ネットダイアリ-53- GNAワールドの夜明け前 -3-
「同志、アリサカ。育成は順調そうだね」
パソコン画面上の向こうでは、青い瞳をした鼻が高く、堀の深い白い肌の茶髪の人物が映っていた。
「ノメリコフ同志も順調そうじゃないですか」
「うちは、国民の楽しみが少ないから、GNAのような娯楽は暇つぶしにいい」
「見ていると、あまり向上心がないように見えますよ」
「確かにプレイヤーの行動から見ると、組織として行動できていないと思う」
「なにか対策はあるのですか」
「それを君に聞きたい。日本ではどうなんだ」
「同志も今の日本の状況は、ご存知でしょう。みんながいろんな娯楽に走り、少しつまらなければ、違う娯楽に走るという状態を」
「確かに、自由との引き換えとはいえ、もまとまりがないのにもほどがある。まあ、島国だから、危機意識が足りないのだろう」
「そうなんですよ。その危機感の無さから、俺がロシアのワールドを選ぶ理由なんですよ」
「で、ロシアのワールドの状況はどうかな?」
「期待していたわりには、苦労してますね」
「実世界ではないから、自由なんだよ。国民は、その自由をGNAに求めているかもしれないかな」
「日本では、入り口の自由。ロシアでは、内なる世界での自由ですか。人種が違っても求めるものは同じということですね」
「同志アリサカ。実世界でも人類という生き物は人種や宗教が違っても同じなんだよ。例えば、民主主義と言った、一見自由に見える世界でも、人間の求める欲望のベクトルは同じ方向に向いている」
「それ、わかりますね。お金、権力、地位、名誉。国の構成が違えども、求めるものが一緒ですからね」
「GNAは、その凝縮版といえるだろう」
「情報では、キタンの日本勢力が活発に動いているとの話だが、同志アリサカには情報が入っているかな」
「ダー。うちの高校の先輩たちらしいということは、ミールソフトの社員が言ってました」
「面識はあるのかね」
「あるといえばありますが、最近、そのグループから脱退したところです」
「それは、残念だ。情報を探れる機会を逃したか」
「いえ、相手には、GNAの製作を手伝った人がいるんです」
「規約では、製作者のプレイは禁止しているはずだが?」
「ダー。プレイはしてないようです。ただ、まだ、メンテナンス要員として、ソフト開発に従事しているらしいです」
「そうしたら、同志の判断は正しかったかもしれない。日本でのロシア工作員は、今のところ同志アリサカだからね」
「これから、日本の同志を増やす活動をしますか」
「いや、まずは、国内のプレイヤーの底上げが必要だ。同志には、それに尽力してもらいたい。そのためのカミン権限を与えたのだよ」
「ダー」
「まさか、日本人から、しかも高校生から、ロシアワールドのカミン権限がほしいというメールが届くとは思わなかったよ」
「俺は、欲望に忠実なので」
「まあ、まさか、日本でのカミン権限が、出来レースだったとは驚きだよ。それこそ民主主義に反している。そうは思わないか」
「想像はしていましたけど、まさかこれほどまでにあからさまとは思いませんでした」
「同志アリサカは、なぜ、その情報を知っていたのかね」
「内通者はどこにでもいるものですよ」
有坂は薄笑みを浮かべ、パソコンのGNA画面を見ていた。




