激突の勇者 後編
「第二ラウンドだ…、勝負しろ№6……!」
油断を捨て、余裕を排したサンが体に魔力をめぐらせながら宣言する。
そして、膨大な魔力が放出される。
サンが全力で魔力を制御した余波だ。
「シス…!」
リーナが思わず声を上げる。
感じられた魔力量はリーナやナタージャには及ばないものの、冒険者で言えば一握りの天才の域といわれる、A球レベルだったからだ。
魔法を扱えないシスが勝てるような相手ではない、とリーナは一瞬だけ思った。
しかし。
(それでもシスは勝ってくれるはず。私が勝てなかった相手をああも簡単に倒してくれたシスなら…!)
それは、ある種の信頼。
少し顔を赤らめて、リーナは叫ぶ。
「頑張って! シス!」
(…ッ! …っしゃぁっ!)
シスの体に力がみなぎる。
高まる力。視線にスパークが乗り空中で火花が散る。
瞬間。
シスとサンは同時に地を蹴った。
真正面から互いの右拳が互いの頬に迫る。
『攻性鎧』で身を包むサンが圧倒的有利。目立つ凹凸はないが硬く、重く、そして効率よく相手に衝撃を伝えるよう目立たない程度に加工された鎧は、拳で投げる攻撃を数倍から数十倍ほどに引き上げるだろう。
しかしサンの顔に慢心は見えない。自分と対等の敵だと認めた相手、シスが何もしない訳がないからだ。
果たして。
「『武器庫』」
サンが最も警戒すべき声が響く。
萌葱に輝く水晶がシスの拳の先に現れ、サンの体に当たる前に拳と水晶を受け止めた魔力フィールドで圧搾され破壊。
萌葱色の水晶、暴風結晶が魔力を風に変え、吹き荒れる旋風。
反動で再び引き離された両者、口を開く。
「その指輪…!」
「魔力フィールド…」
今の短い接解から相手の手札を暴き出す。
「トパーズのジュエルか。ハハッ、空間接続した先に武器を隠し持ってんのか!?」
「魔力フィールドの性質を変えたな。斥力ですべてを弾くつもりか?」
そして。
「ハハッ!その魔封宝石は後何回使える? 中に溜まっている魔力は後どれくらいだ?」
「魔力フィールドに割いている演算領域はどれくらいだ? どれだけ攻撃すれば足りなくなる?」
即座に弱点をも暴く。暴いた上で相手を自らの得意な土俵へ引きずり込もうと戦闘を開始する。
「つまりはお前の魔封宝石の魔力が尽きるまで逃げれば俺様の勝ちだ。ハハッ!」
「お前が魔力フィールドを維持できないほど演算が必要な飽和攻撃をすれば俺の勝ちだな」
(ダメ…!)
リーナは心の中で叫んだ。
短期決戦を計るシスと、長期決戦を目指すサン。互いにどちらが上手くいくか、戦場は拮抗しているように見える。
しかし。
(魔法を使えないシスは気付かなかったんだ…!全身を覆う魔力フィールドは、注ぐ量を増やせば強度は無制限に増加する…!飽和攻撃をされても魔力フィールドの維持を全力でされれば意味がない……!!)
そう、実際はシスの不利。シスの思っている方法では、魔力フィールドは破れない。
リーナはシスを信じて戦いの一挙手一投足に神経を集中させて見る。
そして気付く。
シスの口が嗤っている。
リーナとシスが戦ったとき、シスが盾を物理的風化で壊したときと同じように。
口元が綻びている。
それを見てリーナは思う。
(…! つまりは狙い通りってこと……!? 何を狙って……ううん、頑張って、シス!!)
(さて…超短期決戦と行くか…!!)
