散逸の勇者
トラル川。
それはミナタ川と対照的に、清流として知られる川である。
シラカタ山脈を水源とするこの川は、ドーラ湿地を湿地にしている水源の一つといわれる。
無論、到達するにはミナタ川をわたらなければいけないため、実際に見たことのある人は少ない。
それでも多くの人がトラル川のことを知っているのは、やはりその水質の綺麗さ、周辺の環境の綺麗さによるものだろう。
トラル川の風景画は、貴族の中で確かに高価な地位を確立している。
水深10センチほどの川を、一行は進んでいた。
トラル川は、ミナタ川とは対照に浅く幅広い川である。
川幅は500メートルはあり、それを知っていた警戒しながら渡るのはやはり骨が折れるものだ。
しかし。
「つめたーい!」
「気持ちいいー!」
「……、これは、いい。」
「アチェリー、びっくり!すごい冷たくて気持ちいい!」
現在川には女性陣の楽しげな声が響いていた。
川を渡るときに、装備品を乾燥が必要なまでに濡らしてしまうの面倒だ。乾かすために火属性魔法を使っている時襲われたら、装備品が無く、意識の切り替えに時間がかかるため苦戦すること間違いない。
そのため魔法銃で足場を作り滞空しているビトレイ以外、基本膝より下の装備は取っ払って歩いているのだが。
その素足に冷たい水がついてしまったことでかなり集中が途切れてしまっている。
まあ、理由は分かる。
さっきも鯰が作った沼を抜けて、川に来るまで幾度か戦闘を行ったために、身体に熱がこもっている状態で川には入ればそりゃあこうなるだろう。
集中力とか警戒とかと言った意識が抜け出してしまっているリーナ達を見て、シスは和んでいた。
(…相変わらずリーナは可愛いなあ…。あそこではこんな事出来なかったから新鮮だ…)
そう惚気(?)ていたが、決して気を抜いている訳ではない。アチェリー程の探査能力は持っていないが、シスも熱源探知を始め、幾つかの探査手段を持っている。
それを並列起動し、周りを索敵しながら…しかしやはり和んでいた。
「おいシス…。…目の眼福だな!よりどりみどりじゃないか!」
「そのよりどりみどりの使い方はおかしいぞ。…だがまあそうだな。」
「前も言いかけたが、誰が好みなんだよ、シス!」
「何で嬉しそうなんだ、お前は。…っ!!」
キールとそんな他愛のない会話をしていたが、シスはトルマリンの魔封宝石から大きなものが動く反応を受け取って、それが示す川の上流の方を見た。
「…っっ!!!」
そこには。
滝のように、津波のように、こちらへ迫る大量の水があった。
(やはりおかしかった!水深10センチ?ありえないだろう、そんな川は!何で気づいて無視した?馬鹿か俺は!?)
シスが歯噛みする中で、津波は一行に迫る。
やっと気づいた女性陣の顔が恐怖に染まる。
「みんな固まれぇぇ!」
その言葉をシスは出そうとしたがしかし、叶うことなく大水は一行を飲み込む。
「…がぐっ、ぐはぁぁ!」
濁流の中、やっとのことで水面に顔を出すシス。しかし、周りにリーナは見つからない。
「リー…」
リーナ、と叫ぼうとしたところで、後頭部に衝撃を感じる。
掠れ行く意識がうっすらと捉えたのは流木。
そのイメージを最後に、シスは気を失った。
読んで頂いてありがとうございます!
昨日はアクセス96人を達成しました! 今までの日の中で、一番多い数です。本当にありがとうございます!
ブックマークも6に増えていました。ありがとうございます!
謝辞ばかりですが、次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




