幕間 渡河の勇者
轟音を立てて凄まじい量の水が流れていく。
幅は百メートル程あるだろうか、激流は一行に立ちはだかるようにその身を晒している。
右手から右手へどこまでも流れる急流。
ミナタ川である。
「どうすればいいの…?」
一行は川原で立ち止まっていた。
ミナタ川。
クラクナ火山西の未開拓領域を水源にするといわれ、サナラ密林を通りソウルテ密林のあたりでトラル川と合流する大河川だ。
一行が通る予定のドーラ湿地はこのミナタ川とシラカタ山脈を水源とするトラル川の合流地点に形成された三角州を元に泥地が広がったといわれている。
その急流は世界トップクラスといわれ、幾度となく勇者の冒険を邪魔してきたといわれている。
「…どうやってわたろう…」
「…、……。」
「…どうしたものか…」
「…、どうするの?」
急流は船や筏を作ってもすぐ壊してしまうだろう。
魔法で水をせき止めても、この水量ではすぐに決壊してしまう。
凍らせても蒸発させても同じ。
魔法の筋力強化で跳んでも五十mが限界。
となれば空を飛んでいくしか無さそうな物だが。
しかし。
この世界では個人規模での飛行魔法は開発されていない。
個人が扱う魔力量では圧倒的に足りないのだ。
人間が飛ぶためには噴射、重力制御、どれをとってもそれでは足りない。
単純な構造のものならいいのだ。
重心に常に上向きの力がかかるようにすればいいのだから。
しかし、人間のような可動部がある生き物だと、重心が簡単に変わる。
故に、ナタージャの「繊細織魔法」以上に細かい制御が必要となる。
飛行魔法一つで他の魔法を使えなくなるのは非常に実戦向きではない。
今最も研究が盛んな魔法分野の一つである。
「どうしよう…」
「…、準備、してなかったの…?」
オロオロするリーナに、まるで自分は渡れる、と言わんばかりのビトレイ。
「よし、こうしするか」
シスはリーナに一言告げた。
「『武器庫』」
中から取り出したのは、翼が二メートル程の小型のハングライダーだ。
「その大きさじゃ飛べないと思うけど…?」
「…ハングライダーは高所から飛び降りて使う…、ここでは意味ない。」
「まぁ見てなって」
シスは五十mほど助走を取ると、離陸する。
シスの乗ったハングライダーは水面すれすれを滑る様に飛んでいく。
水に着きそうでつかない、そんなラインを維持したまま。
「…!!」
「…っ!!」
「っ!!」
「!!…っ」
対岸に渡ったシスは、再びこちら側に戻って言う。
「地面効果。地面、水面近くで揚力を発生させるとき、地面との相乗効果で揚力が上昇する。」
「すごい…!」
六台のハングライダーが、、岸から飛び立った。




