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ネットダイアリ-56-  GNAワールドの夜明け前 -6-

 コンピュータ技術者であった父の周りには、新しい機種から古い機種までの十数台のコンピュータがあった。子供のころから、父と一緒にコンピュータに触れ、時には、父から魔法のような、画像や現象を見せられていた。


 御影は、生まれたときからそんな環境で環境で育った。


 父から、遊び程度のプログラムを教わると、それをすぐに応用し、自分のものにしてしまう我が子に、英才教育という感じでなく、父と子の会話のように、コンピュータ漬けの幼少時代を送った。御影の父は、師匠であり、唯一、趣味を語れる友達であった。そんな父も、子供の旺盛な好奇心に答えようと、新しいプログラムやコンピュータを買い集め、子供とともに日々を暮らした。


 もちろん、御影の父は在宅ではあるものの、立派なプログラマー兼プロダクトマネージャーとして、生計を立てていた。


 御影の母は、特に、コンピュータに関係がなく、また、いわゆる理科系というわけではなかった。父との出会いだの興味のなかった御影は、特に、母に興味を示さず、恐らく、家政婦やメイドのようにしか意識していなかったのだろう。


 御影が生まれた当時は、どうだったかなんて御影は知るわけがないわけで、父が御影に対しての入れ込み方から、父子ともに、母には興味がなくなっていた。


「おとうさん。今晩食事ないよ」

 いつも、食事が用意してある食卓に何もなかった。もう御影は、来年から小学生になるときだった。

「ああ、頼み忘れていた」

「お母さんが作るんじゃないの?」

「今日からね。お母さんはいないんだよ。お父さんと二人で暮らすことになったんだよ」

「そうなの」

 御影には、あまり、実感がなかったようだ。

「おし、ピザにするか」


 父の仕事は、順調だったのだろう。日に1回家政婦さんが来て、家事をして帰っていた。


 御影には、母との差はあまり感じなかったようだ。

 父とともに、いろんなプログラムを作り、対等に語り、時には、教えてもらいながら、日々を暮らしていた。中学に入ってからわかったことだが、御影は、父の代わりに多くのプログラムを書いていたそうだ。

 そのことに関して、御影は、利用されたという気持ちはなく、逆に、父を助けていたことに感動し、また、自分の書いたプログラムが世の中に認められていたことがうれしかった。


 御影には、こんな話もあった。

 ちょうど、母が家を出て行ったころだろう。小学校のコンピュータ授業はで、よく授業そっちのけで、自分の好きなようにプログラムを書いては遊んでいた。


「外から、ゲームを持ち込んじゃダメでしょ」

 御影が何のことかわからず、職員室に呼ばれたときがあった。

「・・・先生。それ、僕が作ったんです」

「それでも、外から持ち込んじゃダメでしょ」

「先生が自由に書いて見ましょうといったから、書いたんですけど・・・」

「うそは、もっとダメでしょ」

「本当だよ。今先生の前でやって見せるよ」

 御影は、先生の机にあるパソコンを指し、簡単なゲームのプログラムを始めた。

 10分ちょっとで、単純なゲームを作って見せた。

 もちろん、その作業を見た先生は反応できず、

「教室に戻っていいわ」

 と、御影を呼び出し、怒ったことを謝りもしなかった。


 それ以来、恐らく「問題児」的な扱いになったようで、中学校まで、先生から相手にされなかった。


 中学時代は、仕事に専念していた。もちろん、父の手伝いである。

 というより、父のほうが御影を手伝っていた。

 未成年を働かせてはいけないといっても、御影にとっては、遊びでしかなかった。心の奥底では、父の役に立っていることに喜びを感じていたのだろう。


 父のプログラムの手伝いをしながら、ネット上の各種プログラムのコミュニティに参加していた御影は、ハンドルネーム:Shadowでいろんな問題を解決していた。

 このころ、翻訳機能が発達してきているものの、御影は、海外のフォーラムに英語で参加しており、Shadowというハンドルネームは、海外のプログラマーの間でも有名になっていた。


「最近、Shadowと天才プログラマーが話題になっているのを知っているか」

 父から、プログラムを組みながら、世間話らしい話があった。

「聞いたことあるよ」

 特に、父に自分がShadowであることは、いうつもりじゃなかった。何か気恥ずかしい感じがする、というのが本音である。


「今度企画に是非参加してもらいたいんだけど。おまえも聞いたことあるだけか」


「ネットで呼びかければ、いいんじゃない。いくつかのフォーラムで名前があるよ」


「まあね」


「僕が頼んでみるよ」


「おお、そうか。期待はしないけど頼むよ」


 どんな依頼なのか知りたいところだが、いったんは、Shadowにコンタクトしたことにしてみよう。



「おとうさん、返事が来たよ。企画内容によるけど、少しなら手伝えるかもって」


「じゃあ、どうせ、おまえも巻き込むつもりだったから、この企画書を読んで、先方に伝えてくれないか」


 渡されたのは、通信型マイクロメモリだった。

 指紋認証という、古典的な暗号化だが、データそのものは、暗号化されて、ネット上にあり、暗号化のアルゴリズムがメモリに入っている仕組みだ。


 企画書の内容は、「Grand Network and our Ground」であった。


 御影は、企画書の内容に目を通し、Shadowと御影父の両方を演じることになった。

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