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回天の勇者

 №0(ゼロ)の剣を体術のみで避ける。


 №6(シックス)は全神経を集中させて剣筋を見切る。




 (…、…、……)




 戦闘演習室の眩い白色の壁は、否応無しに現実を突きつける。


 以前の№6(シックス)なら完全に防御した上神速のカウンターまで行われていたであろう。普通の剣から見れば最上級の、しかし№6から見ればまだまだ拙いその剣を全力で避け続ける。


 『はぁ…、はぁ…ッ!』


 コンパクトに振られた上段斬りを、最小限の動きで左にスライドして回避。そのまま拳を振り上げるが、№0の持つ模造刀に薙ぎ払われる。


 『(…、この前までとは正反対だな…)』


 なんとか倒れずに着地したシスは呟く。そう、この前までは正反対だったのだ。戦闘であしらうのが№6で、あしらわれるのが№0だった。




 (…、…?)




 №6は思う。


 『(…力が、欲しい…。前のような、以前を越える、彼女を守れるほど絶対的な力を…!)』


 『№6(シックス)、行くよ。』


 少女が――№0が、声を発す。


 構えは居合い。腰を落とし、脚に力をこめて前傾姿勢に。明らかに走った上で居合いの速度を上乗せする『飛居合』をするつもりだろう。


 バンッ!


 と、№0の脚が地を蹴った。土の地面と同じ程度に弾力性を持たされた白い床は、最適化された踏み込みに十分な反作用を返す。


 急速肉薄する№0の肉体。相対的に加速する思考。しかしシスが何か行動をする前に―――。




 白刃が、煌いた。




 (……、あぁ…)




 高速の居合斬り。本来静止して扱うその技を、自らが高速移動しながら放つことで射程の上昇、威力の上乗せを狙う剣術、『飛居合』。


 以前と同じように動けない№6に、№0が慌てて駆け寄る。


 ブー、とブザ-がなった.


 『状況終了。十五分後から再開します。』


 女性の合成音声が言う。


 『シス…! 大丈夫? ごめんなさい…!』


 腹に裂傷を抱えた№6に、№0が慌てて駆け寄る。


 仰向けに転がっている№6の1mほどのところにある床が開き、試験官のような瓶がせり上がってくる。


 『がぐっ、…あぁ、大丈夫だよゼロ…。いや、大丈夫じゃないか…。』


 『もうっ、変な事言ってないでよ…』


 №0がせり上がってきた瓶を掴み、中の液体をシスの口に含ませる。それをゆっくり飲み込むと、シスの裂傷が段々と消えていった。


 『いつもは逆だからな…。うっ、…キレイに気絶したゼロにこれを飲ませるのが俺の仕事だったんだが…。』


 『そ、その話はやめて…! 起きたらシスの顔が最初に目に入るって、その…、嬉し…けどはじかし…みたいな…』


 『というか訓練用の模造刀でアレだけの傷を作るのかよ。やっぱスゲェなぁ…』




 (…そうか、走馬灯か…。)


 シスは気付いた。


 青竜蝦に突然、前兆すら殆どない攻撃をされ、絶賛大穴が腹に空き中であることを。


 一瞬で致命傷を負わされたシスは、自分が今走馬灯を見ていることを理解した。


 まわりがゆっくりと流れている。




 (…人間は死ぬ間際まで生きようとしていて、死ぬ直前が最も脳の回転数が速いっていう研究、ほんとだったんだなぁ…)


 思う。


 (あぁ、あそこから彼女を守れなかったなぁ…。でも最後に青竜蝦から彼女を守れてよかった…)守れたか?


 自分から力が抜けていく。温度が、ゆっくりと消えていく。


 (とりあえず…、まぁ良い人生だった…。彼女の為に生きられて、彼女の力となって生きられて…。彼女の勇者となって生きられて…。本当に、良かった…。)


 シスが意識を手放す、瞬間。




 何か、暖かい物がシスの顔をぬらした。


 (…?)


 最後の最後で敏感になった感覚に、それは飛び込んでくる。


 泣きじゃくるリーナの顔。


 頬に次から次へと落ちるリーナの涙。


 自分の右手を握るリーナの手。


 口に溢れる血の味。


 そして。




 「死なないでよ…シス…。生きて、帰ってきてよう…」




 リーナの、嗚咽が。


 シスへ、届く。


 届く!!




 意識の手綱を握りなおす。抜けていく力を、消えていく温度を、もう一度、掌握する。


 (まだ、まだ死ぬ訳には行かないっ!!)




 意識が、クリアーになる。


 消え行く力をかき集め、集中する。


 「アアアア―セナルウウウウウウウウウウウ!!」


 全力で叫ぶ。


 その全力とは裏腹に、極めて小さく―やっと手首が入るほどしかない空間の穴が開く。


 躊躇うことは無い。そこに強引に手をいれ、取り出したるは試験官のような瓶に入ったグリーンの液体。




 回復薬。




 一行でさえ五人で三本しか持っていないその液体を、シスは飲み干す。


 「シス…!」


 「…!!」


 ぐちゃぐちゃの顔にリーナと、回復魔法をかけていたらしいナタージャが呼びかけるがシスは黙って立ち上げさせる。


 宣言する。


 「シャコ…、リーナを泣かせたお前は必ず…、ブッ殺す!」


 シスは激怒した。


 「だ、大丈夫…?」


 リーナの声にシスはこたえる。


 「あぁ、大丈夫だ。」


 そして、シャコに向かって全力で駆け出した。


 …、しかし、シスの体は言うほど大丈夫ではなかった。


 回復薬が治すのは体の傷だけ。蓄積された疲れたや精神的な痛みなどは治せない。シスも、体だけで見れば完全回復だが、全体的に見れば満身創痍だった。


 そんなことは関係ないと走る。


 アドレナリンが、ドーパミンが、ノルアドレナリンが全てをひっくり返す。


 青竜蝦の右捕脚が動く。


 前方十メートルを爆発させる初動を見たシスは、この一踏みに全力をこめて。


 踏み切る。


 跳ぶ。


 右手を左腰に添えて、指輪の魔力を使いきる。


 「『武器庫(アーセナル)』ッッッッッッッッッ!」




 瞬間、直径五十mにも及ぶ、円形の空間の穴が出現する。


 指輪を基点としたその空間断層を、居合いをするように振り抜く!!




 ザン!!




 音が、木霊した。


 青竜蝦が体を斜めに断ち切られて崩れ落ちた。




 「『翔居合』…。名づけるならそんなところか…」


 「シス…!!」


 「…。シスッ!!」


 リーナとビトレイが駆け寄ってくる。


 その嬉しそうな、幸せそうな彼女の顔を確認して、シスは意識を手放した。

読んで頂いてありがとうございます!

すみません、8話に重大なミスがありました。何で本文2回も繰り返したんだ、と自分にツッコみたくなります…

次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!

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