攻略の勇者 前編 デカリア草原『発生迷宮』
シスの予想通り、五十m先は大広間に繋がっていた。
「アチェリー!」
「…、八十メートル先に、”半牛人王”、周辺に三十二体の”半牛人”! ”半牛人将軍”、”半牛人投槍兵”、”半牛人曹長”、だよ!」
「「「…!!」」」
一行の気が引き締まった。種族特性『軍隊行動』をもつ”半牛人”が大量にいるだけで脅威だが、そこに曹長、将軍、王と指揮系統がそろっている。
まさに、小さな町一つ亡ぼすに足る戦力を前に、リーナ達は震える。
「みんな...、大丈夫?」
一行は一度集まった。
「あぁ…。」
「大丈夫だぜ!」
「大丈夫よ」
「うん!!」
「……っ。」
前衛のリーナ、キール、シスと後衛でもナタージャとアチェリーは疲れていない。
しかしビトレイだけはかなり疲れていた。肩で息をするビトレイはしかし、それを抑えて言う。
「…大、丈夫…。」
ビトレイはマジックポシェットから試験官のような細い瓶を取り出すと、一気に呷った。
この世界では回復薬と呼ばれる魔法役は貴重な物である。
まず、製造が難しい。
釜一つ作るのに半年以上かかる上に、素材が大量に必要となる。回復魔法のほうがはるかに手軽なのだ。
だが、回復魔法で癒せない傷に対しては回復薬を使うしかない。致命傷を一瞬で治す便利なものだが、しかしその回復が体に馴染むまでの数分間にもう一本飲んでも効果はない。たいていは明るいグリーン色だ。
その亜種として、魔力回復薬がある。
こちらは回復薬よりも研究が進んでいる為、魔法使いなら高めのディナーくらいの価格で手に入る。しかし、コバルトブルーに輝くその薬は魔力量を自らの最大量の半分ほどしか回復せず、体の傷も治らない。魔法を継続して使う為の薬なのだ。
ビトレイが飲んだのは後者。
数に限りのある薬を使って、戦えることをアピールしている。
「…分かったわ、ビトレイ…。」
リーナは諦めたようにいった。それから、『迷宮の王』である”半牛人王”を攻略する作戦を伝える。
「私とキールで前衛、ナタージャとアチェリー後衛。この四人でまず”半牛人王”以外を倒しましょう。その間、シスとビトレイは”半牛人王”の足止めをお願い」
「オッケーい!」
「いいわよっ!」
「うん!」
仲間の承諾を得てからリーナは先へ続ける。
「シスはビトレイの安全確保を第一に、足止めを第二に考えて。倒すのはその下の優先度でお願い。」
「あぁ、分かった。」
リーナの心中では、シスと他の仲間―特に女性―に近づけさせたくなかったのだがそれはそれ、と割り切って離す。
「私たちが、”半牛人王”以外を倒し終えたら、ナタージャとビトレイの一斉放火で倒しましょう」
一行は頷いて、広間へと向かった。
今の所戦況は安定している。
シスはそう思いながら走った。
”半牛人王”は硬い。さすがは王、という所か。物理防御が『カリバーン』で貫けないほど硬い。
ならば魔法は、と思うのだが。
後方から放たれた『実体破壊』は、”半牛人王”の強力な魔法耐性に抵抗され、効果を発揮することが出来ない。
T種かどうかはわからないが、この魔法耐性ならHSNCも”半牛人統治者”のときと同じように効果が薄いかもしれない。
(そっちはあと何体だ…?)
シスはリーナのほうを首を廻して確かめる。
(あと二十八体…。これはかかるな…)
シスは”半牛人王”の気を引くべく、水晶と『カリバーン』を握り締めた。
(…っ!)
『実体破壊』が効かない、ビトレイはそれに焦る。
(これじゃシスに負担をかけたまま…!)
ビトレイは紺のマジックポシェットを撫でた。
換装。
「…四十七式『雷系魔法銃・改』…発射」
イエローの眩光、空気を奔ったと気付く前に着弾。…しかし傷一つつかない。
(…だったら…!!)
シスが”半牛人王”の後ろに回りこんだのを確認して呟く。
「『多重武装』…、十」
瞬間、ビトレイの周囲に銃が現れる。その数10丁。
「発射」
一斉に火を吹く銃。十通りの攻撃が、”半牛人王”に当たり爆炎を発生させる。
(…でもこれだけで…、倒れたはずない!)
場所が分かればすぐ攻撃できるよう油断なく辺りを見るビトレイ。
しかし。
回避不能のタイミングで正面から”半牛人王”の拳が降ってきた。
(…!!)
ビトレイは気付く。自分が致命的なミスをしたことに。
防御力に劣る後衛が、前衛より魔物の気を引いてはいけない。
鉄則だ。
妙にスローに感じられる中、しかし少女はあきらめはしない。
(…絶対に来る…!)
信頼しているから。
「HSNC、スイッチオン。」
拳が、上腕が、ビトレイは今まさに襲おうとしていた拳が消滅した。
浮遊感。
ビトレイが、シスにお姫様抱っこで抱えられている。ということに気付くのに時間がかかった。
「…ふぇ?」
確かに助けてくれるとは思ったが、こんな形とは思っていなかったビトレイは思わず声を漏らす。
「何をやってるんだか」
地上に降り立って、シスの腕から下ろしてもらったビトレイにシスは言う。
「ゴアァァァァアァァァァア!!」
自らの右腕を破壊されたことにやっと気付いた”半牛人王”が怒る。
「…さて。物理も魔法も効かないし、第一目標も危ない。…第三目標、やってしまうか?」
「…どうやって?」
「お前の『マルチファイラー』にコレ、あるだろ?」
シスはビトレイに伝えた。
”半牛人王”が漸くこちらを補足した。
「刀を薙ぐイメージだ。簡単だろ?」
「…、うん…」
「さぁ、行くぜ!」
横に並んだシスとビトレイが、各々星術銃を構える。
「せえの!」
瞬間、蒼白い光が二条、刀のように”半牛人王”を三等分に切り分けた。
「…えっ! 『粒子加速砲』だから光はないはず…。」
ビトレイの呟きが示すように、二人が使ったのは『粒子加速砲』。荷電粒子を飛ばす砲だ。HSNCと似ているようで似ていない。
「「チェレンコフ光」。粒子速度が物質中の光速を越えた時に出る光で、チェレンコフ光が現れたってことは衝突エネルギーがすごいことになるってことを示している。今回だと十六兆の電子ボルトのエネルギーだ。要するに、電子ビームカッターだな。」
「…っ」
ビトレイの心が揺れ動く。コレで思ったのだ。
(私じゃ、シスに追いつかない…)
と。
シスの高みに至るには、自分では器が足りない。そう確信した。
しかし。
(それでも…せめて…、シスの横に立ちたいな…)
ビトレイの目標が更新された。
「よし、リーナ達を手伝うか。」
「……、うん!」
2人は二十体以上残っている”半牛人”たちへ駆け出した。
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