休息の勇者
「大丈夫? まだあまり動かないでね。」
「あぁ…、ありがとう…。」
「アチェリー、負けちゃった…。」
シスとビトレイ、そして魔法で運ばれるリーナが堅穴を降りると、ナタージャがキールとアチェリーに回復魔法を掛けるのを止めた所だった。
キールとアチェリーの体についた傷はすっかり癒えており、後は蓄積した疲労や精神的ダメージなど魔法では癒せないものだけになっている。それらは殆ど寝れば回復するので、明日にはもう旅を続けられるものだと思われた。
「おかえり。…てリーナ! 大丈夫!?」
地面に降り立ったのをリーナが気付いて、こちらに駆け寄ってくる。
ビトレイがゆっくりと丁寧に地面に着地させたリーナへ、魔力回復薬を飲んだナタージャが回復魔法を掛けた。
えととリーナが戦ったときの傷は回復薬によって既になく、残っているのはナンがリーナを気絶させた時の打撲、痣などと、ナンがリーナを抱えながらビトレイと戦ったときに着いたかすり傷だけだ。
五分ほどナタージャが魔法を掛け続けると。
「んン……。…!!」
リーナが目をさました。
ナンによって気絶させられたことを覚えていたのだろう。ナンに捕まっている状態だ、と考えたのか身を堅くする。
しかし寝転がる自分の胸に両手を当てて心配そうにこちらを見るナタージャ、いつもと同じように佇んでいるシスを見て、緊張を解いた。
「ナタージャ…、どうなっているの?」
「リーナ…。シスが敵の手からリーナを取り戻してくれたんだよ…。ビトレイと一緒に。…大丈夫リーナ? シスが助けに行く前に何か変なことされなかった…?」
「それは大丈夫だと思うよ…」
(…良かった、あいつらに会ってへんな影響は受けていないな…。まだ話してもいないのに、記憶が戻ったらすごいことになるだろうしな)
「うわあぁあぁぁぁぁぁぁああぁあっぁああん!! 怖かったよぉぉおぉお!!!」
「よしよし、もう大丈夫だから。」
かなり久しぶりにリーナの鳴き声を聞いた気がして、シスは少し感慨深くなった。
この声が聞ける場所は、シスにとって心地居場所になる。そう知っているからだ。
もう地上は紅に染まり、カラスがなく頃だ。
無論、壁も淡く光ってはいるがそれに太陽並みの光度を期待するのは酷というものだろう。
一行はテントを張って休むことにして、準備を始める。
そんな中で、シスとリーナだけは大部屋のある一点に向かって歩きだしていた。
「リーナ?」
「…、…シス?」
ナタージャとビトレイが怪訝そうに声を上げるが、すぐに得心へと変わる。
二人が向かった先は黄色い巨大な宝石だったからだ。
『発生迷宮』を攻略する目的は、『迷宮の王』を倒すことではない。動力源とも言われている宝石を砕くことだ。『迷宮の王』を倒しただけで満足するなど、本末転倒の極みだ。
「ふっ」
「ふふっ」
二人は顔を見合わせてかすかに笑うと、巨大宝石の前に立った。
エトの『開放』、シスの重力崩壊による超新星爆発と核融合爆発を受けても、宝石はまだ壊れてはいなかった。
しかし、それは無傷ということではない。
端は欠け、細かい傷が縦横無尽に走っている。
人間でいえば満身創痍の宝石に、シスは覚悟を決めた。
魔物から発散される魔力が薄くだ漂っているここでは、半永久的に動き続ける魔封宝石に、シスは体外魔力操作を行う。
グゴガグガガガガ…
と、奇妙な重音が聞こえる。
大規模に空間を歪める余波だ。
「…シス…!?」
リーナが悲鳴を上げるが、シスは続行する。
前回開かれたゲートとおなじものが出来るようになる繊細に魔力を制御し。
そして。
小さく、徐々に大きく、空間が接続される。
「『武器庫』」
しかし完全に繋がりきる前に、シスは取り出したいくつもの魔封宝石を投げ入れると、魔力操作をやめた。
「…やっぱりか…。接続先はクラクナ火山だな。…ここの宝石は派遣の扉の役割をしていた訳だ。」
シスの言葉に何をしているのか問い詰めようとしていたリーナの動きが止まる。
「どういうこと?」
「リーナ、疑問に思わなかったか? 魔物の分布が早すぎる、と。たった二年で世界中のあらゆる地点に出現した魔物を、不思議に感じなかったのか?」
「……思ってはいたけど、もしかして…!」
リーナの悲鳴のような声にシスが同意する。
「あぁ、このトパーズの魔封宝石が魔王のいるクラクナ火山から各地の『発生迷宮』をつないでいるんだ。」
「そんな……!!」
一行の驚きが、部屋に満ちた。
読んで頂いてありがとうございます!
前話で、また新しい登場人物が現れました。彼女はどのような存在なのか。想像を巡らせていただけると嬉しいです。
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次回も頑張って更新するので、よろしくお願いします!




