ネットダイアリ-55- GNAワールドの夜明け前 ー5ー
江原は、戸村のコンピュータ研究部について、忘れていたころ、突然、中国の大学の友達から連絡があった。
何でも、日本の天才ゲーマー「Tomura」が中国のチームを圧倒したということらしい。勝負のほうは、中国チームの勝利だったそうだが、そのプレイヤーについての情報がほしいということだった。暗にスカウトしたいということらしい。
もちろん、江原には心当たりがあった。コンピュータ研究部の戸村のことである。
さっそく、ネットで調べ、戸村本人であることを確認するため、ゲーム関連の記事を探した。「Tomura」の名前は、外国のゲームサイトに載っていた。最近開催された大会でMVP選手として表彰されている。
「すごいな」
江原は単純にそう思った。
MVP選手として選ばれることは快挙なのだが、日本での報道はなかった。おそらく、興味がなかったのだろう。もしくは、ゲームは子供のものという固定概念があるのだろうか。
江原は、放課後コンピュータ研究部に行って見た。戸村ともう一人、コンピュータに向って、軽やかな早いキータッチでパソコン画面を見ている人がいた。そのとき、江原は知らなかったが、天才プログラマー「シャドー」と言われている、御影がプログラムを書いていたのだ。
江原が部屋に入ってきて、戸村が振り返って、
「おお、江原君来たか。待ってたぞ」
「いえ、コンピュータ研究部に入るわけじゃなく、戸村さんに用があって来ました」
「そうか。残念」
「戸村さん、この前の5対5のゲームでのMVPだったそうですね。おめでとうございます」
型どおりの挨拶で切り出した。
「お、それを知っている日本人は少ないぞ。どこの情報だ」
すぐに中国の大学からの情報だとは伝えず、
「たまたま、外国のサイトで見たので」
「で、で、興味持った」
「まあ、そうですね。世界的な人が身近にいるなんてびっくりしましたから」
「そしたら、メンバーになって世界制覇しようよ」
苦笑いをしながら、この戸村のペースから、中国のスカウトの話に持っていくのが難しいところ、話を合わせ
「そうですね。それも面白いかもしれませんね」
「だろ~。いずれ日本チームが世界大会を制する時代を俺が作る」
この時点で、中国チームへのスカウトは終わった、と思ったが、ここまで来た以上、もう本当の目的を伝えようと思った。
「実は、中国から、戸村さんをスカウトしたいという話があって、戸村さんに直接伝えようと思ってきたのです」
「あ~。声かけられたよ。英語だったからあまりわからなかったけど、うちのチームのメンバーからは、行けって薦められたよ」
「知ってたんですね」
「あ~」
「さっきの言葉のように、やはり、日本人のチームにこだわるのですか」
「気持ちとしては、日本人でのチームを作りたいね。一番の理由は、ほかの言葉で会話するのがめんどい」
なるほど、日本の教育での英語程度ならコミュニケーションの壁は高いだろうな、と江原は思った。
江原は、中国語はもちろんのこと、英語も堪能だ。小さいころの環境から得られた恩恵は、意識しないうちに言葉の壁はなくしていた。
「日本語の通じるチームなら、どこの国のチームでもいいってことですか」
「それはどういう意味?」
「私がチームに加わって、日本語のチームを作ったら、中国のチームとしてやっていきますか」
「そうなるのか。江原君って、中国の人とそんなに深い関係あるの」
「ええ、友達がいまして」
「この前の進路調査のこともあるから、それもありかな。でも、江原君がいることが絶対条件かな」
「まだ、3人必要ですよ」
「前回の試合で集めたメンバーは、ネットで集めたんで、思うように動けなかったから、負けてしまったけど、部活で一緒に練習できる仲間が一人でもいるとものすごく楽だと思うよ」
「よく知っている仲間が一人いればいいということですか」
「まあ、最悪ね」
孤立していて、学校に来る意味がなかった江原にとっては、戸村に付き合うのも暇つぶしにはなるだろう。戸村さえいれば、孤立感が和らぐことだろうし。江原は、戸村のいるコンピュータ研究部に入ることにした。
「わかりました。戸村さんを援護しますよ。よろしくお願いします。その代わり、中国のチームにも参加してください。会話は、出来る限り通訳しますから」
「そか。中国語も英語も大丈夫なのか。こりゃすげーな」
戸村の野望を補佐する江原のペアが出来た。




