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断定の勇者

 「キー、る…?」

 ナタージャが不思議そうに言う。

 当たり前だ。

 川に流され、数日の間ここへ行くために彷徨ったにしては傷がなく、疲れがなく、元気がありすぎる。

 だがそれだけではない。

 そんなもの、理由の極一端でしかない。

 語調が――――口調が、明かに変わっている。

 リーナやビトレイも、流石にキールが裏切者だ、という言葉に対して、シスへの信頼を加味しても信じきれずにいたのだが、ここに来て確信する。

 見下すような、蔑むような、侮るような、嘲るような。

 言うなれば、サンやエトと同質の声。

 そんなものを訊いてしまえば、もう納得するしかない。

 (…キールは、敵!!)

 「あれ? 聞こえなかったのかな? じゃあもう一回言おう。…ひどいなぁ、シス。俺を裏切者扱いするなんて。」

 もう裏切者だと隠す気もなくなったのか、ふざけた様に言うキール。

 「そ…そんなわけない! アチェリー、キールを信じてる!」

 必死になったアチェリーの叫び声が上がるが、キールはさも当然のように無視した。

 「証拠は確か似ないが、状況証拠を教えてやろう。」

 「なんだい? 天下のシス先生が、確たる証拠がないままそんな事言う訳無いよね?」

 一行は、自分が確信したことの裏を取ろうと、シスとキールの応酬に耳を傾ける。

 「もし俺が一行に入らなかった場合どうなるかを考えてみれば明白だ。一人でいる時間が長く、一人でゴソゴソやっていていても言葉を濁せば勝手に察してくれる。そんな楽なポジションは、一行の中唯一の男(・・・・)だったお前しかいないだろう。」

 「ふんふん、それで?」

 自分が裏切者である証拠を目の前に出されても、キールは平然と笑っている。

 「…更にお前は弱すぎた。いつも率先して魔物に突っ込んで、最初にやられる。…そんなバカなヤツが女神に認められた(・・・・・・・・)勇者一行? …有り得ない。そんな訳があるはずないだろう。」

 「その言い方だと、俺が裏切者である、女神に認められていないと気付けなかったそこの勇者もおかしいことになるぜ?」

 「そうだ。」

 「……!!」

 即答したシスに、リーナは驚く。ここにキールの哄笑が響くと思ったリーナだが。

 「……、…」

 意外にもキールが発したのは無言だった。

 「project『Brarer』。そうだろ、キール」

 「…ふうん。シス、お前はどこまで知っている? いや、憶えて(・・・)る?」

 「全てさ。」

 「…ってことは、全てが茶番な訳か、6番(シックス)

 「そうさ、こんな証拠なんて後付でしかない。ユルド森であった時から気付いていた。少し戸惑ったけどね、1ワン

 そう、この会話は全て茶番。

 互いに互いを知っているもの同士が、相手が知らないと思って行う茶番劇。

 「そんな…! そんな訳がない! アチェリー信じない! キールが、キールがう、裏切者だなんて…!!」

 アチェリーが論点からずれた所で騒ぎ立てる。キールが裏切者と言うのは既に確定しているのだ。

 そんなことよりも、一行の殆どはシスの口から出たキールをさす名称に驚いていた。 

 ワン?

 1番?

 エトやナンやサンがシスのことを『6番』と呼ぶように、キールの事を『1番』と呼ぶ。

 「…!? ちょっと、どういうこと? 二人とも、説明しなさいよ!!」

 ナタージャがそのおかしさに気付く。二人、いや五人はもしかしたら同じ場所出身と言う事なのか…?

 リーナはシスの約束を神事、ダイヤモンドの重みを感じて口を噤む。

 「はぁぁ…。ここまでされたら面倒だなぁ。お前を殺したとしても一行の中にしれっと戻れないだろうなぁ。こりゃシスに取られたかなぁ?」

 「裏切り者は要らない…。立ち去ってあそこへ戻れ。博士(ドクター)に泣いて謝るんだな」

 「不愉快だなぁ、俺がどんな方法で弱く見せかけているか解らないだろうに…」

 「セルフ・ハンディキャッピングじゃないのか?」

 「…」

 「あれは使い勝手がいいからな」

 シスやキールが黙り込むのを見ると、傍らにいるリーナに小声で呟く。

 「俺が今まで話せなかったのは、こいつがいたからだ。倒したら約束どおり全てを話す。」

 「…解った。待ってるね。」

 「おう。」

 「あー、面倒臭い。」

 キールが突然大声を上げた。

 「ま、いっか。全員とりあえず回収すれば。『ラザベイ・ラボラトリー』で記憶改変して戻せばいっか!!」

 「させると思うか? お前はここで倒される。」

 キールの言葉の内容にシスが応える。

 「出来ないと思うよ?」

 キールが嗤った。

 「…、………!」

 シスが一瞬で警戒する中。

 「シャットダウン。」

 キールの呟きが風邪に乗る。

 「…、…?」

 意味不明な言葉にシスは首を傾げるが、すぐに意味を知る。

 ドサッ! と音を立ててリーナが倒れたことで。

 「お前…!」

 「…完了。命令受諾モードで再起動。俺のところまで来い、ゼロ」

 「了解しました。」

 キールの言葉に合わせて再び眼を開けたリーナが、不自然なほど抑揚のない声で答え、キールの命令に従う。

 「リーナ…!」

 シスの声は、届かない。


 自分の目の前に立つリーナの、美しい髪を手で梳きながらキールは言う。

 「お前にゼロを倒せるか?」

 「…、……!…」

 限りなく、シスに不利な戦いが始まる。

読んで頂いてありがとうございます!

次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!

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