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対決の勇者 後編

 「わかったわキール。私とシスが戦って、シスの実力を測る。」

 リーナがそう言うと、キールを除いた一行全員がうんうんと頷く。

 しかし、

 「ちょ、そう言うことじゃなくて! 」

 キールが慌てたように反対する。

 「キールが反対した理由は、実力のわからない人を仲間と認めるわけにはいかないということよね?   なら、シスに実力を示してもらえば良いわ。それでシスの戦い方上、同じ前衛職の私がシスと戦えばシスの実力がわかる。キールはそれでも反対?  」

 「…、別にリーナが戦う必要は無い。 オレが戦えばいい! 」

 「つまり、実力を測ることに異存は無いってことでいいのよね?  」

 「…、ああ…」

 キールが忌々しげに頷く。そこまでシスを嫌っているらしい。

 「…、それで、あなたが戦うって言うのはどういうこと?  私に一回負けて魔王討伐後に再選するという約束で着いて来た貴方が、私より正確にシスの実力を測れるの?  」

 大きすぎる壁を下から見上げても、わかるのは「高い」ということだけだ。リーナが実力を認めるシスが、リーナよりも弱いとわかっている人物と戦闘を行ったとしても、実力を測ったことにはならない。その考えに賛同するように、

 「私もリーナのほうがいいと思う。強さとかの問題じゃなくて、今のキールは冷静さを欠いている。そんな状況では、キールの方が実力を出せない。キールの父さんも言っていたでしょ?   常に冷静であれ、って。」

 ナタージャがリーナの意見を支持した。

 「……くっ……! 」  

 キールが悔しそうに唸るが、もう聞く者はいない。

 「…! そうだ、シスの返事を聞いてなかったわ。シス、私たちと一緒にきてくれないかしら?  」

 リーナの再びの問いに、シスは答えた。

 「ああ、願ったりだ叶ったりだ。俺も目的は魔王のところまで行くことだし、な。」

 「…?  」

 リーナが首をひねったのを見て、シスは答えた。

 「一応、冒険者ギルドの依頼の一つに、魔王討伐があるんだよ。二年も勇者がいなかったんだ、ただの冒険者にでももしかしたら…なんて希望が捨てられなかったんだろうさ。まぁ、依頼受諾の受付がいらない、魔王の首と報酬を直接交換って言う超高難度だが。」

 シスがいったことは事実だが、シスの目的は真実ではない。しかし、本当の目的を明かす気はつもりは無かった。

 「…、なるほど。ではキールも賛同したことだし、模擬戦を始めましょうか…。」

 リーナの心中は、言葉ほど穏やかではなかった。ゴブリン・テンパード100体を一撃で倒したあの攻撃を使われれば、リーナの抵抗など小さな障害にすらならず消し飛ばされてしまう。そんな相手と戦うのに、恐怖が存在しないというのはありえないことだった。 

 「…、とりあえず、互いに致死性の攻撃は禁止、回復魔法ですぐに治療可能な範囲に留める事。」

 ナタージャが模擬線に関するルール…というよりは、「殺さない」ことを先に明確化しておく。この行動を予想していなかったリーナは、心の中でナイス、ナタージャ! これであの攻撃が使われる事は無いわ! と叫んだ。

 リーナとシスが背中合わせに歩き、互いに向き直る。

 リーナは腰から片手直剣を、マジックポシェットから盾を取り出し、構える。

 シスは『カリバーン』を右手一本で構え、

 「『武器庫(アーセナル)』」

 と呟き、現れた武器を左手に持つ。

 (…、あれ?  魔法は支えないはず…?  )

シスの行動にリーナは疑問を抱くが、しかしそれを頭の中から追い出して頭を戦闘用に切り替える。

 (相手の実力は未知数、全力で良くしかない…! ! )

 (彼女のやり方なら良く知っている(・・・・・・・)。必ず勝てる)

