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歓談の勇者

 午後九時。


 普段日の入りと共に休息準備に入る一行にとっては、もう夢の中にいてもおかしくない時間帯。だが、屋敷の一番奥まった豪華な窓の無い部屋に集まっていた。


 窓の無い部屋にしたのは、外の魔物に気付かせない為。既にこの部屋以外の燭台の火は消している。


 目的は現在位置の確認と、今後進路の確認。シスが一行に入ったため、予定進路の再確認、ということもある。


 …のだが。


 そこには恥ずかしがってシスと目をあわせようとしないリーナ、ビトレイとシスを射殺しようとする視線で見るナタージャ。うらやましさと憎さをブレンドしたような目を向けるキールと、全く分かっていないアチェリーの姿があった。


 無論、シスにとっては居心地は良くない。むしろ、針の筵状態だ。


 (いや、確かに悪いのは俺だが…)


 そう、悪いのはあんな所でまどろんでいたシスだ。寝ていたので完全に体重を掛け切っており、ガチャっと内開きの扉が空いた時上半身が扉を押しのけて部屋に入ってしまうのは、仕様が無いことではないのか?


 たとえれそれが数センチだけあけて、「もう少しだけ待ってて」と言おうとした瞬間でもだ。


 背中を打ち付けて目覚めたシスが見たのは、桃源郷だった。


 上下反転した世界で見た、四人の少女達。


 「…へ?」


 目覚めたばかりのシスが対処できないのは仕方ない。


 しかし次の行動はまずかった。


 「キャァァー!!」


 可愛らしい、しかし魔物に気づかせないため小さな声で叫んだリーナが手に持つ桶を投げつけてくる。


 それを反射的に弾いた所でシスは自分のしでかした失態に気が付いた。


 「何で弾いてるの?」


 ナタージャの怖い声が風呂場に響く。


 シスは急いで上半身を起こし、扉を閉める。


 「どう…」


 「後は頼んだ」


 キールの言葉に短く被せてシスは言う。


 そして逃亡を開始した。記憶どころか命の危機を感じたからだ。


 三分後。


 「しーすぅぅぅ~?」


 完全なる武装をつけたナタージャが風呂場から飛び出る。


 「魂まで干渉してみたこと自体魂から削りとってやる~!!」


 その後、一時間は続いた命がけの鬼ごっこに、魔物が気づかなかったのは奇跡に近い。




 「アチェリー、進路を確認する為の話だと思ってたんだけど、始まらないね!」


 アチェリーがキールに近づいていった。


 「キール! お話しよう!」


 …全く空気を読めていないアチェリー。だが一つわかることは、アチェリーはキールが気になっているということだ。…いや話の渦中にいないということだけかもしれないが。


 「フン…。まぁ始めるわよ」


 ナタージャが怒りを込めていった。リーナやビトレイは使い物にならないと判断したらしい。


 ナタージャはどこからか取り出した丸めた紙を、大机の上に拡げた。


 「今私たちがいるのはデカリア草原の丁度中央。西よりの都市、ディーリアね。魔王のいるクラクナ火山へは丁度北東。最短距離は北東へ突っきること。それにはミナタ川を越えドーラ湿地を抜けて、トラル川を通ってシラカタ山脈を越えるしかない。シラカタ山脈を越えれば見なる森に出て、そこを抜ければクラクナ火山だ」


 「前も言ったけど山越えは何とかならないのか? そこが一番時間がかかる、そこを短縮すべきだと俺は思うぞ。」


 「だから、シラカタ山脈の先はミナル森以外未開拓領域なのよ。シラカタ山脈を迂回すると未開拓領域に行くことになるから試行錯誤してる暇は無いのよ。」


 キールとナタージャが意見を交わし合う。アチェリーはキールの言うことに頷いているし、リーナとビトレイはやはりシスと目をあわせようとしない。


 (流石にこんな状況は体験したことが無いな…。俺と彼女の関係はほぼあの部屋で培われてきたからな…。俺が魔法を失ってからは(・・・・・・)逆に俺が試されてる感じだったが…)


 「とにかく!」


 延々とキールと議論していたナタージャが大声を出した。


 「私たちは最短距離を北東へ抜ける! それでいいよね? リーナ」


 「…! う、うん、…いいと思うよ…」


 急に話をふられたリーナは慌てたが無難な答えを返す。


 そこで顔を上げたリーナだったが、シスの顔を見て顔を赤くし顔を下へ向ける。


 それを見てナタージャの意識がシスへの怒りを思い出す。


 「シス?」


 …シスはそこに死神の刃を幻視した。


 死神の鎌はすでに自分の首に添えられ、鎌が後一ミリでも動いたらシスの魂は刈り取られるだろう。そんな空気をナタージャは醸しだしていた。どうやら一時間も逃げ回っていたことで怒りは発散されず、逆に増幅されたらしい。


 シスがブルッと体を震わせる。


 「約束どおり…、頂くよ?」


 死神の鎌が動く、その瞬間。


 救世主が、現れた。


 「…ナタージャ、いいよ…。私が後で話しておくから…」


 「ダメよリーナ。こんな男といたらリーナが汚されてしまうわ!」


 「…大丈夫だから。シスはそんなんじゃないわ。私も武器を持ってるし…」


 「そう…、なら、いいけれど…」


 死神の鎌が無くなる。


 その事に安堵しながら、シスは言った。


 「…もう九時半だ。明日もあるし、今日は寝よう。」


 「…待って…」


 突如、ビトレイが言った。


 「…今度、一発、撃たせて」


 やはり顔を合わせようとはしなかったが、それは確実にシスに向かって言っていた。


 「…わかった」


 (それくらいの埋め合わせはしないとな…。っていうか、一発って結構ヤバイんじゃないか…?)


