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説明の勇者

 「うわわわわわわ~ん! 」

 勇者が泣き出した。


 「へ…? 」


 シスの目が点になった。


 シスは剣を腰に戻すと、困った用に四人のほうを見る。


 「…リーナ…! ! リーナ…泣かないで、大丈夫だから! 」


 ナタージャがリーナに駆け寄って腕に抱く。


 「びえええ~ん、ぐずっ、し、知らないよぅ物理、てき、風化、とか、魔法強化の、せ、性質とか知るワケ無いじゃない~~! ! うえええええ~~ん! 」


 …毅然とした勇者の姿が、全てなくなっていた。


 どうやらさっきの胸鎧を二回叩く行為が意識のスイッチとなっているらしい。どちらが本当の、というか本来の性格なのだろうか。


 (これは…やはりそう言うことか)


 シスがそう考える間に、キールが食って掛かってくる。


 「おい! シスとやら! ! リーナを泣かせたらどうなるかわかってんのかよ!? ああん! ! 」


 微妙にヤクザな口調だが、あそこであの時投げつけられた言葉からすればどうということはない。


 「俺が何をしたというよりリーナが負けたショックから立ち直れないというような感じではないか? 」


 「あぁん! !? 」


 何リーナのことを呼び捨てにしてるんだ気安すぎるぞ、という声が続くが、シスはもう気にしなかった。


 「アチェリー、不思議なんだけど…? さっきのが星術なの? 」


 と、そこでアチェリーが話しかけてきた。


 「…そうよ。」


 しかし、答えたのはシスではなくビトレイだった。いつもあまり喋らない彼女にしては珍しく、人と話している。


 「…星術は魔法と違って望む現象をそのまま作り出すことはできない。…、その現象を起こすのに、数通りの手順が必要。」


 それを引き継ぐようにシスは言う。


 「今の『盾を壊す』というだけでも加熱と冷却、そして衝撃を与えるという三段階の手順が必要だったようにね。星術は魔法のように使い勝手が良いと言う訳では、あまりないんだ。」


 「…ふーん…。」


 アチェリーはあまり納得してはいなさそうにそう言うと、更にシスに訊いた。


 「じゃあ、なんで星術師のシスが、魔法についてリーナが(・・・・・・・・・・)知らないようなこと(・・・・・・・・・)まで知ってたの? 」


 「…。」


 そういえば、とビトレイもこちらを向く。


 幾通りも言い訳という理由を思いつくが、一瞬で納得させられるようなものは見つからない。事実を言ってもよかったのだが、あいつ(・・・)がいる状況でそんなことを口走ればシスが勇者一行に入るための努力が無駄になってしまう。そんな事をすれば、また彼女はあそこへ戻されてしまうだろう。


 故に、シスは話題を微妙にすり替える。


 「…ビトレイも星術と魔法両方に通じているだろう。それと同じ理由だよ。」


 …。話題を自分からビトレイのものに換えた上、理由を『ビトレイと同じ』ということで自分から明言しなくてもいいようにする。


 それよりもシスは、アチェリーの警戒感を強めていた。


 (無邪気に俺の痛いところを突いてくる。これは意図的なのか、それとも本当に無邪気なだけなのか。意図的なら無邪気な側面をかぶっているだけの腹黒ということになる…。情報を与えすぎないようにしないと、少なくともあいつのいる間は。)


 「…私?  この魔法銃の性質上、覚えただけ。」


 口数少なく言うビトレイ。しかしこれだけだと少なすぎると感じたのか、もう少し説明は続けた。


 「…。この魔法銃『マルチファイラー』は魔法補助デバイスって言う側面のほかに、星術を利用した武器も使えるようになってる…。」


 ビトレイが魔法銃と同色の、普通より二周りほど大きいマジックポシェットを撫でると、魔法銃が消え代わりに、少しシルエットが異なる銃の様なものが現れた。


 「…、これがそう。これだけじゃない。2000通り位の武器がこの中に入ってるって言われた。星術銃は攻撃の発動の補助として少し魔法を使うだけだから、魔法銃より魔力消費量がケタ違いに少ない。…だから攻撃に魔力が載らない(・・・・・・・)から魔法耐性を持つ魔物に撃つといい、っていいって言ってた。」


 長口舌を振るった彼女はもう口を開きたくないとばかりに口を閉じる。


 シスはビトレイにその星術銃を見せてもらった。すると、シスの口から感嘆がこぼれた。


 「…!? マイスナーキャノンか! 」


 「(…コクコク)」


 ビトレイが頷くのを見て、シスは自分の推測が当たったことを知る。


 「…このレベルの武器が2000種か…。心強い。」


 それがシスの心からの気持ちだった。正直、この少女と戦って勝てる気がしない。長距離から場所を変えて放たれたら、場所を特定するのはかなり困難だろう。


 「…ヒック、ひ、っ」


 「もう大丈夫だよ、リーナ。ほら…。よし! 泣き止んだ! ! 」


 ようやく泣くのをやめた勇者がこちらを見る。とすぐに顔を赤くしてそっぽを向かれてしまった。嫌われたかな、とシスは思う。


 シスに顔を背けたまま勇者は胸鎧をトントン、と叩く。意識が切り替わり、もとの勇者然とした態度が帰ってきた。元がどうかはわからないが。


 泣きはらした顔はそのままに、意識だけを泣き虫モードから脱出しているので、見た目は怒られた直後にアメを渡された少女のようだ。顔と言動のギャップが、少しかわいらしい。


 「リーナは元々こういう性格なのよ。」


 ナタージャが言った。


 「ナタージャ! あまりそう言うことは言わないで…! 」


 リーナが慌ててナタージャに言うが、


 「仲間なんだからこれくらい話しておかないと。」


 という言葉に、反論できなくなったらしい。


 しかしナタージャとの小競り合いの末、自分から言う権利だけは勝ち取ったようだ。


 「私は元々、さっきみたいな性格んだけど…。勇者に選ばれてからそれにふさわしい人間になろうと、意識を切り替える訓練をしたわ。そのおかげで、今のような性格を手に入れられた。」


 知らなかったらしいビトレイ、キール、アチェリーが、


 「おお~~! ! 」


 となど言っている。


 シスは思った。


 (…、そんな訳あるか(・・・・・・・)。どう考えても干渉だ。)


 しかし口には出さず、そういうことにしておく。


 「まぁ、そう言うわけだから、リーナをあまりいじめないでね。いじめた奴は、私の魔法をブチ込むから。」


 「ナ、ナタージャ? 」


 リーナがナタージャの言葉へ突っ込む。


 ナタージャが、一行のリーダーの顔に戻ってしまう。


 「さぁ、まだ二時よ。進めるだけ進みましょう! 」


 一行は、ユルド森を進んでいく。


読んで頂いてありがとうございます!

今回は意味深な言葉が多かったと思います。これもこの世界には謎が多くあるということです。

疑問もたくさんあると思いますが、これからもよろしくお願いします! 

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