再会の勇者
次に到着したのはアチェリーだった.
ナタージャが到着してから二時間ほどで、疲れきったナタージャも起きてはいなかった。
「アチェリー、つかれた…」
「寝る前に服を乾かせ。スープを飲んで体を温めろ」
アチェリーに対しても命令口調で言って体を温めさせ、寝かせる。
次の日。
「おはよう! シス! アチェリーは元気だよ!」
「シス? 私やアチェリーに何もしてないわよね?」
騒がしい声と共に起きて来た二人と同時に、ビトレイも帰還した。
「…、……シス…」
小柄なビトレイは衰弱が酷かった。アチェリーのほうが更に小さいが、それよりも長く冷たい川の水に晒され、冷たい夜を耐え、長い距離を歩いたビトレイは何かの病気をも併発しているかもしれない。
「ナタージャ!! 回復魔法を!!!」
「分かった…!」
シスの指示に従って、ナタージャが駆け寄る。シスは急いで湯を作ろうと浅壷の元に戻る。
「冷たっ! あぁもう、びしょびしょのままじゃない!」
「ナタージャ…?」
「アチェリー、毛布もってきて! 二枚ともよ!」
なたージャがアチェリーとの間に入ってシスの視線を防いでいる為ナタージャが何をしているかシスには見えない。
「ビトレイ、ごめん!」
ナタージャは回復魔法も掛けずゴソゴソと何かやっている。
シスはルビーの魔封宝石を操って水を沸かす。高温すぎれば水蒸気になってしまい、低いと中々温まらない。誤差プラスマイナス百度程度の操作を行い、瓶につめた。
ナタージャが回復魔法を使う。それを確かめてからシスは、ナタージャへ。
「ナタージャ、使う…」
「シスッ! 来たらダメ!!」
悲鳴のような叫び、声も遠く、シスは見てしまう。
ナタージャがその背に隠していた――ビトレイの裸体を。
いつも紺のドレス風の戦闘服を着ているビトレイの体はそこまで鍛えられている、とも言い難かった。
しかしそれは全く筋肉がない、ということではない。
芯に堅く引き締まった筋が連なり、その周りに少女特有のみずみずしく、ハリと艶のある肌が覆っている。
腕も足も細く、どうやっていつもあんなに魔法銃や星術銃を振り回しているかわからない。
つつましい胸は…
と、黙って突っ立っているシスに、怒りの拳が襲い掛かる。
「いつまで見てるのよ、シスッッ!!」
バチンッ!
という音が神殿に木霊した。
この日はビトレイのみしか帰ってこなかった。
夜。
シスは眠れなかった。
ナタージャとビトレイには
「夜の間に帰って来るかもしれないから見ておく」
と言ってあるが、実際は違う。
眠らないのではなく、眠れない。
昼の間に取ってきた薪を、浅壷にくべる。
熱利用の点ではルビーの魔封宝石のほうが便利だが、光源確保の点では薪をくべたほうが楽なのだ。
シスの心臓がきりきりと痛み、早鐘を打つ。
(リーナが…、リーナがまだ、帰らない…!!)
シスの心はそれしか考えられなかった。
(分かっている。大丈夫だと言うことはわかっているんだ! 女神が無事だと言った、この神殿へ導くよう守護したと言った! それだけの加護が合ってたどり着けない訳がない!)
「でも…、!!!」
シスは心中を吐露するように激しく呟く。
「女神が俺に言った次の瞬間岩に当たって死んでいたら? 川岸に打ち上げられたはいいが動けないほど大怪我していたら?ここに向かっている途中で魔物の大群に襲われていたら? 分かっている、理性では解っているんだ、そんなことはない、女神の守護の元ここにきちんと来るって!」
そして。
「でもっ!!」
シスは不安に満ちた心で叫ぶ。
「心が! 納得しないんだ!!」
シスは言葉を吐き出し続ける。
それは、どれだけ強かろうとも、どれだけ洞察力が優れていても、シスは年頃の少年だと言うことを思い出させる。
そう、過去にどんな事を秘めていても、どんな力、技術を持っていても、シスはただの少年なのだ。些細なことで傷つき、笑い、心配に思う、ただの男の子。
「解ってる、理性ではッ!! でも心は納得しないんだ、こんなに遅いなんて何か起きたんじゃないかって!! そう思ってしまうんだ!! 今すぐ探しにいきたい、助けに行きたい!! でも今度は入れ違いになるかもしれないとか女神が待てと言ったから待つべきとか、理性がもっともらしい理由をつけて邪魔をする!! 俺は、俺はっ!! …どうする、べきなんだ…!!」
あああああああ、と頭を掻き毟るシスに、微かに声が聞こえた。
「…シス…」
「っ……!!」
シスはすばやく立ち上がり、声が聞こえた方へ―――入り口ヘ駆ける。
バン、と大きな音をさせて古びた扉を開けた先には。
「リーナ……!」
ボロボロで、傷だらけで、今にも倒れそうな、シスが待ち焦がれた少女が立っていた。
「…シス……、見つ、け…」
少女はシスを見ると、糸が切れた様に倒れる。
シスはそんな少女をそっと抱きしめ、満ち足りた笑顔で言う。
「おかえり、リーナ。」
それとは対照的に、少女をは弱弱しく、しかし安心した表情で言う。
「ただ、いま…、シス…」
少女と少年は、再会した。
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