 


 「そうね、寝ましょうか…」


 ナタージャのその一言で、六人は男女に別れて就寝に入る。




 「…うん…」


 リーナは夜中、目を覚ました。別に何かに気付いた訳ではない。ただ、夜中にパッチリと目が覚めたのだ。


 (トイレにでも行こうかな…)


 そう思って廊下に出たリーナは、外で赤い光が瞬いているのに気付いた。


 (なに…?)


 不思議に思ったリーナは、片手直剣を携え外へ出た。





 光は炉だった。


 庭では、シスがどこからか取り出した二メートル程の炉で作業している。ルビーの魔封宝石を使って炉の温度を調節しているようだ。


 リーナが近づくと、シスのほうから声をかけてきた。


 「どうした、こんな夜中に。」


 「…それはシスも一緒でしょ…っ」


 赤々と輝く炎は数千度に及んでいるようだ。炉の上部に置かれた二メートル四方の立方体に熱を送り込んでいる。


 「…何をやっているの?」


 「…見ていれば分かるさ。危ないからあまり動くなよ。」


 「…うん…」


 「『武器庫(アーセナル)』」


 シスはそう呟いて二種類の紙袋を取り出すと、炉の丈夫にある立方体の中へ分量を計って入れる。


 「加圧、開始。温度最大温度をキープ」


 途端に炉の中と立方体から魔力が、魔法の気配が現れる。


 (魔法封石を使ってるのかな…?)


 「これで三十分で出来る」


 シスはそう言うと、夜空を見上げた。


 「綺麗だな…」


 リーナもその声に導かれるように空を見上げた。


 「…! ホントだ…!!」


 満点の空に広がるは幾千もの星々。見守るように、眺めるように星々は煌いている。


 「…シス…」


 「…なんだ?」


 「私…知らない記憶があるの…」


 リーナは他の人に話すまい、と思っていたことを、とうとう話し始めた。


 「私は覚えていないのに…でもその記憶の欠片を見ると、それは私だって思えるの…。どういうことなのかなぁ…!」


 「…」


 「…それでね…、そこにはシスも出てくるんだ…」


 「…っ!?」


 「…、うん。シスと、たぶん私が真っ白な部屋で戦ってる記憶…。おかしいよね、シスと私はユルド森で始めて会ったはずなのに…。」


 「…違う」


 「…え?」


 「君と俺は、あそこが初めてではない(・・・・・・・)んだ…」


 「…ッ! ていうことは、シスはこの記憶を覚えているの?」


 「…あぁ」


 「…じゃあ教えてよ! この記憶はなんなのよ…!!」


 「…ごめん、今は教えることは出来ない…。 でも必ず教える。君と俺が巻き込まれた全ての話を…」


 「…わかった、待ってる。…それはシスが魔力があるのに魔法が使えないことに関係があるの…?」


 「…! 思い出したのか…?」


 「ううん、ただの勘。」


 「…そうだ…。明日…いや今日か。他の四人にも話すつもりだった。…一応の建前をな。君には必ず全てを話す。それまで待っててくれないか?」


 「…うん…。」


 「綺麗だね…。」


 「あぁ…。地上ではどれだけ争っていようとも、星は変わらず輝き続ける。星は俺たちを見ているんだ…。そう言う意味で、世界の理を知る『星術』と名づけられたのかもしれないな…。」


 「そうだね…」


 そうして2人は、夜空を飽く事無く見続けた。





 「…っ! もうそろそろかな…?」


 「…なにが…?」


 「これさ」


 シスは炉の炎を消し、言う。


 「リーナ、下がっていろ。…加圧、終了」


 立方体から発せられていた魔法の気配が消える。


 シスは立方体の蓋を取り出すと、中に手を入れて物を取り出した。


 「ほらっ!」


 「うわあああ!!」


 そこにあったのは、ダイヤモンドだった。十センチは下らないだろう大きさのもの。流石にブリリアン・カットはされていなく、琥珀のような形をしていた。


 「これって、もしかして…!」


 「あぁ、魔封宝石(ジュエル)だ。後で魔力を注入するといい」


 「すごい…。でもどうやって? 普通の宝石と魔封宝石の違いは分かってなかったはずだけど…。人工宝石で魔封宝石を作った、ていう話は聞かないわよ…?」


 「フッ、秘密さ。」


 「…あっ! もしかしてあの起きるのが遅い朝はこれを夜やっていたから遅かったの?」


 「…そういうこと。更に使った魔封宝石に魔力を込めていたからかなり疲れたのていたのさ。」


 「そういうことね…」


 シスは『武器庫(アーセナル)』から白銀のペンダント代を取り出し、ダイヤモンドを取り付ける。


 「君に上げるよ。全てを話すという約束の証だ」


 同じく白銀に輝くチェーンをつけて、リーナに差し出す。


 「うわぁぁ!! ありがとう、シス! …これであのお風呂のことは不問にして上げます。」


 「ハハッ! それはありがたい…。」


 リーナは首からペンダントをかけると、ダイヤモンドを服の中に入れる。


 「ね? これで誰も気付かないでしょ?」


 「そうだな…」


 視すとリーナは夜空を見上げながら話し出す。


 幾千もの星が、やさしくそれを眺めていた。

読んで頂いてありがとうございます!

今回はいつもより長くなりました。趣向もいつもと違います。…こんな感じの話も気に入っていただければ嬉しいです。

誤字脱字、ご意見等何でも歓迎です!

次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!

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