待機の勇者
女神の神殿。
それは人類の誰もが知る失われた神殿である。
偶像崇拝が禁止されているこの宗教で、何故か唯一つ女神の偶像を置くことが許された神殿。
その神殿が失われた経緯について、神話はこう語っている。
曰く、その昔にたいそう腕の優れた石工がいた。
曰く、石工は熱心な信者であった。
曰く、ある時石工は夢の中で女神を見た。
曰く、石工はその姿に感服した為、白亜の大理石を削り像を作った。
曰く、女神は怒り像を壊そうとしたが、像があまりに自分にそっくりなため、像を壊すことを止めた。
曰く、像は新しい神殿に祀られた。
曰く、人々はその像を見ようと神殿に殺到した。
曰く、そのため、日常の仕事が滞ってしまった。
曰く、それに怒った女神は像を壊そうとしたが、やはり出来なかった。
曰く、仕方なく女神は神殿ごと像を転移させ、人の眼に届かない所へ持っていってしまった。
と。
更に、女神の神殿は見つけた者には中を見せるが、次にきたときには場所が変わっている、と言う後日談まである。
そんな女神の神殿の中で、シスは死んだように眠っていた。
神殿は、上座に像が置いてある大広間、その一部屋だけで構成されていた。
壁も、天井も、見るものが見れば卒倒するほどの装飾が施されている。
しかしそれは引き立て役に過ぎない。
神話に残る名石工が創った、十メートルを越える像は。
端麗な顔立ちに、優美な体。
その姿は総じて絶美であり、壮麗であり、これ以上なく華やかであった。
それでいてどうしようもなく神々しく、神の威厳がひしひしと伝わってくる。
しかしシスはそれを感じることはなく、像の足元で眠っていた。
衣服や装備品は眠る直前に何とか乾かすことが出来たようで、風邪を引く心配は少なそうだ。
しかし、大量の傷と長い間つめたい水の中にいたことに世ある低体温で、深く、深く熟睡している。
―――やっぱり仕方のない子よね。
少し笑いを含んだ声が微かに空気を震わせる。
暖かい光の粒子が像から溢れ、シスに吸い込まれていった。
「…、どこだ、ここは? っ、神殿か…」
何時間経っただろうか。長い時間の後、シスは眼を覚ました。
不思議と傷は治り、疲れは取れている。固い床の上に寝ていたことによる節々の痛みもなかった。
「腹減った…」
神殿に一人いる孤独を紛らわすように呟くシス。
『武器庫』から陶器で出来た口が広い浅い壷や金網、鍋などを取り出す。
ルビーの魔封宝石で火を用意し、干し肉と水、そして数種の調味料を入れて肉のスープを作る。
マジックポシェットにも、あまり使い切ることは無いが容量制限と言うものがある。
詰め込みすぎたバッグのように、入れようとすると重い抵抗がかかるのでそれが分かるのだが、しかし『武器庫』は別の所にある座標へ空間接続するものなので、容量制限は存在しないのだ。
暫く煮込み続け、スープから香ばしい香りが漂ってきた頃。
最初の仲間が還って来た。
「…すみません…、少し…、っ!? シス!?」
「…ナタージャか。服をさっさと乾かして、火に当たって体を温めろ。スープも飲め。低体温症は臓器不全や意識混濁を引き起こすし、最悪死に至る。」
「…分かった…」
命令口調で口捷に言うシスに反論する気もないのだろう、ナタージャはつかれきった様子でシスに従う。
自ら魔法で服を乾かし、シスの用意していた熱い毛布に包まる。
熱湯を入れた瓶を毛布の中にいれ、シスが作っていた質素なスープを朽ちに流し込んだ。
シスもナタージャがスープを飲むのを確認してからスープを口に運ぶ。
「あた、たかい…」
ナタージャはそう呟きながら何度もスープをおかわりした。
「ああ、そうだな」
シスもそう応えてナタージャにスープをよそう。
体が温まり安心したのか、ナタージャはいつの間にか寝入ってしまう。
「…女神は他もここに来るよう守護した、って言ってたよな。…待つか…」
シスはスープを作り足すため、材料を取り出す。
スープの煮えるコトコトという音だけが、神殿に静かに響く。
「申し訳ありません。一行とはぐれました。合流し次第、報告します」
誰かが、呟く。
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