攻略の勇者 後編 ユルド森『関の守護者』
そこには、特大の魔力をこめた一つの魔法と、莫大な魔力を込められた多数の魔法が合った。
特大の一はナタージャ。
莫大な多はビトレイ。
どちらかと言えば魔法特化である2人は、成長幅で言えば一行の中で一番大きい。
「……! ! 」
ビトレイのような台詞を放つのは、ナタージャ。
彼女は今、精密且つ繊細な魔力捜査に没頭していた。
ナタージャが選択した鍛錬は、魔法の高威力化。これまでにある魔法へ、魔力を注ぎ強化するのである。
そもそも魔法とは、魔力が構造を持って他の現象に変換される現象である。すなわち魔法とは、構造と魔力量、この二つを変えることで全てを表せるのだ。
そして魔法には、一番扱いやすい魔法量、という者が存在する。炎弾には炎弾、氷礫には氷礫固有の構造がある訳だが、その構造を再現するのに適切な魔力量があるということだ。
魔力量を少なくすれば当然構造も小さくなり、構造を与えるのが難しくなる。魔力量が多ければ構造が大きくなり、細部まできちんと構造を与えなければならなくなる。
それをカバーする技術があって初めて、魔法の威力をコントロールできるのだ。
ナタージャは、魔力量を増やした上に魔法となる構造を更に小さな構造で構成し、威力を何千倍にも増やしたのだ。
『繊細織魔法』。
並の魔法使いがどれだけあがいてもたどり着かない場所へ、ナタージャは到達する。
…勿論、デメリットもある。
あまりにも魔法が精緻すぎて、魔法に構造を与えている間他の事が何も出来ないのだ。構造を与えるのにかかるのは、およそ十倍の時間。しかしそれでも数千、数万倍の威力をたたき出すナタージャの実力が恐ろしいことが分かる。
「…、……! ! 」
こちらはきちんとビトレイだ。
ビトレイはナタージャのように魔力量を増やして威力を上げる、ということは出来ない。
何故なら、定式化された魔法を最適化し魔力使用量を下げる、という魔法銃のコンセプトに反してしまうからだ。
数分前のビトレイはこう呟いた。
「…『2024式全銃統合砲』、『多重起動』。」
次の瞬間、ビトレイが撫でていた紺のマジックポシェットが怪しく光り。
――、少女は兵器となる。
背中から伸びる幾本もの懸架脚に支えられ、何本もの銃がビトレイの周りを囲み神の刃のように敵の死を暗示させる。
「…。『百丁斉射』、有効化。」
ビトレイが出来る唯一の方法。それは多重行使。百もの魔法を同時に操り、敵を撃ち滅す。
魔法銃50、星術銃50の100丁の銃はそのすべての照準を一つの透明なプレートに集約させ、命令一つでその暴虐を開放しようと準備を始める。
その中、ビトレイは鉄の塊に囲まれて、魔力操作に集中する。普通の魔法使いは多くても五つの魔法しか同時に扱えない。その二十倍もの魔法の多重行使に、全神経を集中させる。
すべての銃がで段々とその力を現していく。魔法銃は重厚の奥が光り始め、星術銃は駆動音を響かせ始める。
両者とも、一瞬でも操作の手が離れれば、一手でも構成を誤れば、即座に『魔力爆発』で大爆発を起こす。
そんな二人が極大の威力を持つ、性質が正反対の魔法を準備し終えたのは同時だった。
「『繊細織魔法』、『炎熱の地獄』」
「『マルチファイラー』、『百丁斉射』」
瞬間、攻撃が放たれる。
「行け! 」
「発射! 」
閃光が炸裂し、音が消えた。
純白の閃光が目を焼き、衝撃が体を震わせる。
咄嗟に飛び退いたキールとリーナを空中で弾き飛ばし、ミノタウロスを焼き尽くす。
後に残ったのは、チロチロと踊る小さい人、飛び散ったミノタウロスの破片だけだった。
「…っ、やったー! 」
リーナが子供っぽくそう叫ぶ。そして他の四人の方に駆けて行く。
だから、気付かなかった。
ミノタウロスの肉片が、ずず、と動いて集まろうとしていることに。
このミノタウロスの強化されたところは、物理防御ではなく再生だったのだ。
見る見るうちに元の巨体を取り戻していく。流石に大斧までは治らないが、ほとんど完全回復だ。
そして己に背を向ける人間へ、元来の硬い皮膚に覆われた拳を振り下ろす。
「リーナー――――――! 」
ナタージャが叫ぶが間に合わない。拳が風を咲く音と共に、リーナへ迫る。
リーナが後ろを向き、恐怖で顔を引きつらせる。
瞬間。
「『武器庫』」
声が、響いた。
「HSNC、スイッチオン」
シスがその星術銃へ攻撃を命じる。
ミノタウロスが、その巨体が、痕跡すら残さず消し飛んだ。
「…シス…、ぐすっ、うえぇぇぇぇぇぇえん! ! 」
リーナがシスへ抱きつく。
ここに、ユルド森『関の守護者』は攻略された。
読んで頂いてありがとうございます!
これでユルド森編は終わりです。
次回からはデカリア草原での冒険の予定です。
誤字脱字、ご意見など何でも歓迎です!
次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!