シスは思う。
魔法とは、すなわち構造を持った、又は内蔵した魔力だ。しかし構造を壊してやれば元の魔力に戻る。
例えるなら、水に形を与えることが魔法で、形を崩せばそれはただの水に戻る。
しかしそれをどう壊せばいいのか。石を投げても波紋が出来てすぐに戻る。
簡単な事だ、とシスは思う。
押し流して歪ませればいい。
シスは構造を与えていない莫大な魔力を放出する。
体外魔力操作で形を与えないままの魔力は、向きと力を得て、サンへ殺到する。
「なん、だと…!?」
サンが驚愕で固まる。一行も同じ気持ちだったが、同時に納得もしていた。
指輪、『武器庫』は、この戦闘力だけではなく、旅の最初から使っている。魔力切れを起こしてもいいはずなのに、その様子は見せなかった。
それはシス自身が充填していたからなのだ、とすれば納得がいく。
しかし。
(…! あれ程の、私やナタージャでさえ上回る量の魔力があって、魔法が使えない!? そんなはずがない……!!)
それはリーナの心に新たな疑問を生み出した。
というが、サンはそんな事を考えている暇もない。
『武器庫』の魔力が切れるまで逃げる作戦が、魔力切れは起きないという事実の元に使えなくなる。
「クソが!!」
とりあえず魔法である魔力フィールドが魔力の濁流に押し流されないよう、魔力フィールドに全力で魔力を流す。
このときサンは気付いていなかった。
自分が最悪の選択を取らされていること。
「『武器庫』」
サンの耳に、シスの声が飛び込んでくる。
シスの手にはHSNCが握られている。
(…魔力フィールドは面倒くさい、が、完璧な防御ではない)
サンの本能が、全力で警鐘を鳴らす。
サンは自分のミスを悟る。魔力フィールドの維持ではなく、逃げるべきだったのだと。
「だが斥力発生魔力フィールドは破れぬはず!! ニュートリノはなおさらにな!」
しかし、サンはやっと気付く。いや、シスが気付かせたのか。
シスは嗤っていた。
(バカな…!!!)
隠し様がないほどに。
(バカな……!)
自分の掌の上で踊っていたサンを見て。
(HSNCを撃ったのも、短期決戦を仕掛けたことも、俺様が斥力発生フィールドを張ったことも、すべて誘導したというのか…!?)
「HSNC」
シスが、呟く。
(『武器庫』という指輪も、戦闘パターンが同じだったことも、全てはこの状況を作るため…!?)
「スイッチ」
シスが、呟く!
(ならば斥力発生魔力フィールドも計算のうち? …バカな、これを貫けるはずがない……! しかし………!!!!!)
「オン」
「ガああああああああああああああああああああ!!!!!!」
シスが、呟く!!
HSNCからニュートリノが発射され、魔力フィールドを通り抜け、サンの体の陽子を連鎖崩壊させる。
「トンネル効果。斥力を発生させるということは、反作用で引力を発生させるという事だ。そして斥力と引力を発生させるポテンシャル障壁では、障壁のエネルギー量に満たないエネルギーしか持たない粒子でも、ポテンシャル障壁を通り抜けることがある。…素粒子であるニュートリノを量子力学ではなく古典力学で考えたことが失敗だ」
「…が、ぁ…っ、なる、程…!」
頭と胴が半分しか残っていないサンが言った。
「シス…、気を、つけろ…。博士は、№0、を、回収することを…、諦めはしな、いぞ…、がぁ…!」
「あぁ」
シスが静かに呟く。
「HSNC、スイッチオン」
サンが消えた。それは、暴虐の破壊ではなく、死者の尊厳を守る弔いだった。
「さよならだ、サン…、仲間よ…」
シスの小さな呟きは、誰の耳にも入らず風に流れていった。
読んで頂いてありがとうございます!
対立軸の相手初めてのバトルが終わりました。魔物相手のバトルとはかなり違うように味付けしたつもりですがどうでしょうか。
次回から2から3回はバトルは抑えてシスとリーナについていくつもりです。
誤字脱字、ご意見等何でも歓迎です!
次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