 両者、頭を高速回転させて勝ち目を模索する。

 片や全力

 片や余力を残し。

 どこまでも対照的な二人の姿に、見守る勇者一行は息を飲む。

 じりじりと強くなる圧力。二人の間に走るスパーク。

 水面下での戦いが長引かせる静寂を、破ったのは勇者だった。

 およそ20メートルの距離を詰めようと駆ける。途中、何度かリーナの体と盾、剣が光る。魔法で強化したのだろうか。

 大してシスは左手を前に出す。そこにあったのは紅と蒼に輝く―――

 「水晶(クリスタル)!?  」

 その名を叫んだのは誰だろうか。

 水晶。 それは魔力を吸い取る効果を持った結晶だ。空の結晶に魔法を当てれば、水晶の中に魔法が吸収され、色が変わる。

 水晶を割ることでその魔法が水晶の外に放たれるというその性質故、使い捨ての物となるのだが、使用者が魔力を使う必要がない為に、非魔法使いでも使うことが出来るという利点も存在する。

 紅に輝くのは爆炎結晶(バーニングクリスタル)、蒼に輝くのは凍冷結晶(フローズンクリスタル)。灼熱と冷却を司る水晶を見ても、しかしリーナの表情は強張らない。

 (基本的な耐熱、耐冷、それに耐衝撃魔法は私にも装備にもかけてあるわ。それくらいで私の装備は壊れないし、足止めにすらならない! )

 水晶を足止めのためと判断したリーナは、地面に落ちて面倒なことになる前に全ての結晶を盾で叩き壊そうと走る。

 果たして、紅、蒼の順に宙の水晶をリーナは盾で砕く。業火と凍気がリーナを襲うが、耐えられないほどではない。

 シスはというと、万策尽きたか『カリバーン』を唐竹割りをするように大上段に構えている。

 (勝った! 上段切りを盾で弾いてがら空きの胴へ剣を振れば勝てるわ! )

 リーナがそう思った瞬間。

 「…ふっ」

 シスが、笑う。

(な、にが…!?  )

 リーナの体に悪寒が走るが、上段切りの軌道に滑り込ませた盾を持つ手はもう止まらない。否、止まれない。

 リーナが企図した通りに。

 シスが誘導した通りに(・・・・・・・)

 『カリバーン』が、盾へ激突する。

 瞬間。

 魔法強化された(・・・・・・・)盾が、粉々に砕け散った。

 「…!?  」

 驚きに固まるリーナ。一行が息を飲む。

 衝撃で尻餅をついたリーナに、シスが剣を突きつける。

 リーナは負けたことよりも、目の前で起きた現象が信じられなかった。

 魔法強化された盾を、何の魔法強化もされていない剣で壊す。

 確かに剣は高級そう(・・・・)だった。しかし、それだけで盾を壊すなんてことは、

 「不可能だわ! ! 」

 リーナは剣を突きつけられていることも忘れてシスに食いかかった。それは一行全員分の代弁だった。

 魔法強化されたものを壊すには、掛けられた魔法が耐えられないほどの攻撃をするか、魔法を破壊してから壊すしかないはずだ。

 しかし、続いたシスの言葉がその常識をぶち壊す。

 「物理的風化。」

 「…え?  」

 「物体を加熱した後、急速に冷却すると内部構造が壊れ脆くなる。魔法強化は指定された属性への耐久力を上げるだけで、それによる影響を遮断している訳ではない。 つまり、耐熱魔法を掛けたといっても、それは熱で溶けなくなるだけで温度上昇は防げないということになる。そして魔法強化は指定された属性でしか作用しないから、内部構造が脆くなることまでは防げなかった。後は少し衝撃を与えてやれば、魔法強化されていない属性から自壊していく訳だ。」

 「……」

 静寂が訪れた。

 そしてリーナはノロノロと右手を上げる。白銀に輝く自らの胸鎧をポンポン、と二回たたく。

 そして。

 「うわわわわわわ~~~~~~ん! 」

 大声で泣き出した。


読んで下さって、ありがとうございます!

やっとシスの強さを出せました。 

キーワードの科学の意味も分かっていただけたと思います。

次回もがんばって更新するので、よろしくお願いします!

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