抗戦の勇者
エトと呼ばれている少年が動いた。
左掌を下に、左の壁を指し示す。
「『分解』」
瞬間、壁が半径一メートルの半球状に抉れた。
「『停滞』」
今度は右掌を上に、体の前に手を置く。
「『構築』」
刹那。
右掌の上に、物質が現れた。
「…,…!」
「…!」
「っ…!」
リーナは驚愕した。
エトが何をしているか分からなかったからだ。
「分からないでしょー。あなた達如きに、エトが何やってるか分かる訳無いもんねー!」
ナン、と呼ばれた少女が言う嫌味も気にならない。
(魔法を使ったのは間違いない、魔力の反応はした…。でもおかしい。理に反してる…。魔力消費量が少なすぎる…!)
そう、おかしい。
物質分解であれ、物質生成であれ、魔法難易度、魔力消費量共にトップクラスだ。
使える魔法使いは世界で両の指で数えられるとされ、『魔王覚醒』によるゴタゴタで二人にまで減っている。
そんな物質分解、生成魔法が、炎弾0.5発分にも満たない魔力量で扱うことが出来るなど、信じられることではない。
「ふんー! その様子だと『錬式』を知らないみたいねー。」
「まぁまぁ。0番が出た後に完成された技術だし、しょうがないんじゃないかな。」
「開発自体はでる前からあったもんー!」
「それはそうだけどさ…」
談笑するエトとナンの姿は、勇者と敵対しているとは思えないものだった。
(どうする…)
リーナは考える。
(…まともに戦っても勝ち目はない。あんな敵なんて勝てない。何かトリックがあったとしても見抜く前に負ける…)
だから、リーナは選ぶ。
否。
信じる。
(シスが来るまで何とか絶対に持ちこたえる…! シスなら必ず…!)
「リーナ!」
「…リーナ。」
と、後ろから二人が話しかけた。
「なに…?」
振り向くと、二人が―――覚悟の決まった顔で佇んでいる。
既に二人の中で話がついてるらしく、キールが言う。
「…俺たちが、壁になる。あいつらが狙っているのはリーナだ。…逃げろ。」
「…アチェリーたちに任せて!」
言葉だけ見れば勇ましいが、しかし少し顔は青白く、膝はかすかに震えている。
「ちょ、ちょっと待って! シスを待てばきっと…!」
「今、この瞬間来る確証はない。大事なのは、勇者であるリーナが魔王の所へ行くことだ。俺たちが行く必要性は薄い。最も高いのはリーナだ。だから、逃げてくれ。」
「リーナ…!!」
必死の懇願にリーナは断りきることが出来なかった。
「…いいか、アチェリー。俺が合図したらあいつらとの中間点で爆発を起こせ。そしたら俺が突っ込むから、バックアップ頼む」
「分かった! …キール、死なないでね…?」
「当たり前だ!」
緊張のせいか堅くなっているキールに、アチェリーが話しかける。
「…、…。」
「リーナ、一目散に逃げろよ。その後はシスと合流するなりすればいい…。でも、絶対に戻ってくるなよ。俺たちの行動を無駄にするなよ!」
「………、…わかった…」
「今だ!!」
「分かった…!!」
アチェリーが弓弦を引き絞り、射る。
丁度中間地点で爆発した矢はもうもうと煙を上げ、視界を隠す。
「さあ!」
キールは一つ言い捨てると、煙の中へ突っ込んでいく。
「っ!」
リーナは固く拳を握ると、踵を返して走り出した。
「オオオオオオオオオオオオォッ!!」
キールの決死の突撃に伴う叫びの隙間を塗って、その呟きは不思議と響いた。
「『解放』」
音が消えた。
閃光が輝いた。
凄まじい熱線が全てを灼き。
強烈な衝撃波が体を吹き飛ばす。
爆発。
アチェリーが起こしたものとは比べることすらおこがましい程の、絶対的な爆発。
「がぁぁぁぁっ!」
少女らしからぬ悲鳴を上げて地に叩きつけられるリーナ。
しかし、意識があるだけマシといえるだろう。
爆発から最も遠い位置にいたリーナでさえこれで。キールとアチェリーは…。
白目をむいて気絶していた。
幾箇所にも惨い傷がある。
切り傷、火傷、打撲、捻挫、脱臼、骨折、裂傷、ありとあらゆる傷がつき、倒れている。
リーナの足も折れているようで、動くことが出来ない。
更に。
(今、何をした?)
リーナは今度こそ理解すら出来なかった。
爆発が起きた。
それはそうだろう。
では、どうやって?
この規模の爆発、簡単に起こせる物ではない。人三人を行動不能にすることなど、単純に出来るはずがない。
「なんてことなかったわねー。私が出るまでもなかったー。」
「まぁまぁ。所詮、0番なんてそんなものさ。」
多数の傷によって沈み行く意識の中、そんな声が近づいてくる。
(シス…)
「さて、回収するか」
「そうねー、割と簡単だったねー。」
エトと呼ばれた少年の手が、もう動けもしないリーナの体に触れようとしたその瞬間。
リーナが一番聞きたかった声が聞こえた。
「…何をしている、エト、ナン。…リーナから離れろ。」
(シス…!!)
最も強くて、最も信頼していて、最も大好きな男の声を聞いて。
リーナの頬に、一条の暖かい涙が流れた。
読んで頂いてありがとうございます!
今日で投稿し始めて丁度一ヶ月です。現時点で1366アクセス、ありがとうございます!
これからもどうぞよろしくお願いします。
と言っている中申し訳ないのですが、明日から3日ほど家を離れるので投稿できない日があるかもしれません。
月曜から投稿できなかったぶん一日数話投稿するつもりなので、よろしくお願いします。




