分断の勇者
「おかしいな…、魔物の数が少なすぎる」
キールの言葉に、一行は同意した。
ここはドーラ湿地。
激流として名高いミナタ川と、清流として評判のトラル川の合流する三角州に出来た湿地帯である。
冒険者でもない通常の人間にとって、シラカタ山脈は絶対的な壁として機能するので、ここドーラ湿地に行く者は少ない。
せいぜい好事家や研究者がトラル川の風景や生息生物を調べに来る程度である。
そんなドーラ湿地に、一行は違和感を感じていた。
あまりにも魔物の数が少なすぎるのだ。
魔物の数が少ないなら幸運だ。その分早くクラクナ火山へ辿りつけるのだから、と思うかもしれない。
だが違う。
ムラが在るとはいえほぼ一定の程度で分布している各種魔物がいない、ということは面倒であることを意味する。
可能性①
魔物は存在しているが、より強い勇者を恐れて出ない。
可能性②
魔物は存在しているが、より強い魔物を恐れて身を隠している。
可能性③
魔物はここには存在しておらず、どこかに集結している。
可能性④
T種、またはC種が現れて魔物を乱獲してしまった。
(…、①はないわね…)
リーナは依然周囲を警戒しながら考えた。
(今までの魔物、例えば”ゴブリン”の通常種だって戦力差なんて考えたことはなかった。魔物にそこまでの知能があるとは思えない)
こんなに水があって根が腐らないのだろうか、まばらに木の生えた林とも呼べないような場所を進んでいく。
(②、③だとかなり面倒くさいわね…。今までのT種と同じように、下種族にもC種がいると仮定して、そのC種が隠れる、または狩られるほどの強さを持った魔物なんて…考えたくないわ…)
前方に、木すら生えていない空間が見えてきた。広場のように広いそこは、全方位が開けているので休むことに適しているように見える。
(③でも少し手間取りそうね…。大量の魔物に襲われたら対処が追いつかなくなるかもしれない……。でも…シスが…いるから…、大丈夫、かな?)
ドーラ湿地に入って早二時間。
「一旦休憩しよう!」
リーナはダイヤモンドの重さを確かめながら宣言した。
休憩していても警戒は要る。
特に今のような異常なときは。
「どう思う、みんな?」
アチェリーが周囲の警戒をして、他の五人は適当な石に座って話していた。
「…やっぱり、おかしいと思う。」
「そうだよな。俺もそう感じていた。」
「あぁ、魔物の出現数が少なすぎる。そもそも住んでいたやつが出てこないわけではなく、全く周辺にはいなさそうだ。」
「…シスの言うとおり…。」
「ぇ…! 何で分かるの?」
リーナは不思議に思うが、シスならそれも不思議ではないと思い直す。
これで③か④かに絞り込めた訳だが。
「シスは何でだと思う?」
「…恐らく狩られたのだろう。『関の守護者』が青竜蝦だったことから考えると、ドーラ湿地は水棲型の魔物が地上を闊歩しているような所と考えて間違いない。そして青竜蝦のような水棲小型生物の天敵は、殻まで食べつくすような奴等だ。死体が残っていなくてもおかしくはないだろう。
グラッ!
地面がかすかに振動したようにリーナは感じた。それは他の五人も感じたが、揺れが小さく継続しなかったので気のせいだと断じて話を続けた。
「…、その天敵って…?」
「それは…」
シスが口を開いた瞬間、その答えが現れた。
ピンク色の胴(?)に黒い斑点。八本の腕を振り回し、それには強力な吸盤がついている。
「軟体動物門頭足綱八椀形日…」
それは、岩の裂け目、砂塵に穴を作って住み、水魚、小型甲殻類を捕食する生物。
その名をシスが呟く。
「蛸だ。」
「…………!!」
蛸が叫ぶ。音は聞こえないが衝撃波が、空気がビリビリと体を振動させる。
即座に戦う姿勢に移った一行だが、動かなかった。
否。
動けなかった。
いつの間にか足に絡みついた蛸の無視が、一行の動きを阻害しているのだ。
唐突に、キールとナタージャが消えた。
次に、アチェリーとビトレイが。
「シス!」
「リーナ!」
蛸に地中に引きずり込まれていると気付けたかどうか。
伸ばされた手は繋がらぬまま、二人の視界が黒く染まった
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