあたりをなぎ払うが屈みこんで回避され、先の袈裟を戻すように体中のバネを爆発させて振るわれる剣を左に転がるように避ける。
すばやく立ち上がり、休む暇も与えないように打ちかかる。
(…、リーナは女子、俺より体力はないはずだ! とりあえず時間稼ぎを行えば、いつかは限界になる。その後で支配解除を試せばいい!!)
そう考え、疲労を蓄積させようと猛然と責めるシス。
だが。
シスは忘れていた。
ワンが介入する可能性を。
「仕方がないなぁ。こんな所でガス欠になっても詰まらないし、一分だけ本気を出すことを許してあげよう、ゼロ。」
「了解しました。」
更に、リーナはシスに対人環境で勝っていることを。
再びリーナに恐怖の色を観察したシスは気付けなかった。
リーナの体内で渦巻く魔力に。
打ち掛かってきたリーナの攻撃を、剣と空間断層を使って弾き、反撃する。
(…? 本気の割には…)
シスが疑問に思った瞬間。
シスの視界に、青みがかかる。
「……!!」
体の回りを一部の隙間もなく覆われた。
(まさか、『平行魔法』…!?)
魔法剣士は剣を振りながら魔法を使えると思われがちだが、実際は少し異なる。言い方は流派によって異なれど、一瞬の空白の時に、魔法と剣を組み合わせた『型』を発動させて使っている。
相手の攻撃を受け、自分が攻撃をしている状態で魔力制御をするなど自殺行為だ。下手をすれば相手の攻撃と自らの魔力暴走で死んでしまう。
故に、普通は使う空白の時間を短くし、『型』のレパートリーを増やすことを努力するのだが。
リーナはその状況で魔法を使った。
『平行魔法』
(…『武器庫』)
魔力を注いで大きくなる空間断層。それにそって壊れる氷を基点に、体の自由を取り戻す。
しかし、既に遅かった。
真後ろから放たれた雷撃魔法に、シスは貫かれる。
「が、あああああぁぁ!!」
対人戦闘において、シスはリーナに勝てない。
それはシスのほうが良くわかっていたはずなのに。
「おつかれ。…全力終了、ゼロ」
「了解しました。」
再び見える恐怖のイメージ。雷撃で体が当分動かないが、その分頭の回転数が上がる。
(…何を怖がっている? ワンを? 何故? 恐怖で言うことを聞かせている? …違う。…、…っ、…まさか!)
突破口が、見える。
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今日はもう一話更新予定です。
次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




