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対決の勇者 前編

自己紹介は、とりあえずユルド森に入ってから行われた。

 セントラルの大壁の上から見えるかもしれないからだ。




 ユルド森は、王都セントラルを取り囲むように存在している森だ。セントラル以外の町がまだ存在する頃には、まるでバームクーヘンを切り取るように道があったらしいが、今はうっそうと茂る森に成りはて、道がどこにあったかなど分からなくなっている。

 



 そのユルド森へ少し入った所に、丁度良く開けた土地があったので、勇者一行プラスシスの六人はそこに集まり自己紹介をする。

 まず最初は勇者だ。

 「私の名前はゼニール・エクリプス・リーナ・オクタビア。今回の魔王覚醒で神に選ばれた勇者よ。出身は…、辺境の村。今はもう無いわ。主武器は片手直剣と盾の組み合わせか、両手両刃剣のどちらかを使うわ。」

 長い金髪に、透き通るような蒼い瞳。白を基調とした服の上に白銀に輝く軽装鎧を着けている。長靴、腰鎧、胸鎧のみをつけて運動性を重視した姿だ。

 腰に帯びるのはこれもまた白銀に輝く片手直剣だ。当然、両刃で装飾もされてはいるが、されているのは剣の耐久が低くなりにくい場所に、少ないと派気付かせないほど精緻な物が彫り込まれている。残りの装備は剣を帯びているのと反対側にある、マジック・ポシェットに入っているのだろう。

 次に口を開いたのは、紅い宝石がはめ込まれた特徴的な杖を持った少女だった。

 「私はナタージャ。出身はリーナと同じ、勇者一行の一人よ。年もリーナと同じ。家も近所で、小さい頃から一緒に育ってきたの。もう無くなってしまったけど…。主な攻撃手段は見てのとおり、魔法よ。一応全属性の魔法を使えるけれど、得意なのは光、火系統。苦手なのは闇系統の魔法ね。」

 アルビノではないが、白い肌に紅い瞳。漆黒の折れたトンガリ帽とローブと光を放ちそうな白い肌のコントラストが良く映える。ローブの中歯茶色を基調とした簡素な服で、防具のような物は何一つつけていない。その代わりといってはなんだが、宝石がついた指輪やブレスレットが細いチェーンで首から提げられている。

 もう待ってられないと口を開いたのは、弓を背負う少女だった。

 「アチェリーはアチェリーだよ! 年は15! ユルド森の近くにあった、ユルデカの村に住んでたんだ! でも魔物がたくさん来るようになったから、みんなでセントラルに引っ越したの! ちっちゃい頃から弓が上手で、村のみんなと何回もユルド森に狩に来たんだ! 弓ならとっても自信があるもんね! 」

 語尾にことごとくエクストラメーションマークをつける少女は短い茶髪に碧の眼。全身を革を基調とした軽装革鎧をつけている。しかし足と腕はむき出し、走りやすさを目的とした小さい靴と、手の保護を目的とした皮手袋をはめているだけなので、健康的に焼けた肌をさらしている。少し精神年齢も低いようだ。

 次に言い始めたのは騎士の少年。

 「オレはキール。セントラル生まれのセントラル育ちさ! 今年で16になるのかな! 父さんと祖父(じい)ちゃんから戦い方をみっちり教わって、剣に道なら自信があるぜ! 」

 少し赤みのかかった髪に、同色の瞳。全身を使い込んだ形跡のあるフルプレートアーマーに包んだ少年の背中には、剣と盾で一対となった装備が備わっている。盾には龍と剣を模した騎章が刻まれている。

 勇者一行の中で、最後に口を開いたのは、魔法銃を携える少女だった。

 「…、ビトレイ。…、武器は、『ラザベイ・ラボトリー』製の魔法銃…」

 濃い青、いや紺を基調にした服装をした少女だった。灰色の髪に片目が隠れ、黄色の眼が一つ覗いている。手にしているのは魔法銃。使用できる魔法の多様性を限定する代わりに、魔力消費量を減らすデバイスだ。しかし『ラザベイ・ラボトリー』製となれば、星術の物も組み込まれていてもおかしくは無い。シスが気になるのは、普通のマジック・ポシェットと反対側に帯びている、そのマジック・ポシェットより二周り大きいマジック・ポシェットのような物だ。紺を基調とした服装のあちこちに、金属のプレートと思われる物が縫いこまれており、服が防具として成立している。

 そして勇者一行が期待のまなざしで見る中、シスが口を開いた。

 「俺はシスだ。年は多くと同じ16。魔法は使えないが、星術にある程度精通している。」

 黒目黒髪の少年あった。腰には『カリバーン』を帯び、右手人差し指には黄色の宝石からできた指輪がはめられている。

 「…、と言うことは、あなたは星術師なの? 魔法使いではなく。」

 想像以上に少ない自己紹介に落胆を覚えながらも、ナタージャがシスに聞いた。

 「そうだ。俺は自分で全く魔法が使えない。だから、星術でその分の技能を補っているわけだが。」

 「じゃあアチェリーが訊きたいんだけど、さっきの”ゴブリン・テンパード”を倒したの何ー? 」

 アチェリーが勇者一行全員が訊きたいであろうことを訊く。

 しかしシスがあっさり答えるわけもなく、

 「おいおい、他人の技術を見境なく知りたがろうとするもんじゃねえぜ。それだけで泥棒扱いするようなヤツも世の中にはいるんだから。」

 と、はぐらかす。

 アチェリーは無邪気に訊いて来たが、本当に精神年齢があんななのだろうか。もしフリをして訊いてきたのなら、警戒の対象になりかねない。

 そこでリーナがこう切り出してきた。

 「…、シス、私達勇者一行と一緒に来てくれないかしら。」 

 それは一部を除いた勇者一行総意と同じだった。

 …あれ程までの攻撃、魔王討伐の足がかり…、いや決め手になるに違いない、と。

 しかし、

 「いや、オレは反対だな。」

 キールの声が響いた。

 「いまここで会ったばかりの、実力も分からないような相手を入れる必要はない。」

 「でも今、このパーティーは前衛色二人、後衛職三人のアンバランスなパーティーだから、シスに入ってもらえば、バランスが良くなるのに! 」

 ナタージャがリーナを援護する。

 さらに、

 「実力が分からない、と言うのはどういうことかしら? さっきシスは、ものすごい実力を見せてくれたと思うけど? 」 

 リーナが少し怒気をこめて言う。

 …、キールが反対しているのは言葉だけの理由ではないのだが、その気持ちに気付けるほどリーナはまだ人の心に通じてはいなかった。

 「さっきのが実力の証拠? ふざけてるのか。あれはただの一撃だ。オレらで言えば、剣を一回振っただけだ。そこにどれほどの実力が介在する余地がある? 剣を振ることだけなら誰にでもできる。その振り方を、どう扱うかが実力だ。それが分からないのに仲間として認められる訳がない。」

 キールの少し熱の入った、筋だけはなんとなく通った弁論に、リーナは少し考える。

 その間、話の中心であるシスはこう考えていた。

 (好都合(・・・)だ。もともと勇者一行に入って守るつもりだったからな。このチャンスを逃がす手はない。)

 そしてシスの想像したとおりにリーナは言った。

 「分かったわ、キール。私とシスが戦って、シスの実力を測る。」

 シスの口がニヤリ、とつり上がった。



読んでくださってありがとうございます!

まだ話数が若いというのに前後編編成となってしまいました。これも筆者のキャパが少ないせいです。すみません。

これからも頑張って更新するのでよろしくお願いします!

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