反撃の勇者 前編
「…もうすぐだ…。」
ビトレイと二人で穴を登る。はじめは高く見えた頂上も、今となっては手が届きそうに見えるほどになった。
「……!?」
しかし、それも突然打ち消された。
そこそこ遠い距離で魔力を感じたかと思うと、周囲の土がドロドロになって流れ落ちてきたからだ。
「ビトレイっ!!」
「…うんっ……!」
ビトレイが魔法銃を使って上昇速度を上げる。
今使っている魔法は、飛行魔法を実現しているものではない。
ナンの場合では足にスラスターをつけることで宙へ浮いているのだが、それは一瞬でもバランスを崩せば制御は瞬時に不可能になり、人を浮かせることの出来る推進力がアダとなって体がバラバラに引き裂かれる。
ビトレイが使っている魔法も、ただ足場を作り移動させているだけなので、一定以上の速度を出すと人が落ちてしまう。精々浮遊魔法と呼ぶくらいで、到底飛行魔法と呼ぶことなど出来ない。
しかし下から押し上げる分には人がおちる心配は無いので、いくらでも速度を上げることができる。
無論、それと引き換えに莫大なGを受けることになるのだが。
太陽が近くなる。
二ケタのGに耐えながらも、シスは上を眺め続ける。
流れ落ちる地面になど目もくれない。その瞳が捉えたいのは唯一つ。
ついに。
「……シス!」
抜けた!
湿った音を響かせてみる見る小さくなっていく穴を見下ろす。急な停止により数秒の浮遊を味わってから、再び足場へ着地する。
そこで見えたものは…。
沼。
そして鯰。
「…、…?」
ビトレイが首を傾げるが、シスは相変わらず冷静であった。
「…新しい沼だな。生木が一緒に巻き込まれている…。液状化現象か。水と土を含んだ土砂に振動を与えて底なし沼のようにしたかな…?」 そして鯰。
「…たぶん…、あれが『関の守護者』、だよね…。さっきの魔力も、あの鯰……。」
「…感謝しないとな」
「……?」
「…鯰にだよ。エトとナンを足止めしてくれている。」
「…、…!? あっ……!!」
気付いたビトレイが星術銃の光学スコープでそこを覗く。
そこには巨大な鯰と戦う二人の姿がくっきり映っていた。リーナもそのまま左腕に担がれている。
おおよそ高度百メートルだろうか。足場はかなり高度に滞空している。
「…さていくか。」
「…うん!」
シスは足場から飛び降りる。
「…!?」
ビトレイは驚くが、シスは構うことはない。
このままでは凄まじい速度で地面へ叩きつけられる。
「…シスなら…。」
大丈夫か、という言葉を飲み込んで、ビトレイも足場を降下させて後を追った。
「『武器庫』」
落下中のシスが呟く。
取り出すのは紅に輝くルビーの魔封宝石と暗緑に紅点のブラッドストーンの魔封宝石。
ブラッドストーンの重力操作によって落下速度を緩めると、更にブラッドストーンを操作する。
重力とは波の一種。津波を伝える媒質が水のように、重力波を伝える媒質は空間である。
つまり、重力は空間を曲げることが出来るのだ。
空間を曲げて筒を作る。
空間は決して壊されない。それを利用し、噴射口の反対側を繊細に調整する。
その形は二次曲線。つまりはパラボラ。
物質で作ることは強度的に不可能な兵器を、シスは造り上げる。
シスは空間の筒の中へルビーをいれ、狙いを定める。
ルビーが所定の位置に来たとき、シスは呟く。
「『破断』
瞬間、焦点にあったルビーが砕けた。
ルビーの中にある全魔力が安定を喪い狂い荒れる。
ルビーの概念、『炎』が暴走し、大爆発を引き起こす。
そして。
前後に行く衝撃も、左後方に行く炎も。
全てが前方へ揃えられる!!
「パラボラ。焦点で起きた波はどこの方向へ行こうとも、二次曲線に当たった瞬間、二次曲線の軸と平行に揃えられる。爆発の全エネルギーを口径に圧縮した火力を味わえ。」
火線は、ナン・エトと鯰を射線上に捉える。




