冒険の勇者 デカリア草原『発生迷宮』
「837式、『実体破壊』…発射」
不可視の魔力弾が虚空を飛んだ。
売ったのはビトレイの魔力銃、『実体破壊』だ。『実体破壊』はそのなの通り、実態のある物質の効率のよい破壊を目指して作られた魔力銃だ。
メカニズムはこうなっている。
普通の魔力銃は、魔力に物理的効果を付与することによって攻撃している。つまり、中心核の魔力を物理的効果を再現するようになっている魔力フィールドが覆っている、というイメージだ。相手に着弾すると同時、核の魔力から魔力フィールドへ魔力が流れて物理的効果が発揮される。このプロセスを補助する為に魔力銃が作られた。
しかし『実体破壊』は違う。
核を魔力フィールドで覆うことはしない。ただただ単一の構造を飛ばし、着弾したら相手への干渉を開始する。
魔力を物理的効果に変えて相手を攻撃するのではなく。
魔力を以って相手を改変する。
『実体破壊』の魔力弾は”半牛人曹長に着弾し―胸を消し飛ばす。
シスのHSNCにも似た、静かな破壊。
”半牛人曹長”の注意を引いて戦っていたリーナが振り返って言う。
「ありがとう!」
ここはデカリア草原『発生迷宮』。一行は、宝石を壊すために冒険していく。
ユルド森の『発生迷宮』は、本当に迷路のように入り組んでいた。
しかし、デカリア草原の『発生迷宮』は、一本道が五十mごとに直角に折れ曲がる、比較的…いや、かなり単純な構造をしている。
幅は十メートルほどで、五十mの通路に隊長二メートル程の”半牛人曹長”が三体いる。
丁度前衛三人、後衛三人なので、前衛が一匹ずつ足止めして後衛が止めを刺すというのが理想だ。
シスも全力を出すのではなく、後衛に経験をつませる意味で足止めに徹している。
その中で、ビトレイがやる気を出して”半牛人曹長”を打ち抜き、打ち倒していた。
(…、シスに負担をかけられない…!)
それがビトレイが集中している理由だった。
ビトレイは再びそう思った瞬間を思い出す。
「…そういえばシス、昨日のあれはどうなったの?」
朝五時半。
旅をするものとして必須な日の出で起きる、ということをした一行が朝食を取っている時に、ナタージャが思い出したように聞いた。
「…あれってなんだい? 思い当たることは無いけれど…」
「…何言ってるの!? あれだけの魔力量があって操作できるなら魔法が使えない訳無いじゃない! 何で使えないって嘘ついてたのよ?」
激昂したように言うナタージャに、シスは冷静な声で言う。
「いや。 俺は魔法を使えないよ。魔力は持っているけどね」
「…どういうことよ。」
ナタージャが未だ内に怒りを込めた声で訊く。
「魔法は魔力の安定する体内で魔力に構造を与え体外に放出する技能が無いと扱えない。」
「出来るでしょ? あなた魔力を操作できるんだから」
「いや。」
「…?」
シスはリーナのほうを一瞬向き、目を合わせてから言う。
「俺は魔力に構造を持たせたまま放出することが出来ない」
シスが割り切った声で言った。
「…!!」
「…!」
「…っ!」
「…、…!」
驚いた気配が四人。
シスの言うことが正しければ、シスは確かに魔力もあるし魔力操作も出来るが、魔法は使えない。
「それは…、体質的なものなの?」
「あぁ、生まれつきだ。」
シスの淡々と語る声にリーナを除く一行は衝撃を受けていた。
魔法が使えないということはつまり、自分が命を預かる万能の技術を使わずに自分より高みに至ったという事だ。
それを聞いてビトレイが思ったことは。
(…、もう、シスには頼っていられない…!)
ということだった。
シスを除く一行の中で唯一『星術』について知っているビトレイは、『魔法』と『星術』の違いをよく知っていた。
『星術』のみで力を得る、ということはそれは人間としての限界に近づいていくという事だ。
自らの肉体を鍛え、頭脳を鍛え、精神を鍛える。
不思議な力を使わず、この世界の理に従って、自分を高める。
最後まで極めれば世界の全てを理解し、世界の全てを掌握できる。
しかし、道のりは果てしなく長い。
『星術』という概念が生み出されてから千年ほど経つ現在の最新研究でさえ、やっと世界の姿を捉えてきた所なのだから。
(…、シスだっていける、私だって!)
ビトレイの目標はそこに固定された。
「発射」
一体、また一体と”半牛人”が倒れていく。
既に百回以上角を曲がったが、そこは見えない。微かに傾斜した床だけが、地下へ潜っていることを意味している。
地下へ行くほどに”半牛人”の出現率は上がる。今では五十mの通路に六体はいる。しかし集中したビトレイが『実体破壊』でシスたち前衛が手を出す暇さえなく瞬時に屠る。
「…すごいね…」
「そうだな…」
リーナの声に、シスが答えた。
「だがもうそろそろだと思うぞ。」
「え?」
「もうそろそろユルド森の『発生迷宮』と同程度の深さに達する、ということさ。」
果たして。
ナタージャがうらやましそうな顔をする中、次の角を曲がると―――。
大広間が、一行を待っていた。
読んで頂いてありがとうございます!
ブックマークが2倍に増えました!っと言っても2個ですが…
シスの魔法技能の建前が出てきました。では実際の所はどうなのか、もうそろそろ予想できてきた方いらっしゃるでしょうか?
次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




